仮面の君
俺は、トボトボと重い足取りで自分の家に向かっていた。
行き交う人々。皆、笑顔だった。この中で陰気くさい顔をしているのは、俺だけなのか。そう思うと、何だか自分が惨めに見えてくる。
俺は、軍人だ。
俺は、この都を守る、軍人だ。
俺は、都の人々の、笑顔を守る、軍人だ。
なのに、どうして、敵対する都の事ばかり考えてしまうのだろうか…―――――。
ドン。
それほど強くない衝撃が左足から伝わった。足元を見ると、今にも泣きそうな顔をしている男の子が俺の顔を見つめていた。その顔には、恐怖が滲み出ている。…それほど俺の顔は酷いのか。
「……痛いか」
「…う、うう…」
たずねても、呻くだけ。…だから、子供って苦手なんだ。すぐ泣くし、顔を見るだけで逃げ出していく。
はあ、と溜息をついてしゃがみこむと、男の子は、4,5メートル先の何かを小さな指で差していた。何かあるのか。俺はその先にある物の方へ顔を向けた。
「…!?」
そこには、道の真ん中でぐったりと倒れている、物体があった。
「…お兄ちゃん、お願い。あの女の人を助けて」
か細い声で、必死に訴える。男の子は誰かに助けを求めようとして走ってきたところで、俺にぶつかったらしい。…恐怖は、俺のせいじゃなかったんだな。
「坊主、ありがとなっ!!」
俺は男の子の頭を乱暴にぐしゃぐしゃにして立ち上がって、慌ててそのぐったりとしている人物の元へ走っていった。
「おい、大丈夫かっ!?」
俺は倒れている人物を抱え起こして、大声で怒鳴った。でも、その人物は苦しそうに顔を苦痛にしかめるだけだ。腹部は、赤黒く染まっていて、もはや元の服の色が分からない位だ。その他にも、見ていて可哀想になるような傷が幾つもあった。
「返事しろ!!おい!」
「……う……」
顔を覗いた、俺は一瞬戸惑った。
その人物は、顔に、その小さな顔を半分以上覆う仮面をつけていたからだ。
苦しそうに呻くだけで、その額には仮面のしたから脂汗が滲んでいて、顔色は青白かった。もはや生きているのがやっと、これ以上放置するのは危険だと、俺は悟った。
…ここらには、医者は無い。
「くそっ…」
小さく吐き捨てると、俺はその人物を抱きかかえ、全力で走った。
ここから一番近くて、治療が出来る場所。それは、…俺の家だった。
「今から俺の家に行く…。治療してやるから死ぬんじゃねぇぞッ!!!」