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突然の誘い

『セレーナ!よくもアイリーン様を!』

『誤解よ!』

『僕を騙してたん?ショックやなぁ』

『違う!』


 ラウルとルーファス、二人から感じられる憎悪と悲憤。


『待って!話を聞いて!』


 少しでいい!ほんの少しだけ、私の話を聞いて!


 必死に懇願するが、二人は聞く耳を持たない。そして、振り下ろされる鋭い刃…

 真っ赤に染る視界の中て最期に見たのは、冷たく軽蔑した眼を向けるラウルだった…





「──はっ!」


 はぁはぁ…と息を切らしながら飛び起きた。斬られたはずの首元に手をやるが、痛みはなく血も流れていない。


「夢……」


 最悪の目覚めだ。

 全身は汗でビッショリ。喉はカラカラ。寝た気がまったくしない。


「起きましたか?」


 その声にヒュッと喉が鳴った。


 夢の中でセレーナに刃を向けた本人…ラウルが目の前にいた。


(え?なんで、この人が?)


 そう思った時、ハッと周りの様子に気が付いた。ルーファスとリオルの姿はなく、豪華絢爛な装飾品が並んだ城の一室ではなく、そこは紛れもなく街外れのセレーナの家だった。


「あれ?夜会は?」

「寝惚けているんですか?」


 実際、あれ夢だったのでは?と、自分でも思う。なんなら夢であって欲しい。夜会なんて楽しい所じゃない。あそこは戦場だ。


 軽いトラウマになりかけたセレーナが、手をベッドに置くとカサッという感触。嫌な予感が頭をよぎる。


 手元を見ると、一枚の封筒があった。


 見つけてしまった以上、見ない訳にはいかない。ラウルに見つからないように、ソッと中を覗いて見た。


『目が覚めたかい?気を失っている君を置いて行くのは忍びなかったけど、僕らがそこにいると迷惑がかかりそうだったからね。なんか逆にごめんね?次はちゃんとお礼するって約束するよ』


 もうお腹いっぱいです。本当にマジで十二分です。


『追記、イヤーカフは君にあげる。それさえあれば、自由に行き来できるからね』


 耳に手を当てれば、確かにあった。これは素直に嬉しい。


(これで、逃げだす準備が出来る)


 ニヤニヤしながら手紙を眺めていて、背後に近付く気配に気づかなかった。


「…ほお?手紙ですか?誰からです?」

「ひィ!」


 反射的に手紙を握りつぶしてしまった。


「そこまで驚くことないでしょう?もしかして、私に見られてはマズイ内容でしょうか?」


 非常にマズイ内容だが、必死に頭を振って誤魔化す。


「へぇ?その割には随分大事そうに握ってますが?」


 綺麗な顔を近付けられ目が泳ぎそうになったが、グッと視線を外さなかった。

 ここで外せば、疑いが確信に変わってしまう。


「…ところで、お腹は空いてませんか?」

「え?」


 外を見れば、太陽は真上に来ている。もう昼過ぎだ…


「貴女を真似て見たんですが…」


 遠慮がちに出してきたのは、野菜がゴロゴロ入ったスープ。


「これは?」

「貴女が起きるまで時間を持て余していたんです。無理強いするつもりはありません。あぁ、毒も入っていないので安心して下さい。なんなら私が先に食べてみせましょうか?」

「いえ、大丈夫です!いただきます…」


 恐る恐る口に運んでみる。


 トマトにじゃがいも、キャベツに人参。どれも形が歪で大きさも不揃いなので、火の通り方もバラバラ。味付けも、味があればいいって感じ。正直、不味くもなければ美味くもない。だけど、自分の為に作ってくれたと言う気持ちは素直に嬉しい。


「ふふっ」

「なんです?」


 急に笑い出したセレーナを、ムスッとした顔で睨みつけた。


「ごめんなさい。有能な団長様でも包丁の扱いには苦戦したんだなぁと思って」


 この人がじゃがいもの皮を剥いている姿を想像したら耐えられなかった。


「私にだって不得意なものはあります」

「人間らしい一面が見れて良かったですよ」

「貴女は私をなんだと思っていたんですか?」


 クスクス笑う私を見たラウルは怒るどころか、眉を下げてはにかんでいた。そんな表情も出来るんだと、少し驚いた。


「それにしても、料理する程の時間があったんですね」


 いつものラウルは滞在時間は数分程度。一時間もいれば長い方。それなのに、今日に至っては、何時間もいた事になる。


 ラウルは少し言いずらそうにしながらも、口を開いた。


「城内で少々問題がありまして…」


 何となく察しが付いた。問題を起こしているのはアイリーンだと。


 推しであるルーファスに女の影があるとなっては、心中穏やかじゃない。荒れるのも分かるが、ヒロインの仮面が剥がれては元も子もない。…王子の方も虚をつかれたんだろうな。


 まさか婚約早々、他の男に色目を使うんだから。


(まあ、私には関係無いこと)


 スープを啜りながら呑気に構えていた。

 出されたものは、どんなものでも残さず食べる。農家に生まれた者の暗黙の掟。


「どうです?この後、一緒に街へ行きませんか?」

「へ?」


 急な誘いに、スープが口からこぼれ落ちた。

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