初対面な博士と助手の話
あの日はザーザーと冷たい雨が降る日だった。
所属する研究所である失敗をして、仕事と住む場所を一気に失ったあの日。
私は路地裏で蹲って、ただその冷たい雨に打たれていた。
ただ空気のようにそこに佇む私。
それはこの道を通る通行人も分かっているのか誰一人気にかけずただ前を進んでいく。
気にかけて止まったとしても、嘲笑が詰まった視線をただ浴びせるだけ。
本当にただそれだけだった。
そんな流れていく影を見ていると、私の前に止まる影が1つ。
またか。
また私に糞みたいな視線を浴びせるのか。
そう思っていると、ずいぶん長い間止まっている。
一体何をしているのか。
私は地面を眺めていた視線を上げる。
そこには青年がいた。
立派な服を着た青年。
ボロボロな白衣を着ている私とは大違いだ。
そんな青年がジッと私のことを見ている。
傘を差して、私を濡らし続けている雨を遮りながら。
……なんだ、何をしているのだろうか?
何をしたいのだろうか。
その傘を私に傾けて、雨から遮ろうとしているのか?
……そんな同情ならいらない。
私の気持ちなどこの彼には分からない。
私は未だにジッと見ている彼に対して「なんだ」と少し睨みながら声を掛ける。
すると彼はいきなり傘を閉じて、私の横に立つ。
「!」
い、一体なぜこんなことをする。
私と同じように濡れてどうするというのか。
それでも彼は何も言わない。
ただジッと私の横にいるだけ。
ただ私の横で濡れ続けるだけ。
それだけ
ただそれだけの事なのに私は何故か心が温かくなる。
体は冷たいはずなのに。
冷たく無慈悲に降る雨に加えて、温かく情けない雫が私の腕を濡らし続けていた。