憂鬱の種
…この国は今、二つに分かれている。
国の中心にある湖、「ウラヌス湖」を境として東の蒼の都と西の紅の都に。
以前まではこの蒼と紅の都の他にも幾つか都があったが、この二つの国が勢力を広げていき、ついには二つの都のみとなった。
二つの都には一人ずつ、長がいる。
東―――蒼にはこの戦乱が起きるずっと前から都の長を務めてきた一族、「櫻華族」と呼ばれる民族がおり、今の長もこの櫻華族の長であるクラーク様がこの都を治めている。
西―――紅には、『ローズブラッド』と呼ばれる軍隊の司令官、セイエイが任命されている、というのをでこかで聞いた。
とりあえず、どちらかの都が敵対する都の長を捕まえれば、その都が勝利、よってその都はこの国―レイカ国を統一したことになる。だから二つの都は戦っている。
…たとえ、小さなものを傷つけたとしても。
…たとえ、一つの恋が終わってしまっても。
…たとえ、家族がばらばらになったとしても。
俺達は戦い続ける。
「…ご苦労、アリト君」
「はっ」
上官に報告を済ませた俺は、敬礼をして、足早に煙草のにおいが染み付いたその部屋から出た。ウラヌス湖の近くで勃発した紅の都との戦いに勝利し、揚々と帰還した仲間達はこれから朝まで近くの酒場で飲み明かすらしい。もちろん誘われたが、断った。…そんな気分じゃない。そう言って。
この都―――蒼の軍隊『ヴァイオレット』の本部がある本館を憂鬱なまま後にした俺は、なんとなく町へ出てみた。
にぎわう商店街。
笑顔で通り過ぎる子供。
日向で寝ている白い猫。
…みな、幸せそうだった。
だが、戦いに敗れた紅の都はどうなんだろう。蒼の様にみな幸せだろうか。蒼のように笑って暮らしているだろうか。蒼の様に毎日が楽しいだろうか。
そんなことを考えていたら、いつの間にか下を向いていた。
…この戦いは、どう終わるのか。
これは、誰にも分からないことだった。