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後編

サウザント領は国の端っこだ、田舎で遠い。

だから異動には2〜3日はかかる。


幸い天気もよく、順調に進み2日ほどで辿り着いた。

「ジャクリーヌ、よく帰ってきた。ウィリー様も遠路遥々お越し頂きありがとう」

と、お父様は歓迎してくれた。お母様も元気そうで何よりだ。

「いえ、未来の妻の生まれ故郷に来られて私も嬉しい限りです」

とウィリー様はよそ行きの顔を貼り付けていた。

それから兵にも挨拶をした、団長がウィリー様と手合わせをして何とウィリー様が勝利してしまうという出来事が起き兵の皆も熱気に包まれウィリー様は直ぐに気に入られていた。

「ジャクリーヌの領地の人は皆いい人だな」

「えぇ、本当に…」

私は久しぶりの我が家に気が緩んでいる。お気に入りのロッキングチェアがまだ残っていて嬉しい。

「私のお気に入りの椅子なんです」

「へぇ、うちの屋敷にも置こうか?職員寮にも用意させよう。ジャクリーヌのお気に入りをたくさん揃えてやるよ」

「いえ、そこまでは」

「心配するな。椅子ぐらいで遠慮しては大商会の妻は務まらないぞ」

「…そうですか」

何だかまだ実感がわかない、互いの契約に今後何もトラブルが無ければ私達は夫婦になる。

幼い時を知っている私はまだウィリー様を異性として見る感覚がない。


私はウィリー様にサウザントを案内した、本当に何もない。数年前まであった村も今は無人だ。

「本当に何もないのだな、国はもう少しここに予算を分配しても良さそうだが」

「戦争が終わり50年もたつので、気が緩んでいるのでしょう。不安に思われるかも知れませんが隣国の跡目争いはとうとう内戦にまで発展しそうな勢いにまでなっています…こちらの勢力を味方につけるため支配下に置こうと考えたら確実にここは狙われます」

「だろうな、ここは唯一の隣国との境だ」

「えぇ、父も何度か王に掛け合ったらしいのですが受け入れてもらえず国の兵を置くこともしてません」

「愚かだな、大方中央の事にしか目が行かないのだろうな」

「…そうですね」

ウィリー様は

「大丈夫だ、ジャクリーヌ」

「…」

「そう暗い顔をするな、俺が成人すれば色んな縛りがなくなる。そうすれば正式に様々な事に取り組めるだろう?お前の故郷を俺も一緒に助けたい、一人で背負うな」

「ありがとう。ウィリー様」

「当然だ、一々礼などいらん」

と照れ臭そうな顔が可愛いなと思った。


サウザントで過ごしたあと、私とウィリー様は中央に戻ってきた。

今度帰るときは婿としてお嬢様をお連れしますと両親に断言していたウィリー様に両親は大喜びしていた。


それから夏休みも終わり、時間は流れあっという間にウィリー様の卒業まで来てしまった。

色んな事があったけど、彼は本当に優秀で首席で卒業をした。平民の身で初めての快挙に彼のファンクラブの女子生徒はむせび泣き、ウィリー様の卒業を惜しむ声が続出し埋もれるほどの縁談の話も華麗にスルーしていた。

貴族の子息でもここまではいかないだろう。

学生の身ながらも卒業する頃には商会の全てを買い取り、ウィリーの父は早期退職し現在各地を旅しながら気ままに遊んでいるらしい。

彼は様々な伝説を残して今日卒業する。


私は職員席から卒業生代表の挨拶をするウィリー様を見ていた。

逞しくなり背もぐんぐん伸びて気づけば立派な男性になっていた。6年前のぽっちゃり少年の面影はない。

私はもうすっかり行き遅れた女になってしまった。

本当に私なんかでいいのだろうか、24歳といえば子供の一人くらいいてもおかしくない年齢なのに。


ウィリー様を最初は子供だと思っていたのにこの数年で私はすっかり彼に惚れ込んでいたようで、彼との思い出が頭の中で沢山駆け巡っている。

ヤキモチ焼きで、短気で口も悪いけど本当は優しくて私のために私の気づかない場所から手を回してくれる。この教師の仕事もウィリーがいなければこんなに良い仕事を貰えなかっただろうし、私の知らない間に領地にも支援をしていたし彼には感謝しかない。


「それでは最後に、私はずっと…この人の為に頑張っていました」

ウィリー様が壇上から下り真っ直ぐに私の元へ来る、あぁ、どうしよう。

心臓が早鐘を打つ。彼は素敵な笑顔で私の元へ来た。

「ジャクリーヌ、これで堂々と君に言える」

彼は私の前に跪いて

「俺と結婚してください」

と指輪を出した。


その瞬間、会場は阿鼻叫喚に包まれ大変な騒ぎになった。職員の先生からは責められるような言葉が聞こえたり女子生徒は気絶する者も現れ、男子生徒はウィリー様に罵詈雑言を浴びせている。

「…お前の言葉が聞きたい」

ウィリー様に見つめられ、私は頷いた。

「私も…貴方と結婚したいと思ってました、本当にこんな行き遅れで良いの?」

「ジャクリーヌだからだ、それに…お前はずっと綺麗だ、行き遅れなんて言うな」

そう言ってウィリー様は、私の額に口づけをして

「ここは式まで我慢だな」

と親指で唇を撫でた、私の顔は熱が集まり茹でダコの様になっているだろう。


それから騒がしい卒業式を終え、私はその日で教師を辞めた。

正確にはクビになった。生徒との結婚は前例がなく私は責任を取る形で辞めることになった。

「良かったじゃないか、煩わしい手続きもなくて。ジャクリーヌの授業は評判が良かったから辞めるとなれば引き止められただろうしな」

とウィリー様は言った。これも彼の計画なのか?


それから私はウィリー様と領地に行き、結婚式を上げた。そして本格的に領地の運営と商会の仕事を共に頑張ることになった。

隣国の内戦は激化しとうとう領地にまで影響が出るようになったが、幸い領地の整備を行っていたので、敵の兵を侵入させる事は無かった。


「さて、ここから楽しくなるぞ」

ウィリー様はそれは腹黒い笑顔で何か呟いている。

怖いので聞きたくないが、嫌でも耳に入ってくる。

まずウィリー様はサウザント領を整備した後、敵国に粗悪な武器を流出させた。

格安な武器は敵国で飛ぶように売れたが、やがてそれらの故障や事故でイザという時に役に立たないという事態になった。

しかし度重なる跡目争いで、両陣営は経済的にも苦しい状況でありまともな武器を買うだけの余裕がなく、そういった格安の武器を職人に修理させて使うことになった。

それを見越したのか、トリアーノ商会では各地の鉄や火薬の買い占めを始めた。

隣国に物資を送らせないよう各地で買い占めや根回しをしたのだ。

そうして買い占めた鉄や火薬を使い職人を雇い武器を作らせ国内でそれらを売ることをした。

各地では隣国が攻めてきた事から不安があり武器は飛ぶように売れた。


一方隣国では国内の資源では限界を迎え、跡目争いもいよいよ終焉に向かおうとしていた。

そんな最中、我がサウザントの兵がウィリー様の指揮のもと隣国の中枢を攻め、とうとう隣国の王を捕らえることに成功した。


「確かトリアーノ商会の新しい会長だったな」

と、隣国の王は言うとウィリー様は

「あぁ、初めてお会いします。ところで王様、一つ提案があるのですが」

「なんだ、悪魔の商人め」

「人聞きの悪い、今ここで死ぬか新しい国を作るのを手伝うか選んでください」

「はぁ?」 

「いえ、もう王政とか貴族っていう身分階級があるからいけないんじゃないかと思うのですよ、平民からすれば誰が貴族で王様かなんてどうでもいい事なんですよ、明日の飯が平民の一番の心配なんですから」

「…誰が王でもよいか、私のしてきた事は何だったのだろうな」

「ハハハ、だから愚者として生きて国に貢献してほしいのですよ。まずは一応王として立ってもらい直ぐに民主的な国にする王政を排除すると宣言してくれたら後はこちらで保護します。そして国内で選挙をさせ国の代表を決めさせて下さいその方に、国の運営を委ねて貴方は無事引退です」

「…それで良い」

「ありがとうございます。すまないが彼を保護してくれ」

とウィリー様は兵隊に王を保護するように言ったそうだ。


そうして隣国は民主的な国家になり、国の代表は王家に仕えていた元宰相が立つことになった。

それらを援助したのがトリアーノ商会の元幹部や、関わりの深い者達だ。

ウィリー様はトリアーノ商会の名前で炊き出しや、支援物資を届けた。

隣国の中で商会の存在は大きくなり、隣国でも大商会としてその名を轟かせた。


そして、たった数年でトリアーノ商会の規模は倍ほどに大きくなっていた。

「ジャクリーヌ、これでもう隣国が攻めてくる心配はなくなっただろ?」

「えぇ、恐ろしい規模で隣国を飲み込んでますものね…」

「それにサウザントも豊かになり、領民も増えた」

「そうですわね、今では隣国の中継地点として栄えていますものね」

「父上には領を確りと運営するようにアドバイスもしているだろう?」

「…はい」

「ほら俺と結婚して良かっただろ?」

と悪戯が成功した様な顔でニコリと笑うウィリー様。

「私は気が気では無かったですよ、もし貴方になにかあったらと思うと怖かったのですから」

「心配せずとも大丈夫だ、あまり気を揉むと腹の子に悪いぞ?」

と、私の大きな腹をそっと撫でた。

「そうですね…」

もうウィリー様の考えを心配するのは止めよう。この人は止めたところで聞きやしないし、私は掌で踊らされるだけだ。

「予定日はそろそろだったな」

「えぇ、楽しみですね」 

「そうだな。お前と子が無事に生まれるよう万全に用意しているからな、安心して生むといい」 

「ありがとうございます」 

「当然だ、俺は夫なんだからな」 

「あなた程頼りになる夫はいませんよ」

「俺だってそうだ、強く美しい頼りになる妻だ。慣れない商会の仕事も頑張ってくれる、更には俺に最高の贈り物を宿しているなんて…」

本当に嬉しそうにするものだから、私も自然と笑顔になってしまう。


生意気で我儘な年下の男の子に気づいたら掌で踊らされていて悔しいけれど、気づいたらそれすら気にならないほど好きになっていました。









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