Episode11 - 試しは必要
攻撃する為に前へと駆けだしたのではない。
避難する為に前へと出たのだ。
……このまま扉の前に居ると、後ろから来たゴブリンに攻撃される!
それが戦闘行動とシステム的に認識されたのだろう。
私の視界の下部にはマーテルの名前と共に、赤いHPバーが出現し迫真な音楽が流れ始める。
これが普通の、それこそソロではなくパーティを組んでいたならばテンションも上がっただろうが……現状、それに興奮している余裕は一切ない。
「狙うは……って君本当に急所とか何処なの!?」
無論、私の足が向かう方向に居るのは巨大な肉塊の様なマーテルだ。
戦闘になってしまった以上、戦うならばオーガと同じ様に急所を狙いたい所……なのだが、生憎私は肉塊の急所など知識にない。
故に、勢いのまま近付いて……試しに一度、思いっきり殴りつけてみれば、
『あらァまァ。痛いじゃないの』
「そう言いながらHPは全然減ってないじゃんか……ッ!?」
『私の仔よ、仔達よ。その不届き者に身の程ってモノを教えてあげなさいなァ』
まるで柔らかいゴムの様なものを殴った様な感触が手に伝わってきた。
当然、ダメージはミリも与えられていない。それどころか、私が殴った場所から突然小さい手が無数に生え……否、産まれた。
ゴブリンだ。今まさに、マーテルの肉塊の様な身体から生えるように産まれ。命令に従って私へと襲い掛かろうとしてきているのだ。
……ッ、そんなんありなの!?
お互いに素手、しかしながら数が多い。
最初は3体。そこから更に3体、追加で3体とまるで分身でもしているかのようにゴブリンが増えていく。
産まれてすぐだからなのか、HP自体はそこまで多くはないものの。やはり数というのは脅威だ。
1体1体を対処しようとしても、背後や左右、果ては仲間の背を踏み台に跳び込んでくる個体まで居る始末。
「くッ、そ!」
「ゲヒャ!」
「ヒヒィ」
「ギッギィ!」
【捕食】によってバフを掛けたとしても、オーガの時の様に全ステータスを強化するようなバフを引く事が出来ない。精々が攻撃力増加などで、劇的に状況が変わる様なものは無い。
だが気が付いた。
視界の下部に表示され続けているマーテルのHPバーが少しばかり減っている事に。
……もしかして……?
今も私に群がって、殴る蹴るという原始的な攻撃を繰り返しているゴブリン達の中の1体の足首を掴み。
ジャイアントスイングの要領で一度蹴散らすと。
「だらぁっしゃぁ!」
「ギァ?!」
振り回していたゴブリンをマーテルへと向かって力一杯放り投げる。
すると、だ。
『私の仔で私を攻撃するなんて、なんて酷い事をするのかしらァ?』
「ガッ、ヒャ……」
ゴブリンがマーテルの身体に触れると同時、まるで交通事故にでもあったかのようにゴブリン側の身体だけが潰れ、光の粒子となって消えていく。
それと共に、マーテルが減ってしまった駒を補充するかのようにゴブリンを産み。
……やっぱり。ゴブリンを産む度にHPが減ってる。……それにあの潰れ方は……ダメージをゴブリン側に飛ばしてるとかそういうのかな。
最初に出会うボス系のモンスターにしては能力を盛り過ぎているとは思う。
だが……勝ち筋は見えた。
それと同時に、
「……今の私じゃあ無理だなぁ……」
現状で勝ち目がないというのも理解してしまう。
マーテルに勝つには、延々ゴブリンを産ませながらダメージがマーテル自身に徹るようになるまで攻撃し続けねばならない。
それを行うには、群がるゴブリンを倒しながらマーテルに近づけるだけの実力と対応力が必要になる。
実力はスキルで底上げ出来るにしても、対応力が届いていない。
今も一番近くに居たゴブリンに足払いを掛けつつ、背後から忍び寄ってきていたもう1体のゴブリンに対して肘鉄を食わらせているものの……それだけだ。
幾ら【野戦技術】が私の行動にボーナスを掛けてくれているとしても、【筋力増加】や【捕食】によってゴブリン達をステータスの暴力で倒せたとしても、積もり積もった傷によって私のHPはやがて尽きる。
それまでにマーテルのHPを削り切るのは……不可能だった。
「クソ、次は食べてやるから……!」
『次があればいいけど、ねェ』
捨て台詞を吐くと同時、私の視界は黒く染まる。
ゴブリン達によってHPが削り取られたのだ。
『あなたは死亡しました:全ステータス低下30分が付与されます』
次に視界が戻った時には、いつもの洞窟の中。
軽く息を吐き、薄暗い洞窟の天井を見上げた後、
「よし、考えよう」
私は自分の周囲に各種ウィンドウを表示させ、マーテルを攻略する為の道筋を考え始めた。





