第10話 混迷と悲劇
気が付けばもう10話。早いもんです。主人公が戦うのはもう少し先です。
ついに戦闘が始まった。
アーマーフレーム同士の激しい戦闘の衝撃が、バーンズの街中まで伝わってくる。
轟音、爆発、剣戟がぶつかり合う鈍い音。
大きな音と振動と同時に、町中の建物もひどく揺れているのがわかる。
住民の避難はまだ完全に完了しておらず、町に残された住民は、半ば恐慌状態にあった。
誘導する兵士がそれを必死になだめようとする。
しかし、アーマーフレームが放つ弾丸が、いよいよ町の建物、施設にまで着弾し始めた。
そうなると、住民の混乱をとどめることはいよいよ難しくなった。
住民の統制は失われ、通りでは人がもみくちゃ、押し合いへし合いの、パニック状態となっていた。
そんな狂騒の中、クリスとセレナはどうにかまだ空きのあるシェルターを発見し、中に入ろうと順番待ちをしていた。
その時、少し遠く離れた場所で、爆音が鳴り響いた。
向こうの、バーンズのはずれの「とある建物」が、轟音をあげ、煙とともに崩れ落ちるさまを、セレナははっきりととらえた。
その時、セレナの背中に、いやな悪寒が走った。
何を馬鹿なことを、あそこにいるはずがない、とっくに避難しているに決まっている。
第一あそこのはずがない、そんなことが起こるわけない。
必死に理性で自分自身に言い聞かせる。
しかし、セレナの中にある「虫の知らせ」というべきものが、先ほどからけたたましく鳴っている。
音は激しくなる一方で、鳴りやむ気配が一向にやってこない。
「……セレナさん?」
様子がおかしいセレナのことが気になり、声をかけるクリス。
しかし、その声はいっさいセレナの耳には届いていなかった。
気が付くとセレナは駆け出していた。
周囲の喧騒、轟音などは全く耳に入らない。
自分の内側から押し寄せてくる、焦燥に駆られながら、一目散に、あの崩れ落ちた建物のところまで走る。
後ろから聞こえてくるクリスの声を置き去りにしながら、疲れていたことも忘れ、セレナは飛ぶように町中を駆けていった。
セレナの弟であるエリックとフレッドは、その日、それぞれ兵士養成学校で講義を受けているさなかであった。
けたたましい警報、鐘の音が鳴り響き、非常事態であることを、講義室内にいる生徒全員が、否応なく自覚させられた。
すぐさま、教師と上級生の指示のもと、各人に役割が与えられた。
まだ年齢的に若かった二人は、幸運にもこの非常事態において、兵士としての臨時徴集の対象から外れた。その代わり、避難する民衆を誘導し、護衛する自警団へと編入された。
受け持った地区については、特に大きな混乱もなく、割り当てられた民衆の誘導は完了する。
これまた幸運にも、エリックとフレッドは、同じシェルターの管轄範囲だったらしく、避難先のシェルター内で再開を果たした。
お互いの無事を直接確認し、ささやかながら喜び合う二人。
しかし、そこで話題となったのは、お互いに「あること」を共通して、懸念に感じていたことだった。
姿の見えない姉がどうしているか心配ではあったが、もう一つ大きなものがある。
自分たちの両親の「遺品」である。
自分の業務に集中していた時は、特に気にならないものだが、いったんこうして落ち着いてしまうと、どうしても気になってしまう。
着の身着のまま、シェルターに来た関係で、自分たちは現在、必要最低限の身の回りの物しか持ってきていない。
今はもういなくなってしまった両親。優しかった両親。
そんな彼らの残した遺品は、現在は使われなくなった、彼らの生家に保存してある。それを、このままにしておいて大丈夫なのか。
そんなことを考える彼らのそばでは、容赦なく、戦闘による轟音と振動が、シェルターの中にまでびりびりと伝わってくる。
家がもし火事になったら、流れ弾が当たって倒壊したら、火事場泥棒にでも入られでもしたら……。
悪い想像が、彼ら二人の頭に次から次へとわいてくる。
そして、不幸なことに、それらを許容することができないほど、彼らは若すぎた。
「フレッド。お前はここにいて、引き続きみんなを守ってくれ。俺はちょっと出かけてくる。父さんと母さんの遺品を持てるだけ持ってくるよ。ついでに姉さんも見つけられたらラッキーかな。まあ、あの人は殺しても死ななそうだし、大丈夫だと思うけど」
そんな軽口をたたきながら、エリックはフレッドに告げる。
フレッドも、自分も行きたい気持ちは当然あったが、いくら何でも二人そろって出てしまうことは気が引ける。
ここはおとなしく、兄の言うことに従い、シェルターに残ることを受け入れた。
そうしてエリックは、上級生や教師たちにばれないよう、こっそりとシェルターを抜け出した。
それが悲劇の始まりだとも知らずに……。
次回「エリック死す!?」
デュエルスタンバイ!




