第3話 戦士の少女
俺はいつの間にか眠ってしまっていたらしく、朝の日の光に起こされた。
俺の目の前には焼け焦げた焚火の後と、オオカミの焼死体が転がっていた。
俺はオオカミを撲殺した棒を持って立ち上がった。
まだ少しズキズキと痛む足を引きずりながら川のあるところまで歩いていった。
川は昨日と同じようにさらさらと穏やかに流れていた。
俺は足に巻いていた布切れを外して、川の水に浸した。
傷口に水が染みてヒリヒリとして痛い。
血は固まっているが、それでも一応傷口を洗っておいたほうがいいだろう。
土にはどんな菌が潜んでいるかわからないからな。
まあ、川の水にも菌が潜んでいるかもしれないが…。
俺は足に巻いていた布切れも水に浸して洗った。
雑巾のように絞って水を切って再び足に巻き付けた。
俺は棒を杖代わりにして立ち上がった。
川の流れに沿って進めば町に出るだろうか。
川の流れる先を眺めて俺は歩き出した。
しばらく歩くとガサガサと茂みが揺れて、何かが飛び出してきた。
昨日のオオカミの仲間だ。
昨日撲殺したオオカミよりも一回りくらい小さいサイズだが、歯をむき出しにして俺を威嚇している。
2匹のオオカミは俺を前後から挟みうちにしていて、もう1匹は俺の右側から現れて、逃げ道を塞いでいた。
俺の左側には川が流れていて、そちら側に下がれば、川の流れに足をとられてしまうだろう。
俺は川を背にして棒を前に構えた。
まさに背水の陣だな…。
右側からオオカミが俺に飛び掛かってきた。
俺は驚いて棒でオオカミを弾いた。
だが棒はオオカミの横っ腹に当たっただけで、弾き飛ばすことはできなかった。
オオカミは棒に齧り付き、そのまま後ろに飛び退けた。
俺は棒をオオカミに盗られてしまい、丸腰になってしまった。
「武器無くすの早過ぎるだろ!」
俺は恨み言を呟いて、河原に転がっている手頃な石を握った。
俺は石をオオカミに向かって投げつけた。
石はオオカミの足に当たり、オオカミは声を上げて後ろに下がった。
俺はひるんだオオカミを蹴り倒してそのまま全速力で逃げた。
オオカミも俺を追って走ってきた。
火事場の馬鹿力というのだろうか、普段大した運動をしていない俺だったが、オオカミよりも速く走ることができ、何とかオオカミをまくことができた。
俺は登りやすそうな木を見つけ、その木の上に登った。
オオカミは四足歩行だから木には登れないだろう。
俺は木を登れるだけ登って、できるだけ高い所から周囲を見回そうと思ったのだ。
登っている途中で赤くつやのある木の実がなっている枝を見つけた。
俺はよくよくその木の実を観察した。
俺は手を伸ばし、木の実を毟って一口齧ってみた。
綺麗な赤色をしていて、見た目通り甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。
「リンゴだ!」
俺は思わず声を出して、さらに赤い木の実ー…リンゴにかぶりついた。
一日ぶりに胃に食べ物が入り、俺の胃袋はさらに食べ物を求めるようにぐぅぅと声を上げた。
異世界に放り込まれてからずっと緊張しっぱなしだったから、お腹が空いていることに気が付かなかったのだろう。
俺はリンゴをさらに毟って、次々に口の中に放り込んだ。
…それにしても、ここは本当に不思議だな。
リンゴのなる木を実際に見たことはないけど、こんなに幹の太い木だっただろうか。
俺が乗ってもびくともしていない。
この森の木々はかなり大きく、一本一本の木が太い気がする。
俺はリンゴの芯を地面に落としながら、辺りを見回してみた。
周囲は森の緑で埋め尽くされていて、開けた場所はほとんど確認できない。
探す方向を変えようと後ろを向くと、遠くに石でできた屋根のようなものが見えた。
屋根の上には煙突が付いているが、煙が出ているわけではなかった。
とりあえず俺はその家のようなものに行くことを目標として、俺は木から降りようと木の下を覗いた。
すると下にはさっきの3匹の狼が俺が降りてくるのを今か今かと待ち構えていた。
どうしたものか…。
これがゲームだったら、木の枝から枝へと飛び移って逃げるところだが、俺の身体能力じゃ絶対に無理だろう。
あいつらが諦めるまで木の上で待機していようか…。
そう思っていると、狼の背後を歩く人影が見えたら。
どうやら狼の存在に気づいておらず、手ぶらの状態でこちらに向かってきていた。
「逃げろ!狼がいるぞ!」
俺は思わずそう叫んで警告した。
するとその人は俺のいる木を見上げた。
その人は大きく息を吸い込んで、鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらいの声量で叫んだ。
俺が耳を塞いで、木の上から転げ落ちないようにしていると、いつの間にか狼はどこかへ逃げてしまっていた。
俺は不用心にも木から降りて、狼追い払った咆哮を放った人間に近づいた。
「ありがとうございました。助かりました。」
「ウォリ シュアラデ カジュミキェ?」
「え…?」
俺は思わず聞き返した。
「ウォーリ ミキェ?」
戦士の少女はややイライラしたように言った。
そう、狼を追い払った咆哮を放ったのはこの少女だったようだ。
身長は俺と同じくらいで、タンクトップのような服に、ショートパンツを履いていた。
かなり動きやすそうな服装だ。
赤茶色の髪を肩で切りそろえていて、瞳はエメラルドのような透き通った緑色をしていた。
腕には金属製のガントレットを装着していて、腰には幅の広い刃のダガーを刺していた。
「ウォーリ…?」
彼女は俺に言葉が通じないとわかったのか、大きくため息をついて、俺の腕を引っ張った。
「キシュ レリレ」
少女の力は見た目よりも遥かに強く、俺は少女にされるがまま、どこかへ連れていかれた。




