第9話 迫りくる侵略者
第9話です。
「すまねぇ! ここのシェルターは定員オーバーだ! 悪いが他をあたってくれ!」
クリスとセレナは、混沌とする首都バーンズの町中を、避難場所を求めてひたすら駆け回っていた。
途中、大荷物を抱える人、小さな子供連れ、老人などの移動、避難の手助けをし、騒ぎに応じて火事場泥棒を働こうとする、不逞の輩をとっちめていたため、予想以上に時間を食ってしまった。
先ほどから、二人でかなりの時間、探し回っているにもかかわらず、一向に空いているシェルターを見つけられない。
「はあ、はあ……いやね、私だって、宮使いの、身分では、ある、わけなんで、市民の、皆様の、安心と、安全が、第一では、ありますよ、でも、もう、ちょっと、自分、勝手、でも、よかった、んじゃ、ないかな、って、思ったり、なんか、したり、して……」
息も絶え絶えで、汗にまみれた顔になりながらも、不謹慎な軽口をたたくセレナ。
ちなみに、困っている人を見かけると、真っ先に手助けをし、火事場泥棒に対して、積極的にトンファーキックを食らわしていたのは、ほかならぬセレナのほうであったのだが。
そんなセレナに対し、苦笑しつつもほほえましい顔を向けるクリス。
ふと、東の地平線の向こうを指さしながら、騒ぎ声をあげる人々がいることに、クリスは気づいた。
クリスもつられて、人々が指さすほうを確認する。
まだ距離は離れているが、東の方角、地平線の先に、うっすらと砂埃と、影のようなものが見える。
よく見ると、その影は複数、確認が出来るうえ、すべてこちらに高速で移動しているようだ。
「あれは……!」
影の大きさ、速度から、十中八九、アーマーフレームの大群であると、クリスはあたりをつける。
そうこうしているうちに、首都の各所に設置されている、防衛砲台が、影に向かって一斉に火を放った。
また、一般兵士がけん引する、複数のけん引式火砲からの砲撃も加わり、雨あられとなって、侵略者たちに襲い掛かった。
この世界における「火薬」の発明は、近代社会と比べてはるかに進化が遅れている。
そのかわり、彼らには「魔力」「魔導」といった、火薬に代わるエネルギーの軍事利用、転用が、圧倒的に進んでいた。
詳細は省くが、バーンズの防衛砲台、けん引式火砲から発射される砲弾も、火薬によるものではない。
一種の魔力エネルギーを凝縮したものを打ち出している、と考えればわかりやすい。
見た目は、現代的にいうと、プラズマ砲に近い。
しかし、この世界における遠距離攻撃の手段は、良くも悪くも「魔力」に依存している。
例えば、魔力適性の低い人間のバズーカ砲と、魔力適性の高い人間の拳銃では、拳銃のほうが威力、射程距離、精密性に優れているのだ。
固定砲台や、火砲を運用する兵士は押しなべて、魔力適性が低いとされ、アーマーフレームの搭乗者から漏れてしまった人間である。
威力のほうは推して知るべし、といったところなのだ。
それでも、直撃さえすれば、場合によってはアーマーフレームにも、ある程度有効なダメージを与えることができる。あくまで直撃さえすれば、だが。
ウラテア帝国副将、ドミニク率いる先行威力偵察部隊、その数計31機。
降り注ぐ砲弾の間を悠々とすりぬけ、障害となる砲台、けん引式火砲を適宜、蹂躙しながら、首都バーンズまで高速で近づいていた。
続いて人々は、自分たちのいる首都バーンズ側のほうから、複数の機影が出撃したことを確認した。
赤色の塗装が施された機影を先頭に、引き絞られた弓矢のように、シルバーの塗装が施された複数の機影が、次々と大空へと放たれていく。
とたんに、町中の人々から、歓声が上がった。
これこそ、サルデニア王国の誇る最大戦力、「クレイモア騎士団」のアーマーフレーム部隊。
人々の希望の光であり、民衆を庇護し、敵を打ち倒す、文字通り、剣なのだ。
赤き鷹こと、サラ・カーティスの駆るアーマーフレームは、オリジナルフレームのうちの一つである。
フレームのパーソナルコードは「クリムゾン・プライド」。
彼女の髪と同じように、全身を燃えるような赤い塗装で覆われている。
汎用フレームと異なり、装甲をある程度犠牲にして、機動性を確保。彼女の特性を考慮し、近接戦闘に特化している。
機動力を生かした一撃離脱戦法、まさに「蝶のように舞い、蜂のように刺す」戦術を得意としている。
その戦う様子と、真っ赤な塗装、胸にある鷹のエンブレムから、「赤き鷹」として、諸外国にも名が知れ渡っていた。
そんな彼女は、自分の部下たる銀色の勇士、18名を現在携えていた。
国を脅かさんとするならず者たちを打ち倒すべく、剣を携えた鷹となって、今まさに獲物に襲い掛かろうとしていた。
敬愛するロレント将軍に倣い、自らも先頭に立って進軍するドミニク副将。
運悪く、部下3名が砲撃に被弾したが、損傷は軽微で、作戦遂行そのものに支障はない。
ついに首都バーンズの街並み、そして怨敵の姿も同時にとらえた。
自分たちと同じく、アーマーフレームの軍勢。その数約20機。
ドミニクは、獲物を目の前にし、自然と口角が上がるのを自覚した。
しかし、彼は腐っても由緒正しきウルキア軍人。
作戦遂行を第一優先と、すぐに頭を切り替え、魔導通信のスイッチを入れた。
「敵アーマーフレームを確認した。しかしよいか! 我々の第一目標は、施設攻撃によって首都機能を混乱させることにある。そのことを忘れるな! そして、あの赤い鷹は、予定通り私と、2番、3番機が相手をする! それでは散会!!」
その言葉を合図に、ウラテア帝国のアーマーフレーム部隊は、事前の打ち合わせ通り、各機が一斉に行動を開始する。
黒い塗装が施された彼らが広がっていく様は、さながら、黒いどう猛なハゲワシが翼を広げたかのようであった。
次回、ようやく戦闘描写が出てきます。