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危険な同居人

 あの後、無事にラウルに家まで送り届けて貰った。


 ルーファスの事は気がかりだったが、あの人の性格なら上手く構わしてくれるはず。まあ、他人まで気遣う余裕はちょっと持てなかった。


「…疲れた…濃すぎる一日だった…」


 もうなにもする気が起きず、そのままベッドに潜り込み、眠りについた。



 ***



 窓から射し込む朝日と小鳥の囀りで、目が覚めた。


「ん~!よく寝た!」


 久しぶりに目覚めの良い朝。気分がいい。こんな日は、時間をかけて朝食でも作ろうかなぁと鼻歌混じりにベッドを出ようとした。


「ご機嫌ですね」

「………ん?」


 恐る恐る振り返れば、いつぞやのデジャブかと見紛うほど、同じ体勢でこちらを見つめるラウルと目が合った。


「な、ななななななんで!?」

「そんなに驚かないでください」

「いや、不法侵入!」


 呑気にシャツに手を通しているラウルに、ビシッと言ってやった。


「今日から一緒に住む同居人に不法侵入は失礼じゃありませんか?」

「は?一緒に住む?誰が?」

「貴女と私が」

「はぁぁぁぁ!?!?!?」


 まだ夢でも見ているのかと思って、頬を思い切り抓ってみたが、ちゃんと痛い。


「殿下には許可を頂いております。私が身近にいた方が、貴女を監視しやすいと言ったら二つ返事で了承してくださいました」


 満面の笑みの裏には真っ黒に染まった想いが見え隠れしている。


 そんな人と同居なんて冗談じゃない。そもそもの話、一人なら丁度いいが、二人で暮らすにはこの家は狭すぎる。それこそ、ガタイのいい騎士なんて邪魔でしかない。


 ベッドも一つしかないし、二つなんて置ける余裕はない。辛うじて椅子が二脚あるぐらい。


「新婚みたいですね」


 セレーナの悩みなんてよそに、なんともふざけたことを言ってくる。


「…私は認めてないですよ」

「認めるもなにも決定事項ですよ」


 はっきりと権力を翳され、何も言えなくなってしまった。まあ、こっちの意見なんてあってないようなもの。分かってたけどさぁ…


 未婚の男女ひとつ屋根の下なんて、何かが起きてからじゃ遅いだろうに。この世界の概念はどうなってんだ?


「朝食はどうしますか?」


 悩みは尽きないのに腹はちゃんと減る。折角、目覚めのいい朝だったのに、一瞬にして台無し。


 溜息を吐きながら、キッチンへと向かう。


「あぁ、働かぬもの食うべからずですからね。庭に出て水撒きでもしていて下さい」

「仰せのままに」


 調子のいい返事が返ってきた。団長様に水撒きをさせるなんて!世間に知られたらそんな怒号が飛び交いそうだが、そんなものは知らん。


「さて」


 こんな朝だからこそガッツリと、それでいてあっさりした物が食べたい。


 料理している時だけは、悩みも不安も忘れさせてくれる。調理しながら、これはどんな味付けが合うのだろうか。盛り付けはどうしようかとか考えている時間が好き。


「うん。まあまあの出来だわ」


 満足しながら眺める先には、出来たての料理が並んでいる。


 トマトソースにバジルを混ぜてピザソースを作り、厚切りのベーコンとチーズを乗せたピザ。それに、オレンジの果実と果汁を使ったサラダ。スープはコンソメであっさりと。


 彩りも完璧の朝食。


「ほお、これはまた…」


 水撒きが終わったラウルが、テーブルに並べられた朝食を見て驚いたように呟いた。


「団長様のところの料理人には到底及びませんが、腹の足しにはなると思いますので、良ければどうぞ」


 ぶっきらぼうに伝えるが、ラウルは気にせず椅子に座り目の前の料理に口を付けた。


「やはり貴女の作った料理は美味しい」


 ふわっと顔を綻ばせた。無理して言っている感じはなく、本当に美味しそうに食べてくれる姿を見て、なんだか照れくさくなってしまった。


 自分の作った料理を美味いと言って食べてくれるのは嬉しいが、見せたことの無い表情(かお)で言われると困る。


(調子が狂うじゃないか)


 赤く染まる顔を隠すようにしながら料理を口にするが、緊張のせいかそれとも動揺のせいか…味がまったく分からなかった。


 ラウルは残さず綺麗に食べ終えると、皿洗いまでしてくれた。

 さすがに止めたが「このぐらいはさせてください」なんて言いながらお茶を用意されたもんだから、お言葉に甘えさせていただくことにした。


 洗い終えたラウルは素早く身支度を整えると、落ち着く間もなく城へと向かって行った。

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