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第4話 賢者の家

俺が戦士の少女につれていかれた場所はさっき木の上から見えたレンガ造りの家だった。

彼女の家なのだろうか。

少女はドアを開けて家の中に向かって何か叫んだ。

ただいま、とでも言ったのだろう。

俺が玄関で立ち止まっていると、少女はまた俺の腕を引っ張った。

そしてある部屋の前で立ち止まると、少女はドアをノックして部屋の中からの返事を待たずにさっと開けた。

部屋の中にいたのは青い蝶のような羽を持った手のひらサイズの小人だった。

妖精(フェアリー)なのだろうか。

「お帰りなさい、リナ。」

妖精は日本語で少女に向かって言った。

「フリ ファイマ」

それに対して、リナと呼ばれた少女は現地語らしき言葉で答えた。

「そっちの男の子は?」

「リュッカ セセリクゥ」

「あんな何もない森で一体何をしてたの?」

妖精は心配そうに形の良い眉をハの字にして俺に尋ねた。

「わからない。気がついたらあの森の中に立ってたんです。」

「あなた、もしかして転生者?」

俺が言うと、妖精はハッとしたように目を見開いて俺を見つめた。

「多分、というかこの場合転移者と呼んだほうがいい気がしますが…。」

「確かにね、あなたの名前は?」

「俺は逆波 景太(さかなみ けいた)です。」

「よろしくね、サカナミくん。私はスグハ。妖精で、人間たちからは賢者と呼ばれているわ。こっちの女の子はリナ。私の娘みたいなものよ。」

俺はよろしくお願いします、と返した。


あの後、俺は賢者さんから魔法石というものをもらった。

翻訳機のような役割ができるらしく、しばらくはこれを使って他人との意思疎通をすることになった。

とは言え、今のところ翻訳石が必要なのはリナさんとの会話だけだが。

俺は行く宛がないので、賢者さんの家で世話になることになった。

賢者さんからこの世界のことについて教えてもらった。


この世界には魔物が存在し、人類は特技や魔法を用いて魔物と戦っているらしい。

魔法は緻密に組み込まれた術式を理解し、それを戦闘中に呪文にして発するか、魔法陣を描いて発動させなければならないらしい。

一方特技はセンスさえあれば誰でも習得できるらしい。

俺は明日リナさんになにか特技を教えてもらうことになった。

ちなみに俺は魔法が使えるのかと尋ねたところ、体内の魔力量を測ってもらった。

ラノベとかだと転移してきた人はだいたいめっちゃ魔力持ってるか、まったくないかのどっちかだよなあ。

そんなことを考えながら、賢者さんに結果を聞くと、

「全くないわね。」

全く無かった。

「魔力がゼロっていう人はこの世界では生まれないわ。転移者なら話は別だけど。魔力がないから、残念だけど、魔法は使えないわ。」

「…。」

「まあ、いいじゃないですか。魔法が使えないなら、特技を極めればいいんです。」


かなりショックを受けながら、リナさんの昼飯と夕飯のための食料調達についていくことになった。

俺はリナさんから弓と矢、それからナイフを借りた。

「この森にはオオカミ以外にもクマや魔物もいるから気を付けてください。」

「わかりました。」

リナさんは俺よりも年下らしい。

その割には大人びた喋り方をしているが。

しばらく無言で森の中を歩いていると、リナさんが俺を引き止めた。

「鹿ですね。気づかれなければ動きはそこまで速くないですから、弓矢の使い方を教えます。」

俺はリナさんに弓矢の使い方をレクチャーしてもらった。

「弓はしっかり引き絞ること、息を吸いながら引くといいです。」

俺は言われた通り息を吸いながら弦を引いた。

「そう、そうしたら矢は獲物よりも少し上を狙って放って。」

俺は矢の先を少し上に傾けて息を吐くとともに矢を放った。

矢はなだらかな弧を描きながら鹿の足元にポトリと落ちた。

「…まあ、最初はそんなものですよ。」

俺達の存在に気づいたのか、鹿は俺達とは反対の方向へ駆け出した。

「しまっ…!」

俺が二本目の矢を取り出そうとすると、リナさんは隠れていた茂みから飛び出し、ものすごい速さで鹿を追いかけて腰にさしていたダガーで鹿の首に突き立てた。

鹿は喉を貫かれたためか、声も発せずに絶命した。

「すげえ。」

俺が思わずつぶやくと、リナさんは俺に手招きをした。

「じゃあ次は解体を教えます。」


解体作業はリナさんに教えてもらいサクッと終わらせた。

生臭い匂いや血を見るのはそこまで慣れていたわけではないが、案外大丈夫だった。

まあ、昨日オオカミを撲殺しちゃったしな…。

正当防衛とはいえ、動物を殺害してしまったため、そのこともあってか、解体作業で吐き気を覚えることも特になかった。

俺達が解体して細かくした鹿の肉を布の袋に詰めていると、茂みから血の匂いを嗅ぎつけたのか、何か小柄な人形の生物が3匹現れた。

「ご、ゴブリン…!」

リナさんがヒッと息を飲むのが聞こえた。

「強い魔物なんですか?」

「あ、あたし、魔物と戦ったことがなくて…。」

ええぇ!?

「鹿をあんなにあっさり狩っといて!?」

「だ、だって魔物っておかしな術を使うんだもん!怖いんだもん!」

だもんって…。

俺は解体用に取り出していたナイフを構えた。

「逃げたほうがいいよぉ!」

リナさんは足をガクガクさせながら言った。

「大丈夫ですって。」

ゴブリンが持っている武器は木の枝を削って作ったのであろう棍棒だ。

全体的にガリガリで、そこまで強そうには見えない。

俺はリナさんをかばうように立ちながら、ゴブリンの動きを注視した。

ゴブリンはすっと腰を低く落とした。

次の瞬間、ゴブリンは臭い息を吐きながら俺の目の前まで迫ってきていた。

どうやらゴブリンの術というのはこの異常なほどのスピードということらしい。

俺は突進してきたゴブリンに向けてナイフを構えた。

すると次の瞬間、グチャッという嫌な音とともにゴブリンの剥げた頭にナイフが突き刺さった。

俺はナイフをゴブリンの頭から引抜いて、次に来る他のゴブリンの攻撃に備えた。

すると、他の二匹のゴブリンは俺の方を指さしてなにやら喚いた。

どうやら仲間を殺されたことでひどく怒っているらしい。

「いや、今のはこいつが突っ込んできたからだろ!」

俺が思わず突っ込むと、ゴブリンたちはさらに怒って、何やらおかしな帽子を被ったゴブリンが俺に向かって、光の玉みたいなものを投げてきた。

「危ない!」

リナさんの悲鳴に近い叫び声が聞こえた。

避けようにも、後ろにはリナさんがいる。

俺は正面からその玉を受け止めた。

と、思ったのだが、玉は俺に触れる直前、ふっと消えた。

玉を放ったゴブリンはもちろん、俺も唖然とした。


もしかして、俺には魔法が効かないんじゃないか?


俺はそんな期待を抱きながら、ゴブリンに言った。

「おぉい!今のもっかいやってくれ!」

「ばかばか!そんなことやってる場合じゃないですよぉ!」

リナさんは涙目になりながら俺の袖を引っ張った。

「でも多分あいつら逃げてもついて来ちゃいますよ。」

さっきのめっちゃ早いゴブリンの動きを思い出しながら言った。

リナさんは思い出したようにビクンと震えた。

「ここで倒します。」

俺は優しくリナさんを下がらせて、ナイフを構え直した。

ゴブリンは今度は二手に分かれることにしたらしく、別々の方に分かれて走り出した。

狙いは…やっぱりリナさんだな。

おかしな帽子を被ったやつは魔法が効かない俺をスルーしてリナさんへ飛びかかった。

が、俺はゴブリンをキャッチしてそのまま地面に叩きつけた。

もう一匹の方も遅れて俺に飛びかかった。

今度はナイフで串刺しにした。

小学校の頃にバスケット教室に通ってたおかげか、とっさにゴブリンをとらえることができてよかった。

昔から虫取りで動体視力はそれなりに良かったんだよなあ。

「す、すごい…。」

一連の様子を見ていたリナさんが、目を丸くしてつぶやいた。

俺はここぞとばかりにかっこよく前髪をかきあげた。

可愛い女の子の前だ。

このくらいはかっこつけないとな。

地面に叩きつけたゴブリンがうなりながら声を上げた。

この期に及んでまだ、反撃を企てているらしい。

俺は容赦なく、心臓を一突きした。

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