第8話 出陣
第8話です。ウラテア帝国がついに登場します。
兵舎では、出撃準備を終えた騎士団が待機中であった。
団員全員が、アーマーフレームへの搭乗もすでに完了し、出撃を今か今かと待っていた。
死地に向かうにあたって、彼らの顔に焦りや恐怖はない。全員が晴れやかな顔をしていた。
騎士団の先頭に立つサラは、自分の部下を一様に見渡す。
全員が、過酷な訓練、そして厳しい実戦を潜り抜けた、かけがえのない戦友だ。
ひとつ、ここは出撃前の活を入れてやろうと、サラは音声拡張の魔道具を取り出して、スイッチを入れた。
「各員、装備の準備は万全だな。聞け! これから始まるのは、我が国の存亡がかかったまさに一大決戦である! 今こそ各員、日ごろの訓練の成果を……」
「あの、サラ団長」
とそこへ、おずおずとした様子で、一人の騎士団員がサラに話しかけた。
「……なんだ、ライアン。何か懸念点があるのか?」
「いえですね、例の勇者がまだこっちに来てないみたいなんですけど……いいんですか?」
その瞬間、空間にピシッとひびが入ったような空気に包まれた。
露骨に嫌悪感をあらわにするサラ。
気のせいか、サラの背後から黒いオーラのようなものが立ち上っているように見える。
周りの騎士団から、お前、なんで余計なことを聞いたんだよ、空気読めよ、といった視線を感じ取り、哀れ勇者ライアンは針の筵であった。
「臆病者は来なくてもいい! むしろ、足手まといになるような奴は、来ない方がはるかにマシというものだ! よいか、お前たち! この国は、我々の手で、我々自身の力で守り切るのだ!!」
サラの鼓舞に対し、その場の騎士団全員が、おおっ!!! と大きな声で返答する。
決戦の時は間近に迫っていた。
この世界におけるアーマーフレームは、大きく分けて2種類に大別される。
一つは、汎用性が高く、搭乗者を選ばない、「汎用型フレーム」と呼ばれるもの。
そしてもう一つは、搭乗者一人一人の特性に合わせて、特別にカスタマイズされた「オリジナルフレーム」と呼ばれるものである。
志願者が通常、フレーム乗りになるためには、まず専用の試験を突破する必要がある。
そして、その際に「魔力適性」を測定される。
魔力適性はアーマーフレームを自在に操るために必要な、いわゆる「才能」とも言い換えられる。試験では通常、99%の人間が、「適正なし」と判断され、そもそもフレーム乗りになることすらできない。
運よく、「適正あり」と判断された場合、まずは通常、搭乗機として割り当てられるのが、先に記述した「汎用型フレーム」である。
その後、汎用型フレームでの訓練、実戦において、特別に優秀な成績、戦果を収めたものが、オリジナルフレームと呼ばれる、エース用の特別なフレームに搭乗することを許されるのだ。
※魔導適性の測定で、極めて優秀な結果を残した結果、汎用型フレームの搭乗を経ることなく、オリジナルフレームを割り当てられることも、レアケースだが存在する。
このオリジナルフレーム乗りのことは、通称「ランカー」と呼称されている。
この世界においての戦争は、アーマーフレームの質と量で決まるとされているが、特にこの「ランカー」がいることによる戦術的優位性は、隔絶すべきものがあった。
ランカーの存在は力の象徴。戦闘力、存在感によって、戦場に立つ兵士からの、畏怖と、尊敬と、羨望の対象であった。
ウラテア帝国将軍、ロレントもまた、ランカーと呼ばれるフレーム乗りの一人である。
戦場において、将でありながら自ら先頭に立ち、嵐のような戦いで敵をせん滅させる猛将。
これまで倒した敵の数は数知れず、多くの敵国のアーマーフレームをその手にかけてきた、現場たたき上げの戦人である。
性格は荒々しく、苛烈。そして強い愛国者として知られている。
大勢の敵対する兵士を、恐怖のどん底に叩き落し、敵、場合によっては味方からも恐れられる存在である。
そんなロレント将軍は現在、ウラテア帝国とサルデニア王国の国境沿い付近で陣を取り、伝令からの報告をただ静かに、座して待っていた。
「申し上げます! ただいま後続の部隊もすべて到着しました。これにより、アーマーフレーム80機、および1万の兵、いつでも出撃可能です!」
まもなく上がってきた報告に対し、ロレント将軍は猛禽類のようなニヤリとした笑みを浮かべた。そのまま勢いよく立ち上がると、高ぶる戦人としての覇気を抑えることなく、将軍は檄を飛ばした。
「これより、サルデニア攻略を開始する!! 本隊はこのまま、首都周辺の小さな砦を攻略しながら、首都までまっすぐ進軍!!」
ロレントは、自分の右手側に座る、副官であるドミニクを見て、声を張り上げた。
「ドミニク! 貴様にはアーマーフレーム30機をくれてやる。先行して首都を威力偵察し、重要施設を攻撃! 首都機能をマヒさせろ!! 多少市街地に被害が出ても構わん! ただし、向こうにはランカーである【赤き鷹】サラ・カーティスがいる! 無理攻めはするな! あの女はこの俺自らが仕留めてやる!!」
ついに、サルデニア王国と、ウラテア帝国の一大決戦の火ぶたが、切って落とされた。
サルデニア「来ないでくださいお願いします」