第2話 異世界初めての夜
一向に森を抜けられないまま、すっかり日が暮れてしまった。
電気スライムに会ってからその他の生き物にも会っていない。
夜と言えば強力な魔物がうろつく時間帯だ。
この世界にどんな魔物がいるのかは知らないが、用心するに越したことはない。
しかしどこに行くのが安全なのか分からかったため、俺は太めの木の幹を背にして、火を焚くことにした。
とは言え、生まれてこの方火起こしなんてしたことがなかったため、いつまで経っても火は付かなかった。
木の皮に木の枝を擦り付けて火を起こそうとしたのだが、腕力が足りないのか煙すら出ない。
明るいうちにしっかり準備しておくんだった。
枯草や乾燥した木の枝がないから火おこしができないのだろう。
俺はいつまでも火が付かない木を擦り続けながら、何故俺はここに飛ばされたのだろうと考え始めた。
前世で死んだことは確実だろう。
あのでかいトラックに頭から轢かれたら死ぬだろうな…。
だがここに来るまでの記憶が一切ない。
神様にでも会って、何か能力を授けられて、世界を救う的なあれだったのだろうか?
しかし今のところそれらしいスキルは見てないな。
俺は木を擦りながら何かないかと今試せそうなことを試すことにした。
そうだな…。
ステータスは開けるんだろうか?
俺はまず心のなかでステータスが開くように念じてみた。
しかし目の前に光るステータスシートが現れることも、頭のなかに声が響くこともなかった。
そこで今度は声に出してみることにした。
「ステータスオープン!」
しかしゲームのようなステータス一覧が現れることはなかった。
言い方が違うのだろうか。
「ステータス、開け!」
しかしスキル一覧は現れない。
段々と虚しくなってきたところで小さな煙が木から出ているのに気が付いた。
俺は急いでその辺に落ちていた枯葉を広い集めて火を付けようと息を吹きかけた。
しかし、煙は次第に消えていき、やがて完全に消えてしまった。
また一からやり直しだ。
そこでふとさっき拾った電気スライムの石のことを思い出した。
この石を破壊した途端、スライムの体から電気が抜けたのだ。
もしかしたらこの石には電気の力が込められているのかもしれない。
俺はさっき煙があがった木の枝に砕けたスライムのレモンキャンディーのような色をした石を置いてみた。
しかし何も起こらない。
そりゃそうだ。
石を砕いてしまったんだし、そもそも関係なかったのかもしれない。
俺は少し考えて乾いた石を拾って石にぶつけてみた。
すると、ほんのわずかだがバチッと音を立てて白い閃光が走った。
もしかしたらこれで火が付くかもしれないと思い、俺は再度枯葉に向かって石同士をぶつけてみた。
すると小さな火花が枯葉に燃え移り、小さな火を起こすことに成功した。
俺は急いで火を大きくしようと枯葉をかき集め、風がこないように土を盛って簡易的なかまどらしきものを作ってみた。
しかし風がこないということは空気も入ってこないといことだ。
火は少しずつ勢いを弱めて行った。
俺は慌てて息を吹きかけて火に向かって空気を送った。
火は何とか勢いを取り戻し、また当たりを明るく照らし始めた。
俺は少し安堵しながら焚火の火を見つめた。
焚き火の明かりと熱でうとうとしてきた頃、どこからか犬の唸り声か遠吠えが聞こえてきた。
オオカミでもいるんだろうか。
俺は木の枝に火を移して、松明を並べてみることにした。
しかしなかなか火が燃え移らなかった。
俺は火の勢いが弱まらないように枯れ葉なんかを焚べた。
できるだけ背後を取られないように木の幹を背中にくっつけて作業をしているので、自分でも不格好だなとは思う。
しかし段々と唸り声と足音がこちらに近づいてきている。
俺は護身用にと拾ったいい感じの木の棒を構えた。
唸り声と足音はすぐそこまで迫ってきていた。
姿が見える、というところまで来たところで黒い影が俺に飛び掛かってきた。
俺は棒を振って相手の足に思い切りぶつけた。
腕には確かな手応えがあり、黒い塊は俺から距離をとった。
そいつは赤い目をしていて、真っ直ぐに俺の方を睨んでいた。
しかも1匹だけじゃない。
後から3匹のオオカミが現れた。
「これは…やばいかも…!」
俺は木の棒を構えて防御の姿勢をとった。
最初に出てきたオオカミが今度は姿勢を低くして俺の足に噛みついてきた。
「っ…!」
脹脛にやつの牙が食い込んでいくのがわかる。
俺は痛みに耐えながら木の幹にオオカミを叩きつけた。
しかしそう簡単に離れてくれるわけもなく、オオカミは依然として俺の脹脛に噛みついたまま離れない。
他のオオカミも俺に飛びかかってこようとジリジリと体勢を低くしている。
俺はなんとか握っていた棒を噛みついているオオカミの頭に思い切り振り下ろした。
オオカミは一瞬噛み付く力を弱めた。
俺はその隙にもう一度棒を叩きつけた。
「うあぁぁあぁ!!!」
俺は痛みに耐えながら渾身の一撃をオオカミにお見舞いしてやった。
するとようやくオオカミは俺の足を解放して、よろよろと後ずさりし始めた。
だが俺はその時何を思ったのか、オオカミに向かって更なる追撃を仕掛けた。
オオカミはその場に倒れ伏し、周りにいたオオカミたちは俺のその必死の形相に恐怖を覚えたのか、はたまた仲間の死に動揺したのか、その場から脱兎のごとく逃げ出した。
俺はその場に残ったオオカミの死体に近づいた。
今までこんなに大きな動物を殴ったことはなかったし、ましてや殺したことなどなかったから、アドレナリンが切れた途端、物凄い不快感が俺を襲った。
蝿や蚊なんかはプチプチと潰してきてもなんとも思わなかったが、哺乳類を殺したことには大きな罪悪感が生まれた。
だが、そのまま放置するとそれこそ蝿なんかが集ってくるだろう。
俺は毛皮を剥ぎ取るような道具も技術も持っていなかったため、このオオカミの死体を焚き火の燃料にすることにした。
焚き火の周りの土を少し退けて、オオカミを火が消えないように慎重に下ろした。
オオカミの肉は食えるのかもしれないが、適切な処理の方法を知らなかったので、食料も諦めることにした。
オオカミを火葬している間、俺はオオカミに噛まれた足を服の一部を破いてカバーしていた。
服は前世の工業製品ほど丈夫ではないようで、ビリビリとあっさり破けてしまった。
血はもうすでに止まっていて、歩くと少しズキズキするが、まあ大丈夫だろう。
俺は明日川の水で足を洗うことにして、自分が殺したオオカミを、命が焼かれる様を目に焼き付けながら一晩を過ごした。




