【超短編小説】WxHxY〜ワシかてホンマはヤりたいんじゃ〜
喫茶店の二階にある窓際席でぼんやりと血飛沫を待っていた。
おれたちには血が必要だった。それは誰も金閣を焼かないからに他ならない。おれたちに必要なのは保存じゃない。破壊と創造だ。
それにも関わらずおれたちは保存をしたがる。創造ができない。
待っているのは緩やかな死だ。
おれはコーラ左翼とPayPay右翼の乱闘を空調の効いたカフェで眺めている。
そこに血は無い。あるのは0と1だ。
おれは珈琲を飲んでいる。
ウェッジウッドのカップに注がれた南米産の珈琲は色暗く、深刻な湯気を立てて香りと言う生命最後の叫び声を上げていた。
左手の指に挟んだ希望は短く、右手の中にあるモノリスは退屈でしか無かった。
日本の中小企業から買った製品にはメイドインチャイナとタグ付けされている。
避けられない正面衝突がそれだ。
例えば今も彼女の中にあるディルドーにしたってメイドインチャイナだ。
このカップやコーヒーを運んできたコンテナだってメイドインチャイナだ。
メイド、イン、チャイナ。
おれたちはそいつに疲れちまった。でも粘り負けしたらお終いだ。最後まで立ってるだけでいい。
投げ込まれるタオルは国産がいい。
ドタドタと足音を立てて喫茶店の階段を上がってくる男が見えた。
「チンチャンチョン!クンフーとフライドライス!深夜2時までの破戒!ナイトホークスの後ろを通る古いセダンこそが俺たちの待つ車だ!」
落ち着けよ、兄弟。
俺たちは刀狩りにあってから向こう何百年も武器なんざ持っちゃいねぇ。不良グリンゴをやるのに鉄砲なんか要らねぇが、竹槍作るのにだってナタくらいは必要ってなもんだ。
「ならそのナタで叩き殺しちまえば良いんだ」
そうもいかねぇから困ってんだよ、兄弟。
白人の男が日本の女を連れて歩いている。ソ連崩壊直後は逆だったはずだ。AV女優たちは香港で水揚げされてる。
おれたちの世界はそうなってる。
「兄弟、俺たちが目にした女の数だけそこにはセックスの可能性が微粒子レベルで存在していたはずだ」
だが奴らは聖女じゃない。ほとんどは売女だ。買うほどの価値も無い。
だから兄弟、もうやめよう。
このスイッチを押すとあのディルドは爆発する。そうするとあの女は死ぬ。
スイッチを押す。
交差点の真ん中で女がひとり弾け飛ぶ。
スイッチを押す。
交差点の真ん中で別の女が弾け飛ぶ。
スイッチを押す。
女が弾け飛ぶ。
俺たちのセックスが弾け飛ぶ。
「チンポ乾く暇も無いねんぞ!」
交差点の真ん中、左翼の断末魔が響いて日が暮れた。
俺のセックスが破裂していく。
俺がしたかったセックスが破裂していく。
俺ができなかったセックスが破裂していく。
誰かがしたセックスが破裂していく。
誰かのセックスが破裂していく。
俺は両手の親指を両目に突き刺した。
俺の自爆スイッチが押される。
「俺がて童貞ちゃうねんぞ!」
俺はゆっくりと膨れあがり、やがて破裂して飛び散った。
それが血飛沫だ。




