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最近、強めの幻覚をキメてた話

作者: みや
掲載日:2023/07/16

最近、強めの幻覚をキメてた話



 4年前に車を買った。買った当初はあまり見かけなかったが、最近は同じ車種とよくすれ違うので、まあ一般的なのだと思う。

 最近の車はとても便利だと思う。運転アシスト機能、いつもお世話になっております。わたしの車にもついており、車が何かに近づき過ぎると、ピピピッと警告音を出してくれる。


 先々月頃からだろうか。自宅から300メートルほど離れた場所に田んぼに囲まれたY字路があるのだが、仕事終わり、帰宅中にそこを曲がると、別に何かに近づいたわけでもないのに、ピピピッと警告音がするようになった。


 自宅はド田舎なので、街灯もほぼない。確認はできなかったが、毎回鳴るわけでもないので、窓から見えない位置に小動物でもいたのかと思って、あまり気にしていなかった。


 先月の中頃、盛大に体調を崩した。あまり丈夫な人間ではないので、体調不良はよくある。しかし、仕事の繁忙期と重なってしまい、帰りが深夜帯になることが確定している中での体調不良は、なかなか堪える。事故にだけは気をつけようと、眠気覚ましの音楽をかけながら、いつものようにY字路を曲がった。


 ピピピッと警告音が鳴った。知らず知らずにボーッとしていた。我に返り、何かを轢いたりしていないかと、バックミラーを確認した。見づらい。ここら辺で1つだけの街灯の下で、よく見ようと減速した。


 後部座席に何か、いる。


 道路を確認する前に、何某かが後部座席に座っていることに気が付き、急ぎ視線を前に戻した。

 全体的なフォルムは人間に近いが、明らかに右の側頭部がデカい。そして、真っ黒だ。あまり目に入れておいても、いいことはなさそうである。

 次の街灯があるのは、自宅から20メートルほどの位置だ。周囲は真っ暗で、再度確認できるのはたぶんそこだけである。体調は最悪。騒ぎ立てるような気力はない。とりあえず、スピーカー音量を上げてみた。


 (お客さん、どちらまで?)

 明らかに無賃乗車ではあるが、とりあえず、内心でタクシーの運転手ごっこを始める。もちろん、声には出さない。目も合わせない。ちなみに、タクシーに乗ったこともない。ド田舎なのだ、しょうがない。タクシーなど呼ばずとも、大抵の家には自家用車があるのだ。

 しかし、頭痛による耳鳴りでイライラしているし、自宅まで乗せていくのも嫌だ。次の街灯下でも乗っているのが分かったら、何らかのリアクションを取ろう。そう決意して、車を走らせた。


 街灯下まで来た。嫌々ながらミラーを覗く。

(…いない。)

 何もいなかった。ド田舎は信号機も横断歩道もないので、1度も車は止めていないが、どこかで降りたようである。まあ、自宅まで着いてこないなら、そこまで変なものでもなかったのだろう。その日は10秒でチャージするアレをヂュッとして、風呂に入ると泥のように眠った。


 翌日も体調不良は続く。HPは確実に減っていくが、仕事は増えていく。黙々と残業もこなし、やっぱり爆音で音楽を流しながら帰宅した。

 Y字路まで来た。ピピピッ。警告音だ。連日鳴るのは珍しい。街灯下でそっとミラーを確認した。


(お客さん、髪型変えました?)

 また、乗っている。昨日は右がデカいと思った側頭部は、今日、左側がデカい。別個体なのか、同個体だが頭の形が流動的なのか、判断はできない。だが、明らかに見た目は違っていた。とりあえず、さらにボリュームを上げたステレオからの音楽を聞きながら、車を走らせた。


 昨日と同じ。街灯下まで来たら、消えていた。何なのかは分からない。頭痛からくる耳鳴りがひどいので、声が聞こえたりもしない。得体の知れない何かへの気味の悪さはあるが、何かを訴えてくるわけでもないなら、放置でいいだろう。これは幻覚。そう結論付けた。そんな何某かとの脳内交流は、1週間続いた。


 休日。夜から昼まで13時間の睡眠と、消化に良い食べ物とのコンボをキメる。思う存分「何もしない」を楽しむ時間。最高である。前日までの体調不良と何某かへの気味の悪さを吹き飛ばしてくれる。そこそこの余力を残したまま迎えた翌日仕事終わり。何某かは出なかった。多少帰宅時の運転を気にしつつ1ヶ月ほど。何某は出なかった。


 最近の車はとても便利だと思う。運転アシスト機能。いつもお世話になっております。車が何かに近づき過ぎた時だけでなく、体調不良にまで忠告してくれる。ピピピッ。仕事終わりにY字路を曲がると、警告音が鳴る。決まって具合が悪い日だ。


 あれから何某かを見かけたことはない。しかし、1つだけ気になっていることがある。いくら体調が悪そうでも、わたしが悪さをしようとする側だったら、爆音でマ/キ/シ/マ/ム/ザ/ホ/ル/モ/ンかけてる車に乗り込んでやろうとは思わない。何を思ってわたしの車に無賃乗車したのか。いまだに気になっている。



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