表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

推しはこの人

 ルーファスに連れられてやって来たのは、立派な城の一室。


「時間がないから、細かな要望は聞いてられんけど」


 パチンッと指を鳴らすと、夜着だったのが煌びやかなドレスに早変わり。首には肩が凝りそうな程、ゴージャスなネックレス。髪も化粧も夜会仕様でばっちり。


 令嬢の準備となれば、何時間もかける所を一瞬で終えるなんて、こんなの便利でしかない。


 セレーナは、感激しながら鏡で自分の姿をくまなく眺めていた。


「喜んでるとこ悪いけど今日の夜会な、例の二人も来とるんよねぇ」

「ん?」

「君を追いやった二人よ。正式に婚約したから言うて、挨拶に来とる」


 セレーナは苦虫を噛み潰したような顔で応対。ルーファスは笑っているが、こちらはまったく笑えない。


 だって、軟禁されているはずの私が隣国の夜会に出てるなんて、外交問題になりかねない。それよりも、こんなことがラウル(あの人)に知られたら…


「やばいやばいやばい…」


 これほどまでにないぐらい顔を青くして頭を抱えた。


「なぁ、ほんまにあの子虐めたん?」

「え?」

「君が弱い者虐めなんて想像がつかん。冤罪で嵌められたってんなら、僕が一言言ったるよ?」


 この人は言い方と態度は悪いけど、本当は優しい人なんだと思う。そんな人に嘘は付けない。


「有難い言葉だけど、ごめんなさい。多分、虐めてたってのは本当なの」

「へぇ?そうなん?…せやけど、その言い方は自分がやったのか不明確だと言っているようやよ?」

「……」


 流石に鋭い。


 どうする?実は転生者ですって言う?この人なら信じてくれる気はする。けど、もし、信じてもらえなかったら?完全に頭のおかしい子(厨二病)……


「その辺にしなさい。セレーナ様が困っているじゃありませんか」


 合間に入って来たのは、城に着いてから姿が見えなかったリオル。この人が来てくれてホッと安堵した。


「うちの師団長がすみません。こちらを取に行っていたら遅くなってしまいました」


 リオルに手渡されたのは、顔を覆えるほどのベール。


「これなら顔を知られる事はありません。折角の夜会です。楽しまなければ勿体ないですよ」

「リオルさん……」


 ジーンと優しさが身に染みる。隣で見ていたルーファスは面白くなさそうに眉間に皺を寄せていたが、リオルに急かされて、会場へと急いだ。



 ***



 会場は大層な賑わいで、キラキラと全体が光っているように見える。そんな、会場の奥にレオナルドとアイリーンの姿が見えた。


 仲睦まじく腕を組みながら会話を楽しんでいる。慎ましく愛らしい本来のヒロインの姿がそこにあった。


(とても牢で見た時と同一人物だとは思えない)


 ルーファスにエスコートされながら会場へと足を踏み入れた。


 なにせエスコートしている人物が目立つので、足を踏み入れた瞬間、突き刺さるような視線がセレーナを襲ってきた。


「いやぁ、注目の的やね」

「……帰りたい……」


 以前のセレーナなら、注目されたらされただけ酔い浸っていたかもしれないが、今のセレーナは注目されるのに慣れていない。


 注目されればされただけ、キリキリと胃に負担がかかる。


「ルーファス師団長?」


 聞き馴染んだ声が耳に聞こえた。


「これはこれは、レオナルド殿下。ご婚約なさったそうで?」

「あぁ、お相手のアイリーンだ。宜しく頼む」


 ルーファスはセレーナを気にかけたのか、少しばかり背に庇いながら会話を進めた。


「アイリーンと申します。ルーファス様にはずっと…ずっと、お会いしたいと思っておりました」

「へぇ?僕に?それは嬉しいなぁ」


 社交辞令で返すルーファスだが、アイリーンの方はそう思っていない。頬を染め、愛おしそうに見つめる瞳は完全に恋する女。


(ガチで会いたいと思ってたんだって!気づけ!)


 ヒロイン(アイリーン)があの表情という事は、ルーファスはゲームの登場人物。即ち、ヒロインに恋に落ちる=セレーナ()の敵という事。


 更に面倒な事に、アイリーンの推しがルーファス(この人)だ…きっと、多分、絶対に…


「師団長殿、そちらの女性は?」


 レオナルドが目敏くセレーナの存在に気が付いた。レオナルドの言葉にアイリーンの目が鋭く光る。


「彼女は…」


 頼むから下手な事は言わないで!とベールの下から熱い視線を送ったが…


「僕の大切な人、やね」

「はぁ!?」


 真っ先に声を上げたのは、アイリーンの方。


「おかしいじゃない!何故、ルーファス様に女がいるのよ!あんた誰よ!」


 ヒロインの仮面が完全に剥がれているが、自分の推しの事。黙ってはいられなかったのだろう。ベールを剥がそうと、手が伸びて来た。


 パンッ


 ベールに手が届く前に、激しく叩き落とされた。


「あきまへんなぁ。夜会の場で暴行とは…それもここは君らの国やない。こちらの国を敵に回す気ですか?そんなら、受けて立ちましょう?」


 笑みを浮かべているが、眼がまったく笑っていない。ルーファスから漂う殺気に似た威圧感に会場はシーンと静まり返り、みんなが息を飲んでいた。


「も、申し訳ない!」


 沈黙を破ったのは、レオナルドの謝罪の言葉。


「アイリーンには私から言って聞かせる!この場は私に免じて許して頂けないだろうか!」


 レオナルドはアイリーンの頭を掴み、無理矢理頭を下げさせている。アイリーンの「ちょっと!」なんて声が聞こえるが、構わず頭を掴んでいる。


「そうは言うてもな…」


 ルーファスがチラッとこちらに目配せしてきた。これは「どうする?」と聞いているのだろう。


 この二人を庇ってやるような恩はなく、恨みしかないが他国を巻き飲むのは筋違い。


 セレーナはルーファスの裾をキュッと掴み、ゆっくりと頷くと、それに応えるように頭に手が置かれた。


「まあ、この場は飲んで歌えの夜会やからな。無礼講つうこんで、目を瞑りましょ」

「恩に着る!」


 その一言を残してレオナルドはアイリーンを引っ張り、会場を出て行った。アイリーンの方は、納得できず何やら騒いでいたが、次第に声が遠のいて行った。


「いやぁ、中々強烈なお嬢さんやったねぇ」


 何事も無かったように会場も元の賑わいが戻り、ルーファスが声をかけてきた。


「どうした?」

「……もう、駄目……」


 気を張りすぎて、色々と限界だったセレーナはその場で倒れてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ