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愛憎とヤンデレ(2)

「セレーナ?」


 その声の主を目の前に、セレーナはただただ戸惑いを見せたのと同時に『逃げなきゃ』という警告が脳内を巡る。


「なぜ貴女がここに?」


 ゆっくりと近付いてくるラウルに、堪らずセレーナは逃げ出した。後ろから名を呼ぶ声と引き止める声が聞こえるが立ち止まっては駄目だと自分に言い聞かせて無我夢中で走った。


 あとちょっと、あとちょっとで城を出られる。そう思った所で強く腰を引かれた。


「捕まえましたよ」

「あ、れ?」

「私から逃げられるとでも思いました?」


 いや、そりゃ、騎士と令嬢じゃ体力の差があるから無理なのは承知の上だったし、ワンチャンいけるかと思って…


「ちょ、ちょっと待って!まずは私の話を聞いて!」

「ええ、聞きますよ?私の部屋でね」


 スゥと目を細めて言われれば『ヤバイ』の三文字が浮かび上がる訳で…


「ここで話すから!離して!」


 ジタバタと暴れるが「遠慮はいりませんよ」なんて涼しい顔をしているだけでビクともしない。こういう時に限って周りには人気がなくて助けも呼べない。


 助けを呼んだところで、不審者と不審者を取り押さえた団長の絵図だが、この際不審者で牢にぶち込まれた方がマシだとすら思えてくる。


「いい加減諦めなさい」

「嫌よ!誰があんたなんかの言う事を聞くもんですか!」

「ほお?随分と威勢のいいことを言いますね…そこまで言われたら私も黙ってはいられませんよ?」


 纏っている空気が変った事に気付き、言い過ぎたと後悔したが時すでに遅し。セレーナが声をかけても黙ったまま足早に部屋に向かい、部屋に着くなり乱暴にベッドに投げられた。


「ちょっと待って!私も言い過ぎた!謝るから、一旦落ち着いて!」


 上着を脱ぎ棄て、ギシッとベッドに上がってくるラウルを止めるが聞く耳を持たない。


「もう黙って」


 甘い言葉と甘い香りが鼻と脳を刺激してくる。昨晩の事を思い出し、すぐに顔が熱くなる。


「あ」


 ラウルの綺麗な顔が近づき、唇が触れる。優しく蕩けるようなキス。昨晩の貪るようなキスとは大違い。


「ふふっ先ほどの勢いが嘘の様ですね」

「なッ!」


 小馬鹿にしたように言われてカチンとした。


「だ、だって、昨日と、その、違うから…」

「ああ、昨晩のように激しいのがお好みでしたか?それですと、()()気を失うかとおもいまして」

「え?」

「おや、覚えていませんか?昨晩、貴女気を失ってそのまま眠ってしまったんですよ?」

「そうなの?」


 確かに、キャパ的にも限界だったのは自覚してる。いくら薬を盛られたからとはいえキスだけで気絶って、生娘じゃないんだから…ってセレーナ(この体)は生娘だったわ。


 あれ?という事は、彼とはまだ未遂という事になるよね?てっきり情事後かと思ったが、これは嬉しい誤算!この人と既成事実なんて作った日には人生終了の鐘が鳴る。


「ちょ、ちょっとストップ!」


 どさくさに胸元のボタンを外そうと手を掛けていたラウルを突き飛ばして止めた。


「何です?今更止めれませんよ?」


 不機嫌全開で睨みつけてくるが、そこは全力で止めにかからせていただく。


「いやいや、おかしいって。こういう行為って、お互いを知ってお互いに愛があるって分かって初めてするものでしょ?貴方だって、自己満だけの行為は空虚感があると思うわよ?」

「……」

「貴方の気持ちは十分に分かった。だけど、私は貴方の事がよく分からない。正直、恐いし信用ならないと思ってる」

「随分はっきり言いますね」

「遠回しに言っても伝わなきゃ意味がないでしょ?」

「それもそうですね」


 ラウルは私から少し離れた所に座り「それで?」と話を聞いてくれる姿勢を取ってくれた。


「貴方の事を知りたい」


 真っ直ぐと瞳を見ながら伝えた。


「私は貴方に監視されている身。この先も何年続くか分からない。それなら腹を括って貴方を知ろうと思う。そもそも、罪人と騎士団長とでは身分の差があるから、知れることと言えばしれているかもしれないけど」


 果たして、この程度でラウルが折れてくれるか…賭けだった。


 ラウルは目を見開いて驚いた表情をしていたが、すぐに「あははは」と笑い出した。


「貴女は面白い事を言う。なるほど、私の事を知りたいと…くくくっ、そんな事を言った(ひと)は貴女が初めてですね」


 初めて見る優しい瞳。こんな風に優しく笑う事も出来るんだ…


「そうですね。私も配慮が欠けていました。()()()()なら、少し手を出せばすぐに喰らいつくと思ったんですが、違ったようですね」


 それは、俺なら簡単に堕とせてヤれるという意味だろうか?どんだけ自分に自信がおありで?まあ、以前のセレーナなら喜んで喰われただろう。


「どうやら、貴女は私が思っている以上におこちゃま(純情)のようだ」


 純情かどうか問われたら違うと即答するところだがこの場合、否定せずに肯定しておくのが最善だと、この世界に来て学んだ。


「いいでしょう。時間をかけてゆっくり教えて差し上げます」


 鋭い眼光を向けながら言われたら宣戦布告のように感じる。


「お、お手柔らかにお願いします」


 とりあえずこの場を切り抜けることには成功した。…多分?



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