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EPISODE 5 「サミュエルの実力」

 タニム・ウェラーにとって、サミュエル・ルードは気に入らない存在であった。

 最愛の息子、愛した人の忘れ形見、英雄となるべきトールの家庭教師を断ったどころか、才能のないメリルを弟子にとるということにもはや我慢が出来なかった。

 タニムとって、前妻の娘たちなどどうでも良かった。夫が生前の時は、表面上は母親役を演じていたが、今はもう取り繕う必要はない。

 当主に納まっているセイジは高位魔法使いであるが、いずれはトールも高位魔法使いとなる。それは時間の問題だろう。

 その時には当主をトールにとまで考えている。

 そこまで溺愛しているトールを興味が無いとまで言った男を、タニムが許せるはずはもちろん無かった。

 そこでタニムは、サミュエルにトールの家庭教師たちをぶつけることを考えた。

 勝算はあった。サミュエル・ルードは魔法剣士だ。正確に言えば、魔法刀士というところだろうか?

 サミュエルはどんな時でも刀を手放さないと聞く、噂では刀が無ければ実力も下がるとのことだ。そして、現在、ウェラー家に来ることから遠慮したのか、刀を持っていなかった。

 難色を示した家庭教師たちにそのことを伝え、さらに倒せれば褒美を出すと言うと素直に従ってくれた。

 なのに、なぜ……


「どうして……」


 目の前で繰り広げられる光景が信じられなかった。

 刀を持たないはずのサミュエルが、四人の高位魔法使い相手にまともな魔法も使わずに、しかもメリルに講義をしながら戦っている。

 いや、戦っているという言葉は間違っている。

 一方的だった。


「化け物……」


 初めて、ウィザードという存在に恐怖を覚えた。

 だが、同時に、そんな化け物的な強さを持つからこそ、トールのために役立てなければと、タニムは恐怖を隠すように野心を抱いたのだった。






 ルーシー・ウェラーにとって、魔法とは無縁のものだった。

 ウェラー家に生まれたが、魔法の才能は持たなかったルーシー。悩んだこともあったが、自由に生きるようにと父に言われたことを覚えていたルーシーは、一般学校に通い、一〇代、二〇代向けの洋服メーカーのモデルなどをしていた。

 楽しかった。だが、そんな楽しさもすぐに壊れてしまった。

 結局、どこにいっても英雄の娘という言葉が付きまとう。

 努力してモデルとなったというのに、英雄の娘だからと影で誹謗中傷されたことも少なくない。

 それが嫌で、モデルをやめて、学校にも行かずに家で退屈に過ごす日々を送っていた。

 魔法を学ぶという選択もあったが、そんなことをしたらそれこそ英雄の娘という言葉がついてくる。

 父が嫌いなわけではない、だが、自分を見てくれない周囲は大嫌いだった。

 自然と口も悪くなり、ついサミュエルに突っかかってしまったが、客人にする態度ではないとわかっている。だが、こうしてどこかで反発しなければやっていられなかった。

 そんなルーシーでさえ、唖然としてその光景を見つめていた。


「嘘……」


 高位魔法使いといえば、ルーシーでさえその実力の凄さは知っている。なんせ、姉のセイジが高位魔法使いだ。その実力を見た時は、素直に驚いたものだ。

 だが、サミュエルはレベルが違う。

 魔法を使うトールの家庭教師の攻撃を、体を少し動かす程度で避けると、メリルに講義を始めた。

 ちょうど良いから実戦においての、などと言っているが、聞かされているメリルも呆然としていた。

 その扱いに怒った高位魔法使いたちは、連携を取って襲い掛かるが、すべて避けられ、顔や腹に、拳と蹴りが放たれて吹き飛ばされたのだ。


「これが、ウィザード……」


 初めて見るその実力に、ルーシーはただただ呆然としていた。






「ちょうど良いから、講義をしよう」


 メリルは四人の高位魔法使いを相手にしながらそんなことを言うサミュエルの正気を疑った。


「まずは、このおっさんが使ってる剣に魔法を纏わせる技術、これを大雑把に『魔法剣術』といって、流派など色々あるけど……これはダメだ」


 剣を避けたサミュエルの手には、相手が振るった剣がいつの間にか握られていた。


「本来、魔法剣術というのは剣に魔法を、例えば炎だったら纏わせるのではなくて、刀身そのものを炎とするのが理想系だ。あえて、纏わせるだけという流派もあるけど、基本はこっち」


 そう簡単に言ってのけるサミュエルは、奪った剣の刀身を炎としてみせた。

 これには、剣を奪われた高位魔法使いだけではなく、他の三人も、いや、トールも姉たちもギョッとした。


「俺じゃあ、やっぱりこの程度か……あまり炎は得意じゃないし」


 そんなことを言ってみせるサミュエルだが、得意でないと言いながらここまでできるのは本来異常だ。


「まぁ、これが理想系の一つだ。で、ここからが魔法剣術の面白いところ。普通、剣には長さが決まっているけど、刀身が炎となった今、魔力を込めることで長さを調節できたり、魔力を凝縮することで本来の剣の何倍もの強度を持つことができる。さらに、こうして剣を振るうことで」


 ゴウッ、と音を立てて刀身から炎が放たれた。


「こういうこともできる。ホラ、剣を返すよ」


 唖然としている相手に剣を投げ返すと、メリルに続ける。


「剣だけじゃない、腕にも、足にも同じことはできる。とはいえ、長さなどの調節はどうしてもやり辛くなっちまうけど、極めればできるようになると聞くね。また、炎や風の魔法ではなく、純粋に魔力を身体に込めることによって、身体強化も可能だ。ここまでは良いかい?」

「はい!」

「よし、じゃあ実践して見せるから見てな」


 そして、初めてサミュエルは四人の高位魔法使いの方を向いた。

 同時に、四人が顔色を青くするが、無理は無い。自分たちとは実力が違いすぎると理解しているからだ。


「魔法剣士が一人に、魔法闘士が一人、んで……定番の魔法をぶっ放すことを得意とする遠、中距離系の魔法使いが二人か」


 ふむふむ、と四人の格好や身につけているもので予想してみせる。

 このくらいは魔法使いとして基本だ。戦う相手の予想が出来ないなら、簡単に命を落としてしまう。


「高位魔法使いらしいけど……」


 そこまで言って口ごもった。

 多分、セイジ・ウェラーの方が実力者だと思う。

 そもそも高位魔法使いは……いや、魔法協会に所属する者は基本的にプライドが高い。自分を価値を知りたくて、自分の存在理由を見つけたくて、多くの理由で所属するが、結局は自分のためだ。

 また面倒なことに、魔法使いとしての質に比例してプライドがも高くなるので始末に置けない。

 そんな話はさておき、プライドが高いのが基本である高位魔法使いが、いくら英雄の息子の為だとは言え……あの母親に上から者を言われて素直に頷くとは思えない。

 テイラード・ウェラーの友人関係はそれぞれ有名であるし、彼らは現在の妻であるタニムに好意的ではないという噂もある……すると、ここにいる魔法使いは高位魔法使いであっても、まぁそこそこの中位魔法使いに毛の生えたレベルであろう。


「高過ぎるプライドはいらないけど、こんなババァに良い様に使われてんじゃねーよ」


 ボソリと呟いたサミュエルは、タンと軽く床を蹴った。


「いいかいメリル。まずは魔法剣士だけど、いくら剣士だからといって接近戦だけが得意ってわけじゃない。中には、中距離攻撃魔法を使う奴もゴロゴロいるし、魔法剣士と世間で思われててもオールラウンダーな魔法使いもいる」


 魔力の込めた手刀を魔法剣士に振り下ろす。正確に言えば、剣を持つ、その腕に。

 魔力を込めたことで強化されたその手刀は、勢い良く振り下ろされて、魔法剣士の腕を折り、ついでに剣の柄も叩き折った。


「魔法剣士の攻略法はとにかく攻める。魔法剣術を使う暇を与えない、剣術にも流派があることはさっき言ったけど、流派には型があるからそれも使わせない。これが基本」


 これは本来、魔法学校でも上級生クラスになれば教わることのできる至極基本的なことの一つ。


「基本中の基本だけど、これが一番効率が良い。相手の出方を待っていたら、あっという間に切られちまう」


 痛みに悲鳴を上げる魔法剣士にさらに手刀を振り下ろし気絶させると、次は魔法闘士に向かう。


「く、速過ぎる!」

「いや、アンタが遅いだけ」


 魔法闘士が己の腕を守る為に装備する籠手を蹴り割ると、開いた懐にもぐりこんで拳を握る。


「炎爆系中級魔法――爆輪」


 拳に圧縮させられた炎が爆発する。

 気絶する程度にしか込められていない魔力だったが、魔法闘士の服を燃やし、訓練所の壁に叩きつけるには十分過ぎる威力だった。


「魔法闘士も攻略は魔法剣士と変わらない。獲物を持っていない分、接近し過ぎると捕まえられたりするからそれらは気をつけなければいけないけどな」


 メリルは口を開けて唖然とする。セイジも同様だった。

 タニムがトールのために雇った家庭教師が弱いわけが無い。少なくとも、トールより実力も、実績もある魔法使いだろう。

 それを、まるで赤子の手をひねる様にあっという間に二人も倒してしまったサミュエル。

 魔法などは使っていない。せいぜい、魔力で体を強化している程度だ。


「凄い……高位魔法使いがあんな簡単に二人も……」


 驚きを隠せないメリルを他所に、サミュエルは魔法使い二人に向かう。

 二人は、杖を、腕をサミュエルに向けて魔法を放とうとするが――


「見え見えなんだよ! お前ら、高位魔法使いならもう少し応用や予想ができないことをやってみやがれ! 直線に魔法ぶっ放す気満々じゃねーかよ!」


 さらに床を蹴って、先ほどよりも早く動く。

 一瞬で後ろに回ると、手刀を叩き込んで二人を気絶させた。


「なんていうか、典型過ぎるから授業にもならないわ……この二人」


 まぁいいか、と呟いて、サミュエルはメリルへ近づく。


「どうだった、参考になったか?」

「えっと、その……言いにくいんですけど、全然ならなかったです! 最後とか見えませんでしたから!」


 そんなメリルの叫びに、サミュエルは笑う。


「別にあれくらいの動きならそのうち出来るようなるよ。とりあえずは、魔法剣士、魔法闘士の基本的な戦い方と、爆輪を実際に使って見せたけど、どう?」

「絶対無理ですよ……」

「大丈夫だって、それで、ご感想は?」

「はい、至近距離で相手に手を出させないというのはわかりました。後、爆輪はやっぱり至近距離だとリスクがありそうですね」

「それだけわかれば合格だよ。後は、応用に応用を重ねることが大事」


 ポンとメリルの頭に手を置いて撫でると、さてと、とサミュエルはタニムの方を向いて笑顔を作った。

 先ほどルーシーにキモイと言われた、営業用スマイルだ。


「どうでしたか? さすがはタニム・ウェラー様が雇った高位魔法使いでした、ついついウィザードとして負けられないと本気を出してしまいました……いや、お恥ずかしい限りです」


 性格悪ッ!

 ウェラー姉妹は心底そう思ったが、タニムは怒りで顔を真っ赤にして訓練所から出て行ってしまった。


「どうだメリル、俺の勝ちだ!」

「……どこの子供ですか、サミュエルさん」


 子供みたいに笑うサミュエルを見て、呆れたように、何かを諦めたようにメリルは盛大に溜息を吐いた。


 ――本当に、大変な人の弟子になっちゃったかも


 そう思わずにはいられなかった。



性格の悪い一面を垣間見せた主人公でした。

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