表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

推しという名の生贄

 その後、不安顔のルーファスに王子の婚約者であるアイリーンの所に行きたいから付いてきてくれとお願いした。


「あ~ぁ…なるほど。まあ、理由は分かった。けど、それ僕必要?送り届けるだけでいいんちゃう?」

「駄目!絶対にダメ!一緒にいて!」


 縋り付きながら引き止めた。


 貴方は大切な交渉材料なの。なんて口が裂けても言えないし、あまりに必死だと不信に思われる訳で…


「なぁんか嫌な予感しかしんなぁ」


 完全に怪しみながら顔を覗き込んでくる。そんなルーファスの目を見れるはずもなく、スっと目を逸らした。


「ふ~ん?…まあ、しゃぁない。乗り掛かった船や」


 ルーファスも承諾してしまった手前、今更嫌とは言えなかったのだろう。どちらにせよ、セレーナ的には助かった。


「んじゃあ、まあ、行きますか」


 善は急げと言うことでと、ルーファスはセレーナの肩を抱くと呪文を唱え始めた。唱え始めてすぐに足元が光だし、陣が浮かび上がった。


「しっかり掴んどってよ?」


 その言葉に、セレーナはルーファスの服をギュッと掴み目を瞑った。


「もうええよ」


 時間にして数秒。目を開けると、そこは城の中庭だった。


 なんと言うか、流石だな。その一言に尽きる体験だった。


「ん~、婚約者殿の部屋は二階かな?」


 指を望遠鏡のようにしながら見つめる先には、広めのバルコニーがある一室。


「そんな事まで分かるの!?」

「まあ、伊達に師団長やっとらんからね」


 ここに来て初めて、この人の凄さを知った気がする。


(アイリーンが推すのも頷ける)


 仕事が出来るイケメンで、愛想があって話しやすい。何を考えてるか分からないけど、ミステリアスな一面だと言えば聞こえもいい。


「惚れた?」

「…その一言がなければ、印象は良かったわね」

「それは残念」


「くくくっ」と笑いながら揶揄ってきた。



 ***



 その頃、アイリーンは部屋で侍女に当たり散らしていた。


「何度言ったら分かるの!一人にしてって言ってるじゃない!」


 目を吊り上げ、怒鳴りつけながら手当り次第に物を投げつける。怯えた侍女達は足早に部屋を出ていくが、物が割れる音はしばらく続いた。


 肩で息を吐きながら、ギリっと唇を噛み締めた。


 カタン…


 バルコニーの方から物音がし、勢いよく振り返った。


「荒れているところ失礼、お邪魔しますよ?」

「貴女…」


 そこには、悪役令嬢であるセレーナがニヤッと口角を上げて立っていた。


「なんで、あんたがここにいるのよ!」

「そんなの、貴女に話があるからに決まっているでしょう?」

「私にはないわよ!」


 アイリーンは崩れるようにその場に項垂れた。


「もう、なんなの…!こんなのゲームになかった!ルーファス様だってそう!彼の恋人は私のはずなのよ!」


 頭を掻きむしり、壊れた玩具のようにブツブツと文句を呟いている。


 そんな姿のアイリーンを見たところで、なんの感情も湧いてこない。薄情だと言われたらそれまでだが、私は悪役令嬢だし。他人を気遣っている場合じゃない。


「…ねぇ、貴女、この世界がゲームの中って言ってたわよね?」


 ポンッとアイリーンの肩に手を置き問いかけた。


「それがなに?」

「その話が聞きたくて来たの」

「は?悪役令嬢であるあんたが?今更どうしようっての?断罪されたらあんたの出番は終わり。私の世界に入ってくんじゃないわよ!」


 ヒロインだと思えぬ形相で怒鳴り散らされた。


「私だって関わりたくないわよ!あんたが、あいつを繋ぎ止めてないからこんな事になってんじゃない!」


 怒鳴り返すと、アイリーンは唖然とした顔で見つめ返してきた。


「単刀直入に聞くけど、騎士団長であるラウルも攻略対象者で間違いないわよね?」

「は?なんで攻略対象なんて…ちょ、もしかして、あんたも転せ──」

「そんな事はどうでもいいから」


『転生者』と言いかけたアイリーンの口を手で塞いで止めた。「モゴモゴ」と何やら言いたげだったが、睨みつけてやれば大人しくなった。


「ねぇ、お取り込み中のとこ申し訳無いんやけど、そろそろ出てもええ?」


 バルコニーの手すりに腰掛けたルーファスが声を掛けきた。ルーファスの姿を見た瞬間、アイリーンの目の色が変わった。


「る、ルーファス様!?な、なぜ、貴方が!?」


 驚いてはいたが、その表情は嬉々として完全に恋する女の顔。


「私が付いてきてって頼んだの」

「は?なんであんたが!?」

「あぁ、勘違いしないで。彼に対してなんの感情もないから」


 アイリーンは下手に拗らせると面倒なタイプだから、こういう事は早めに言った方がいい。

 それじゃなくとも、悪役令嬢とヒロインという立場だ。これ以上の厄介事は御免だ。


「うわぁ傷付くなぁ」なんて声が背後から聞こえたが、今アイリーンから目を逸らせば刺される気がして、振り返れなかった。


「私はこのゲーム(世界)のことを聞きたいの。勿論、タダとは言わない。ルーファス()を差し出すわ」

「え?」

「は?」


 驚きながらも、嬉しそうに頬を染めたアイリーン。対称的にそんな事聞いてないと不快そうに顔を顰めるルーファス。


「どういう事か説明してもらえるかなぁ?」


 ルーファスはアイリーンに聞こえないよう、小声で問いかけてきた。笑顔を作ろうとしているが、引き攣っているのがよく分かる。


「ごめん。謝罪は後でいくらでもするから、今だけは話を合わせてちょうだい」

「はぁ?」

「お願い!私の命がかかってんの!もうこれしか方法が思い浮かばなかったの!」


 悲痛な思いをぶつけた。


 ルーファスはしばらくジッとセレーナの瞳を見ていたが、降参とばかりに大きな溜息を吐いた。


「貸し」

「え?」

「貸しにしといたる」

「ありがとう!」


 この際、貸しだろうかツケだろうがどうだっていい。


「ほんなら、お姫様?僕の一日を貴女に預けましょ?」

「!!!!!!」


 アイリーンの手を取り軽くキスをすれば、顔を真っ赤にして卒倒してしまった。


 そりゃそうだ。手とはいえ、推しからのキス。堪らんだろうなぁ…というか、誰がそこまでやれと言った?やり過ぎだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ