表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/35

初対面な博士と助手の話


あの日はザーザーと冷たい雨が降る日だった。


所属する研究所である失敗をして、仕事と住む場所を一気に失ったあの日。

私は路地裏で蹲って、ただその冷たい雨に打たれていた。



ただ空気のようにそこに佇む私。

それはこの道を通る通行人も分かっているのか誰一人気にかけずただ前を進んでいく。


気にかけて止まったとしても、嘲笑が詰まった視線をただ浴びせるだけ。

本当にただそれだけだった。


そんな流れていく影を見ていると、私の前に止まる影が1つ。


またか。

また私に糞みたいな視線を浴びせるのか。


そう思っていると、ずいぶん長い間止まっている。


一体何をしているのか。


私は地面を眺めていた視線を上げる。

そこには青年がいた。


立派な服を着た青年。

ボロボロな白衣を着ている私とは大違いだ。


そんな青年がジッと私のことを見ている。

傘を差して、私を濡らし続けている雨を遮りながら。



……なんだ、何をしているのだろうか?

何をしたいのだろうか。


その傘を私に傾けて、雨から遮ろうとしているのか?

……そんな同情ならいらない。

私の気持ちなどこの彼には分からない。


私は未だにジッと見ている彼に対して「なんだ」と少し睨みながら声を掛ける。



すると彼はいきなり傘を閉じて、私の横に立つ。


「!」


い、一体なぜこんなことをする。

私と同じように濡れてどうするというのか。


それでも彼は何も言わない。

ただジッと私の横にいるだけ。

ただ私の横で濡れ続けるだけ。


それだけ

ただそれだけの事なのに私は何故か心が温かくなる。

体は冷たいはずなのに。



冷たく無慈悲に降る雨に加えて、温かく情けない雫が私の腕を濡らし続けていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ