第18話 ネトゲの人身売買!? 騙そうとする人は騙される。
13話 ネトゲの人身売買!? 騙そうとする人は騙される。
新しく作ったキャラ「レナっち」でダークナイトのショウヘイから800,000Gを手に入れた私は、一旦ログアウトし、念のため先ほど売り払ったキャラ「レナ」のIDとPWでログインを試みてみた。
『パスワードが間違っています。
もう一度、正しいパスワードを入力してください』
まあ、当たり前だよな。
当然、ショウヘイは私がレナを差し渡した後に値引き交渉をしてくるような性格であるから、そのあたりは抜け目なく、しっかりとPWの変更を行っていた。
しかし、私はショウヘイがPWを変更し忘れることを期待するほど、不確定極まりない手段をとるつもりはない。
ましてや、ショウヘイが設定しそうなパスワードを予想して、手あたり次第打ち込んでいくような不毛なこともするはずはない。
むしろ、PWが変更されていないと困る。
このネトゲでPWを変更する際は、ゲーム内のメニューではなく、別途インターネットブラウザのゲームアカウントページにログインし、手続きを行う必要がある。流れとしては、以下のようになる。
「パスワード変更画面」
→現在のIDとパスワードを入力してください。
→新しいパスワードを入力してください。
→本当に変更してもよいですか?
→はい(★)
→パスワードが変更されました。
ショウヘイも、私がIDとPWを教えた後に、このような手続きの流れを経てPWを変更している。
実は私は、ショウヘイにIDとPWを教える前に、変更前のPW:kurogomapurinでパスワード変更画面にログインしたあと、新しいPW:namerakapurinを入力し、(★)の画面まで手続きを進めていた。
つまり、ログインは完了しているが、まだPWは変更されておらず、「はい」をクリックするだけで私が事前に設定しておいた新しいPWに変更されるという算段である。
ここで「はい」をクリックすれば、いくらショウヘイにPWを変更されても、あらかじめ入力しておいた新しいPW:namerakapurinに上書きすることができる。
パスワード変更画面の脆弱性をついたタイムラグ法だ。
私は「はい」ボタンをクリックし、PWはnamerakapurinに上書きされた。
再び新しいPWを入力してレナにログインすると、無事レナはまた私の手元に戻った。
悪いがショウヘイ、もう君のPWではログインできない。
この方法をしばらく繰り返してゴールドを貯めていき、ある程度お金がたまったら、本当にレナを売って、更に強いキャラと交換する。
同じようにレナを使って、もう一度リプールの広場で取引ボードを掲げていると、2人目のターゲットが話しかけてきた。
またも、育てて間もない初級職の女性キャラである。
「はじめまして。取引希望です」
「ありがとうございます。
念のため、1,000,000Gがあることを確認させてもらっています」
「……あ、すみません。このキャラでは持ってないのですが」
「それでは、持っているキャラでログインして見せてもらえますか?」
「分かりました。他のキャラできます」
……。
少し時間が経って、中級職のヒーラーがこちらに近づいてくる。
「先ほどの取引希望のものです」
「はい。それでは確認させていただきます」
取引ボードで、確かに1,000,000Gを持っていることを確認する。問題ないな。
……だが私はなんとなく腑に落ちない点があった。
最初のキャラを転職させる時に、キャメルのように仲の良いグループメンバーに勧められたような場合を除いて、ヒーラーに転職する人は少ない。
なぜなら、せっかく冒険もののVRMMORPGをプレイするのだから、最初のキャラは補助役ではなく、戦士や魔法使いの攻撃タイプに転職して楽しみたいと考えがちだからだ。
なので、回復役のヒーラーは、2体目に移行に作成するケースが多い。
彼女のヒーラーは、本キャラなのだろうか?
そしてもし、他に本キャラがいるのなら、なぜわざわざ2体目のキャラで取引を行うのか……。ちょっと嫌な予感がするな。
本当は他にもっと強い本キャラがいて、この中級職のヒーラーでレナのIDとPWを聞いた後、トンズラするのではないだろうか。そうしたら、相手にとっては本キャラの名前が明るみになることはなく、完全犯罪の成功である。
本来なら、ここでリスクを排除するため、深く踏み込んで質問するのだが、私には他の考えがある。他にヒーラー以外のもっと強いキャラがいたとして、全く構わない、むしろ強ければ強いほど好都合だ。
「ご面倒をおかけしてすみません。
1,000,000Gがあることを確認しました」
「いえいえ。確認は大切ですよね」
「ありがとうございます。
それでは、IDとPWを教えますね」
「はい」
「IDはgyunyupurin、PWはnamerakapurinです。
私は、レナっちというキャラでここに来るので、PWを変更したら、そちらに代金をお願いします」
「分かりました」
「それでは、ログアウトします」
私はレナからログアウトした後、すぐにレナっちでログインし、またリプールの広場に戻る。
そこには、既にレナがログインされていて、静止していた。
おそらく今、パスワード変更の手続きをしているのだろう。
黙ってみていると、PWを変え終わったとみられるレナが動き出した。
私の手元から離れたレナが、嬉しそうにしゃべり始める。
「おっ。ちゃんと育ててるじゃん。イタチの指輪もあるし」
「はい。すぐに中級職に転職できます」
私は、レナっちのキャラで答える。
それにしても、PWを教える前は謙虚な物腰だったのに、PWを教えた後は、なんだか言葉遣いが変わって生意気になっている。
念のためインターネットブラウザの新規画面でパスワード変更ページを確認すると、既にPWは変えられていた。
どいつもこいつも、自分が有利な立場になると、人が変わるものだ。
「へえ。サンキュな」
「……。PWを変更されたようですので、先ほどのキャラで代金をお願いします」
「は? バカなん?
君、ニューワルド、初心者?」
「どういう意味ですか?」
「もうPW変えたよw
どんまい」
「払わないということですか?」
「当たり前じゃん。
いい勉強になったな。それじゃ」
「待ってください」
レナは、目の前から姿を消した。
ふふ、そんなことだろうと思った。
私はあえて、前回のようにすぐにPWを上書きせずに、しばらくヤツを野放しにしておくことにした。あのヒーラー女は、私のことをまんまと騙して、レベル15まで育てたキャラとイタチの指輪をゲットしたと思っているだろうが、罠にかかったのはヤツの方である。
残念ながら、私の方が一枚上手だったな、ニューワールド初心者よ。