月の光と太陽の影
中学から付き合う人って結構いるとよく聞くのだが、それが幻想であってほしいと思うのは俺だけなのだろうか。いや、そんなわけない!
廊下や教室の隅でイチャイチャしてる奴もいて正直他所でしてほしいと思ってたんだった。
ま、そんなこと今はどうでもいいけど。
実は、高校デビュー(?)で付き合い始めました!!!!!!!いえーい!
いや~、長らく待った甲斐があったよ…。俺(橘亮人)の周りの連中は、中学の時に付き合ってすぐ別れる奴ばかりだった。あの時は、俺だけ彼女がいなかった(補足としていつも遊んでた友人はイケメンばかりだった)ことによる焦燥感に駆られていた。我ながら馬鹿だと思うよ!
すまない…少し中二病をこじらせていて、んなことどうでもよくて!
ま、要するに俺の彼女を自慢しにきたZE☆!!!!!!!
さらば陰キャ、WELLCOME愛しの陽キャよ!
またまたすまない、そう苛立つでない。かつては戦場で戦っていた元同志。
これから話すのはそんなラブラブストーリーでもなく、どこにでもある俺と彼女との恋愛だ。
もしかしたら、これを読んでる人からしたら普通の恋バナではないのかもしれない。いや、普通ではないのか。そもそも、普通の恋愛ってなんなんだ?止まらなくなるからこの話はここで終わり。
ま、最後まで読んで君たちに考えて欲しいかな。
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中学4年生になった。別に中卒とか留年とかではない。
単に、うちの学校(成館学園)は中高一貫だというだけだ。
私こと椿沙良は、中学の制服より少し紺色の混じった制服をきて学校に向かう。幸い、家から学校までは徒歩5分。起きるのが遅かったが、遅刻はしなさそうだ。流石に入学式の日に遅刻は目立つ。ま、ほとんどが中学からの繰り上りなので正直やる意味ないと思うけど。
そんなどうでもいいことを考えながら登校する。今日も何の変哲もない日常を送るだけだ。
そのはずだった。少なくともこの時の私には想像も何もできなかっただろうが。
入学式も終わり、担任のどうでもいい話も終わって放課後。クラスのみんなも見慣れた顔ぶればかり。ん?一人だけ見ない顔がある。ま、他の中学から来たのだろう。たまにそうゆう生徒もいると聞く。どうでもいいけど。さっきから素っ気ないって?私は他人に干渉したくないし、されるなんてもってのほかだ。私はさっさと支度をして帰路についた。私にはあまり友達がいない。一人として居ないわけではないが、みんな帰る方向が逆だ。必然と一人になる。前からそうだったので気にしてない。そうこうしているうちに、もうすぐ家に着く。でも何だろう、さっきから後ろが騒がしい気が…。
ドタンッ!
通りにとても大きい音が響き渡る。振り返ると、自転車とそれに乗っていたであろう人が横たわっていた。
「大丈夫ですか?」
応答はない。同じ高校の制服。放っておく訳にもいかず、とりあえず体をさする。
「……う、うぅ。」
良かった、大事になりそうではない。
「救急車呼びましょうか?」
「すまない、大丈夫だ」
始めこそ心配したが、思ったより外傷はなさそうだ。ただ、右膝を擦りむいて流血している。これはすぐにでも応急処置をした方がいい。
「このまま帰れないと思うので私の家で応急処置しましょう」
赤の他人を家に入れたくはないが、仕方ない。今更だけど、家に男の子があがるのは初めてかもしれない。自転車は邪魔にならないよう端において、後で取りにくるつもりだ。問題は彼なのだが…左足は動くようだ。私は彼の右肩を担ぐように歩き始める。さっきから彼の耳が赤くなっている。もしかしたら熱中症かもしれない。これから大変になりそうだ。
俺はめちゃくちゃ緊張していた。自分で言うのもなんだが、ポジティブ思考だと思ってるので珍しいことだと思う。今日は入学式だ。それも中高一貫の!名前は確か…成何たら学園。あ、成館学園だ。ま、緊張よりもワクワクが上回ってきてるんだけど。なんだかテンション上がってきたぜ!フォーーー!!俺は今日彼女作って、中学の時の友達に見せつけてやる!燃えてきたぜ、待ってろ俺のハイスクールライフ!!!!!!!
「なんか違ぇーーーーーーーー」
俺は自転車に乗りながら叫んでいた。
別段、初日でもそこそこクラスのやつと仲良くなったし、好印象だったと思う。思うのだが。
「俺に話しかけてくれる超絶美少女はいないのか!?」
そもそも、今日女子から話しかけられてすらない!何故だ。一体どうなってやがる!ここ一週間頑張って自己紹介考えたのに(自己紹介シートを書かされた)!
「このクソったれがァ~~!」
まだ焦る時ではないさ。まだまだ始まったばかり!気楽に行こう!
ぼーっとしながらチャリをこいでいたら目の前に猫が現れた。
「うわぁァーーー」
咄嗟に急ブレーキををかける。キィィーっという音が鳴り響く。俺はというと慣性の法則に従い、低空飛行で地面に飛び込んだ。
やべー、俺死ぬのかな。こんなことで天国に行くはずがないのに、そんなことを考えてしまう。
最期は美人な女性にみとられながら……遠くから声が聞こえる。きっと、天使のお迎えだ。
「大丈夫ですか?」
現実が押し寄せてくる。なんだか生きてるって感じ。
俺は声をかけてくれた女性に身をゆだねる。これが運命の出会いとでもいうのではないだろうか。少なくとも俺はそう思ってる。
右膝の消毒をしカットバンを貼り終えた。私は冷蔵庫から麦茶を取り出し、一息つく。最近はお茶を飲むことにハマってる。ちなみにここ数日は麦茶ばかりだ。麦茶特有の匂いと味が魅力だ。余韻に浸っていたせいか、彼が来ていることに気がつかなかった。
「君も飲みますか?」
彼は遠慮がちに頷いた。
私は再びコップを取り出し、麦茶を入れる。
「君、同じ声館高校だよね。何組?」
「A組っス」
同じクラス。けど見たことない顔だ。
恐らく、別の中学出身だろう。そういえば、帰るときに見た気がする。
「あの~、そろそろ帰りますね。お、お邪魔しました」
お茶を飲み干し、帰ろうとする。このまま逃がすまい。まだ、話したいことがある。
「君、同じクラスなんだし少し話そうよ」
「…分かりました」
私自身何で呼び止めたのか分からない。ただ、彼が私と似ていると思った。そんな気がした。
「そういえば自己紹介がまだよね。私、椿沙良。これからよろしく」
「橘亮人です。よろです」
私の彼への第一印象は陰キャと陽キャの中間といった感じだ。何とも言えない。
クラスに普通に居そうな男子高校生。けど、その見立ては誤っていた。
「あの、椿さん」
「何?」
考え込んでいたので、反射的に答えてしまう。
彼は少し怖気づいた。しかし、意を決したのか顔を上げる。
「よ、良かったなんですけど…俺と付き合ってくれませんか?」
「…は?」
よし、一発殴ろう。
「私、もう引退したけど中学の時空手やってたんだよね。音速の正拳中段突き見たい?」
「!?や、やめてください」
私が腕を鳴らしながら近づくと、彼は怯えながら後退する。
「す、少し話しましょうよ」
このままだと埒が明かないのでいうとおりにする。
私は再び席に座り、彼もその対面に座る。
「で?初対面の女子にいきなり告白するとは?」
「大変反省しております。次はもう少し親睦を踏まえてからいたします」
「そうだね。いきなりはおかしいよね。…じゃないよ!なんで告白すること前提なの?あんた、少し陰キャ要素振り回して、実はクソ陽キャじゃないの!?」
「安心してくれ。彼女いない歴=年齢族だ」
「何にも安心できない。こんな陽キャに彼女が居なかったこともおかしいし、なんで族をつけるのかが意味不明すぎるんですけど」
思わずオーバーヒートしてしまう。まるで、秋葉原のヲタクみたいだ。多分、耳まで赤くなってる。恥ずかしい。今すぐ消えたい。
そんな中、彼は私の姿を見て笑っている。
「そんなにジロジロみないでよ」
「いや、なんかいい性格だなと思って。俺君みたいな明るい人が好きでさ。何回か告白したことあるんだけど、全部玉砕して」
「そんな性格だからよ!」
「ま、分かってはいるんだけど。すぐに行動したいタイプで、好きだと思っら言はずにいられないといいますか」
彼もなかなか変な人だ。上手く言えないが、話していて楽な気がする。
もしかしてこれが運命補正というやつなのか?これはこれで癪だ。
「あ、その猫!」
突然、私の家で飼っている(まめ)を指差した。
「さっき轢きそうになったんだよ」
「まさか、それで事故ったの?」
「うん」
「バカみたい」
「なんだと!猫の命のためのこの体を張ったんだぞ。感謝しろ」
「いや、君が不注意で轢きそうになったんでしょ?あり得ないくらい飛んでたし」
自転車の隣りに倒れていたとはいったが、3mほど間が開いていた。
あの通りは見渡がいい。まずは事故は起きにくいと母さんが言っていた。
「それより、勝手に話をそらさないで」
「すみません」
そして訪れる沈黙。
こうゆう空気は耐えられない。これまでの人生、告白されたこともなかったし、仲のいい男子とかもいなかった。だからだろうか、私もおかしくなったのかもしれない。
「さっきの本気なの?」
「猫のせいだって」
「君、性格悪いって言われない?」
「いつも優しいとは言われるよ」
私は眼を飛ばした。彼はすぐさま目をそらしたが、そう簡単には逃さまい。
ついに耐えられなくなったのか、彼が口を開く。
「本気だよ。一目惚れなんて恥ずかしいけど、好きな気持ちに偽りはないよ」
「やっぱフろうかな」
「なんで!?」
「爽やかすぎて眩しい。陰が薄くなる」
「#陰が薄くなるとは」
さっきはフツメンだと思ってたけど、結構イケメンかも?
しかも、話していて楽しい。ま、私から好意があるなんて今更言えないし、ここは知恵を使おう!私頭えらい!
「君の気持ちは分かった」
彼はまるで犬のように尻尾を振り出す(実際に尻尾はないが)。
「だから条件をつけよう。私を惚れさせたまえ」
「はあぁ?」
「だってそうじゃん。好きでもない男と付き合いたくない」
彼は納得したようなしてないような顔をしている。地味にかわいい。
「わかったわかった。……愛してるぜ!沙良」
「キモッ」
「素で引くなよ、素で」
まさかのアイドルソシャゲでありそうな感じの声で、愛の告白をするとは。言いたくないけど、ヲタクを極めている私は少し萌えた。
「はぁ~、もう帰った帰った」
「え?付き合ってくれんの?」
「いや、諦めて帰っての意味」
「いやだよ。君がOKというまで俺はずっとここにいる」
「名作を汚すな」
彼は困った顔をして、席を立った。
あ、帰るのか。意外と根性なかった、こいつ。そして、私の方近づいてきて、キスした。
思考が止まる。恐らく頭では分かっていたが、それを現実だと受け止めたくなかった。
そして、私は人生初のキスを感じていた。何の味もしない。それもそうか、マウスtoマウスでも。
でも、これで分かった気がする。私は橘亮人に恋してると。
静寂は嫌いだ。
だからよく友達一緒にいたいと思う。そして目の前にいる彼女とも。
そう、人生初のキスの相手。なんでこんなことをしたのかも分からない。あ、好きな気持ちは本当だ。なんとなく、彼女なら許してくれる気がした。何の確信もない。
それでも、彼女は何も言わない。なんなら、少し笑っていた。
「どう?これで俺のこと好きになった?」
「…うん」
「そうか、また返事聞かせ…え?ホント?」
「いいよ、付き合ってあげますよ」
上から目線でいう彼女だが、耳まで赤い。
ちなみに、このときの沙良は俺の知る限り一番可愛かったのを覚えてる。
こうして、俺たちは付き合い始めた。強引過ぎだろ?知らねぇ。終わり良ければ総て良しだ。
ま、おかげで中学の時の友達に見せつけれたし、俺の中では一生忘れない日だ。
それからというと、沙良は前より明るくなったらしい。これは、クラスメイトに聞いた話だが。元々大人しい性格だったらしいのだが、俺と付き合い始めてからなのだろう。前よりみんなと話すようになった。俺はというと、クラスメイトからうるさすぎなどと言われる。そんなにか?
あ、そういえば前に沙良に聞いたことがある。
「沙良、最近学校でよく話すようになったよな?」
「完全に君のせいね」
「俺そんなに明るくなくない?例えるなら、太陽の影的な?」
「影、ね。昔の人は光のことを影と言っていたらしいのよ。私はその影に影響されたみたいね」
「じゃあ、沙良は例えるとどんな感じ?」
「そうだね…月の光、かな」
月の光。大人しくて、静かに見守るように輝いている。
「沙良にピッタリだな」
「太陽の光を反射するところとか?」
そういって彼女は笑った。
何言ってんだよ。照らされてるのはこっちだっていうのに。
ーFINー