Episode10 - 巨大な存在
「う、うわぁ……すっごいの見つけちゃったよ」
結果から言おう。
この遺跡はダンジョンの類だった。それも結構早めに攻略しなければならない類の、だ。
今、私は遺跡の奥深く……オーガと戦い、多数のゴブリンを倒した場所から約数十分ほど進み続けた場所に居る。
巨大な鉄の扉の奥、僅かに開いた隙間から中を見てみれば。
そこには巨大な肉の塊が居た。否、肉の塊ならばどんなに良かっただろう。
それは生きていた。呼吸をして、全身を動かして、そして……産んでいた。
「……私1人で倒し切れる?いや、それもやってみないと分からない、か」
ゴブリンを産み続ける巨大なモンスター。
横たわっているのか、こちらから顔の様なモノは見えない。しかしながら、その全身からゴブリンを産み続けるその姿は中々に形容し難い気持ち悪さがあった。
……名前も見えてる。『悪母鬼 マーテル』か……うん、やっぱりモンスターではあるんだね。ボスみたいだけど。
ゴブリンのメスが存在昇華し続けたらこうなるのだろうか。
それとも、ダンジョンのボスだからこそのユニークな個体なのか。
どちらにしても、これを放置し続けていると……非常に良くない。
「オーガは突然変異とかそっちかな……数が居るから厄介なのに、その数を補うボスが居るの本当にダメでしょ。この湿地がゴブリンで埋め尽くされるよこんなん」
今は遺跡の周囲の湿地にしか居ないから良い。
しかしながら、これを放置し続け……湿地から溢れた時が大変だ。どんなにゴブリンを討伐しようとも、この遺跡の奥深くに居る母を倒さねば根本は解決せず。
湿地から溢れている以上、その時にこの遺跡の中まで辿り着ける者は少ないだろう。
この世界に元々生きてきたNPCならば兎も角、プレイヤーは戦力になるまで時間が掛かる。そうして戦力になるまでに……目の前の母は更にゴブリンを産み増やす。
「食糧が尽きないのは私的にはありがたいけど、流石にとばっちりを受けそうな状況は見逃せないな」
モンスターアバターだからこそ、人間アバターからは敵視される。
家である洞窟の近くにこんな迷惑の塊のようなものが居ると知られれば……ほぼ確実に私が自由に行動するのに支障が出る事だろう。
故に狩れるなら狩った方が良い……のだが。
「問題は、私のバフが切れてる所かな」
【捕食】で得たバフは既に切れている。
ゴブリンから得られるであろうバフもオーガ程の効力はなく、今のまま10体以上に囲まれてしまえば前回の二の舞となるのは想像に難くない。
だからこそ、この場でどうするかを考えているのだが……一つ息を吐く。
「うん、難しく考えるのはやめよう。当たって砕けろだ」
結局の所、やってみて考えるしかないのだ。
オーガの時も身体でぶつかって勝利を手にした。ならば、今回も何処かに勝機がある可能性がある。
……それに、気になるしね。味。
口の端から垂れる涎を拭いつつ、私は扉をゆっくりと開けていく。
そう、私の原動力は食欲だ。全身からゴブリンを産むモンスターなど気色悪いにも程があるが……食材として見るならば話は別だ。
ゲテモノとして見るならば十二分にアリだし、あれを食らった時の【捕食】のバフも気になる。
だからこそ、私は一歩踏み出し……扉の先の部屋へと侵入した。
『……んん?私の仔ではないわねェ……あぁ、最近仔が減っているのはアナタの所為ねェ?』
「うわ、喋るじゃん」
薄暗かったその部屋は、私が入ると同時に部屋の隅々に設置された松明に火が灯され明るくなる。
広さ的には……凡そ学校の体育館程だろうか。それよりも大きいかもしれない。
その中心辺りからこちらへと声を掛けてくる巨大な肉塊の様なボス……『悪母鬼 マーテル』と名の付いた存在は、あくまでも友好的な声色だった。
それが逆に恐ろしい。
「君の子供を減らしたのは悪いとは思うよ。でも襲ってこられたら撃退するのは世界の摂理とかそういうのだろう?」
『それは確かにそうねェ。だからこそ、私はそれを罪とも思わなければ、それでアナタを責めようとは思わないわァ』
「それは良かった。……ちなみに、私がここに来た理由的には、むやみやたらに子供を産むのはやめてもらいたいって言いに来たのだけれど」
『それに関しては出来ないわねェ』
「理由を聞いても?」
こうして話している雰囲気自体は穏やかだ。
しかしながら、私の耳には……【聞き耳】には、遺跡中からこの部屋へとゴブリン達が集まってきているのが分かっている。
これは私を確実に逃がさない為の時間稼ぎに他ならない。
……まぁ、そもそもここに居る時点で帰りとか考えてないんだけどさ。
ここまでは【隠密】によって安全マージンを取りながら探索してきたものの。
こんな奥底から無事に帰るのは今の私には難しい。どうやっても何処かで大量のゴブリンと戦闘となって、良くて辛勝。悪くてまたデスペナルティを食らうはずだ。
だからこそ、別に逃げられないのは問題ない。
『私は産み増やす者。そして、私の仔達で地を満たす者よォ。だからこそ、それをやめるっていうのは私の存在自体を否定する事に他ならない』
「……まぁ、そうだよね」
『だからこそ、アナタと私じゃ求める事が正反対なのよォ。――だから死んでくれるかしらァ?』
空気が変わる。
それと共に、マーテルから連続した水音が部屋に響き渡った。
『『悪母鬼 マーテル』との戦闘を開始します:参加プレイヤー数1』
「やぁっぱり戦闘になるよねぇ、仕方ない!」
ログが流れると共に、私はその場から思いっきり前へ……マーテルの方へと駆けだした。





