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主犯は私?

 月一度、ラウルとの外出が許可されている。


 今まで使うタイミングが分からず、月日だけが過ぎていったが…遂に、その日がやって来た。


「うわぁぁぁ」


 道を挟んでお店がずらりと並んでいる。この体(セレーナ)になって初めて観る景観に圧倒しながらも、目を輝かせる。


「初めて訪れたような表情(かお)をしてますね」

「そ、そんな事ありませんよ!?」


 図星を突かれ、声が裏返りながら誤魔化した。


「さて、どこの店に行きます?宝石店ですか?それとも仕立て屋でしょうか?」

「ふふふふ、もう決まってますよ」


 口元をニヤッと吊り上げ、ある場所へと向かう。そこは──


「ここは…」

「そう。世界各国の香辛料が置いてある店です!」


 店の前で嬉々として両手を広げるセレーナを、ラウルは唖然としながら見つめていた。


 貴族じゃなくった今、着飾る必要もないし、宝石やドレスを見たところで到底手が出る代物じゃない。まあ、手が出たとしても、欲しいとは思わない。


 自分の育てた野菜達を美味しく食べる方が、今のセレーナにとっての生きがい。


「今あるものも残量が少なくなりましたし、新しいものが欲しいと思っていた所だったんです」


 店内へ足を進めると、すぐに香辛料の独特な香りが鼻を突く。


「ゴホゴホッ…これは、結構鼻にきますね」

「大丈夫ですか?外で待っていてもいいですよ?」


 慣れていない人には、店内の粉っぽい感じが厳しいところ。

 ラウルは咳き込みながらも外に出ることはなく、セレーナの隣で一緒になって店内を見渡していた。


「いやぁ、いい買い物が出来ました」


 ホクホク顔で店を出たセレーナの後ろには、顔色を悪くしたラウルが…


「もう、大人しく外で待っていれば良かったのに」

「そうは行きません」


 変なところで頑固なんだから。


 呆れながらラウルを休ませようと、辺りを見渡しながらベンチを探した。すると「セレーナ様じゃないっすか」と声をかけられた。


 振り返ると、そこには数人の男。見た感じ、そこら辺のゴロツキと言った感じ。


「お知り合いですか?」

「いやぁ~…」


 今のセレーナ()のお知り合いじゃありません。


「最近、全然連絡くれなかったじゃないっすか。あの女は殿下と婚約したって聞いたし、心配してたんすよ?」


 おっと、これはこの人の前でしていい話じゃない。


 顔を引き攣らせながら止めに入ろうとしたが、一人の男が懐から何やら小瓶を取り出した。


「頼まれていた()()()()っす」

「えっと、これは?」


 あまり聞きたくないが、聞かなきゃいけない。


「やだなぁ、殿下と既成事実を作るって言ってたじゃないっすか。これはその時の為のものですよ」


 ニヤニヤしながらする男の顔を見て、なんつー物をお願いしてんだ!と以前のセレーナを怒鳴りつけたい。


「おやぁ?これはこれは…かなり上等な代物ですね…」


 ラウルはヒョイッと瓶を奪い、空にかざしながら呟くと、突き刺さるような視線を男達に向けた。


「これを何処で?」


 ラウルの威圧に男達は萎縮していて話にならない。


「これは、貴女の指示ですか?」

「いやぁ~…どう、だっかなぁ~…?」


 すぐに標的を私へと変えてきた。目を泳がせ、しどろもどろになりながら答えたが、ラウルの眼は私を捉えて逸らさない。


「これは私が預かっておきます」

「えっ!」


 自分の胸ポケットにしまうのを見て、反射的に声が出た。別に欲しいとかではなく、本当に無意識。

 だが、その意図を知らないラウルは、物凄い形相で睨みつけてくる。


「…本当に貴女は仕方の無い人ですね」


 グッと顔を掴まれ、目の前で溜息を吐かれた。


「殿下に薬を盛ったらどうなるか…それが分からないほど馬鹿ではないでしょう?」

「ひゃい…」


 顔を掴まれているので、思うように口が開かない。


「既成事実とは、随分と勝負に出た様ですが残念ですね。そんな事、私が許しませんよ。絶対に」


 鋭い眼差しに冷ややかで淡々とした口調。


 逃げる隙を完全に失ったゴロツキ達も、冷や汗を流しながら硬直している。


 なんか、巻き込んでごめんね。て言いたくなるほど怯えてる。逃げたいのに、逃げれない。その気持ち、すごい分かる。


「貴方達」

「「!!」」


 急に視線を向けられた男らは、ビクッと肩を震わせた。殺されるとでも思ったのだろうな。それぐらいの緊張感はある。


「今後は彼女の言葉を簡単に安請け合いしてはいけませんよ。貴方も命は欲しいでしょう?」


 生死に関わると言われたら頷くしかなく、全員が物凄い勢いで首を縦に振っている。


「今回の件は、見なかったことにします。…ですが、次はありませんよ?」


 目が据わったまま、笑顔を向けられたら恐怖でしかない。男らは「すみませんでした!」と叫びながら、逃げるようにしてその場を去って行った。


 残された私と言うと…


「さあ、帰りましょうか」


 何事も無かったかの様に振る舞うラウルに、恐怖を感じていた。


 怒鳴りつけてくれる方がまだ良かった。平然とされる方が、恐怖が増すという事を知っているのだろうか…

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