宮崎県2.
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ようこそ!
『スポットライト・オン・ゾンビ!!!!』へ!
慌ただしい毎日の、ちょっとした一時にお付き合い頂き、本当に有難うございます。
僅かな時間ですが、ごゆるりとお楽しみください。
晴也の絶叫が曇り空の水平線の彼方に放たれた後、俺たちはこの広場内を見渡せる展望台に移動して広場全体を見回しながらダベっている。
「でもさ、ちょっと此処ってノマゾン(ノーマルゾンビ)多すぎくない?なんか異常増殖しちゃってるみたいでキモ過ぎなんだけど」
展望台の端で広場内を伺うマリアがため息混じりにそう言ったが、確かにこれ程の量のノマゾンを見るのは異常と言う言葉以外出てこない程の、異様な光景が見て取れる。
俺たちがモアイ像の前にいた時もかなりの数のノマゾンが徘徊していたのだが、今現在は足の踏み場もない位の数が、7体のモアイ像の前でひしめき合っていた。
まるで、昔見たテレビの中の渋谷スクランブル交差点のような光景が、眼下に広がっている。
それも全部がゾンビだ。
「『骸の兵士』の任務だからって徘徊して人間を傷つけてばっかだったからさ、たまには観光でもしたくなっちゃったんじゃない?」
晴也の左側で腕にしがみつく詩織が、そう楽しげに言った。
観光と言うよりはだ、花火大会の帰りのごった返しでは無いかと突っ込みたくもあるのだけど、大人気ないと言われてしまいそうなので止めておいた。
出来る男と言って欲しい。
「ウケる」
的確なマリアの嘲笑である。
さてさてしかし、そんな事を言っている俺たちなのだが、ノマゾンの気持ちが全く分からないという訳でもない。
実は俺たちも何となく……
何となくだがこの場所に、無意識ながら移動してきたことは間違いないしな。
何故にその様になったかは全く分からないが、『骸の兵士』の群れの中心部から左側を移動していた俺たちを含めたノマゾンが、大量にこの場所に移動して来ていて、その数は更に増えていっているようだ。
「でも、なんかここまで増えるとさすがに気持ち悪いですね。何となく吐きそうになりませんか?」
確かに、満員電車やすし詰めのエレベーターで人酔いするヤツもいる様だ。
しかし、その場に居ないのに吐きそうになるのは、目の前の光景が超グロテスクなゾンビが敷地いっぱいにウヨウヨしているのが、見ていて気持ち悪くなっただけなのだろうと推測できる。
とは言え、激しく同意出来るために俺たちは視線を広場から逸らして話す事にした。
しかし、大量のノマゾンの唸り声の喧しさに耐えかねて、広場の外れまで移動して芝生に腰を下ろす事にする。
それでも目の前を大量のノマゾン達が広場に向かって通過していくのだが、展望台にいる時よりはこっちの方が全然マシだ。
「でもさぁ、何か気になっちゃうよねぇ。あのモアイ像……どっかで見た事無いかなぁ?」
そう言う詩織の問いかけに、遠目でモアイ像を見やる。
うむ……
そう言えば何処かで見た事があるような……
いやしかし、モアイ像なんかに興味なんて全く無いし、小学校だか中学校だかの教科書に載っているのを見たことあるくらいで、たいして気にしたことなんて全くなかった。
だからモアイ像を見たところで何処かで見た記憶など全く無いのだが、何故かそうとは言いきれない、何かの感情が点となって記憶の中にこびりついている……様な気がする。
俺たち4体は横並びで首を同じ方向に傾げて「う〜〜〜ん……」と唸るも、その記憶の点は解消されずにいる。
すると、海側の方から突然突風が吹いてきたと同時に、暗雲からポツリポツリと雨粒が落ちてきた。
雨の量としては少なかったが、強風に乗ってくる雨粒はバチバチと音を立てて俺たちの全身にぶつかってくる。
「あんまり濡れるの好きじゃないんだよねぇ。パーカーが重くなって動きが鈍くなっちゃうし」
そんなマリアの言葉の後から晴也も声を出した。
「僕も雨に濡れるのは嫌いです。脳ミソが濡れた後に、血栓が傷口にこびりつき過ぎちゃってマリアさんに余計に殴られてしまうし……」
優しくしてやって欲しいと願うばかりだ。
そうこうしているうちに、身体にぶつかる雨粒は勢いと量を増していき、俺たちは何処かに雨宿りをしようと素早く立ち上がったその時だった。
バリバリバリバリッッッ!!!!!
突然、暗雲が大きく光り、そしてけたたましい雷鳴が辺りに響き渡る。
さらに、眼下に広がる景色も一変した。
広場の地面が見えない程の大量の、ノマゾンのうねりがビタッと停止したのだ。
ただでさえ異常だった広場周辺が異様さを増し始めた頃、1本の雷が目の前の海上に落ちた。
バッシャァァァァァァンッッッ!!!
海面に落ちた雷の勢いで、大きな飛沫が丘の上のモアイ像の更に上まで上がり、バケツをひっくり返した様な勢いで7体あるモアイ像の真ん中辺りに落ちていく。
当然その周辺にいたノマゾンもずぶ濡れになるのだが。
その様子を、俺は凝視する様に眺めていた。
「誰にしがみついて眺めてんのよ」
そんな冷徹な言葉を頭上から落としくるマリアだが、今現在の俺の格好は言わずもがな、マリアの腰にしがみついてみっともなくて震えているのだ。
何故ならば、俺は雷が大嫌いだ。
それの何が悪いのかと言いたい。
もちろん、自我に目覚めるきっかけが落雷だったからなのだが。
その衝撃は痛覚の無いゾンビの身でありながら、脳天からつま先に駆け抜ける電撃の激痛と、呼吸の必要も無いのに肺の中の空気が全て無くなった息苦しさを伴って自我が蘇ってしまった。
トラウマを付与されてしまった瞬間でもある。
だから俺は、落雷と共にマリアの腰にしがみつき、人の目ならずゾンビの目も気にせずにガクガクブルブルと震えてしまったという事で、悪気も下心も全くないのは言うまでもない。
という訳で、願わくばもう少しこのままでいさせて欲しいと願うばかりだ。
「全くもう! お子ちゃまなんだから」
そうプリプリと怒りながらも、頭を優しく撫でてくれるマリア。
朽ち果てる前にリアルツンデレを経験出来た事に、ただただ感謝しかない俺だった。
そんな至福の時を満喫しつつ、話しは戻るのだが。
広場に集まったノマゾンの大群は全てが動きを止めてその場で佇み、その空間を雷鳴と暴風と横殴りの雨が支配している。
「格好ついてないよね、颯太さん」
「だよねっ! なんか可愛い!」
俺の醜態を眺める晴也と詩織の小声の会話は小っ恥ずかしいので無視するとしてだ、これだけ雨風が激しくなって来ているのに、広場内のノマゾンは全く動く気配を感じさせない。
辺りはどんよりと暗くなり、海は大きくうねりを上げて小高い場所にあるモアイ像に飛沫が上がるほどに荒れていた。
台風並みの風がボロボロのノマゾンの衣服を強く靡かせ、暴風に乗った雨粒は激しい音を立てて視界に入る全ての場所にぶち当たる。
なのに、どのノマゾンも一切の動きを捨てて佇むばかり。
それは広場内で間隔もなく、ひしめき合うノマゾンの群れ以外の場所でもだった。
広場に合流しようと近づいているノマゾンや、遠くからこちらに向かってくるノマゾンすらも動きを止めていた。
その光景のなんと歪で禍々しく、グロテスクでおぞましく、中国の始皇帝稜の兵馬俑の何十倍も異様な景色だと言わざる負えない。
だがしかしだ、それは人間目線からの感想であって自我に目覚めた俺たちが同じ感情で眺めているのかと聞かれれば、それは即答ノーである。
先程のマリアや晴也や詩織の言葉からしても緊張感は感じられない通り、別にマリア達は俺の所業を面白がって言葉を出した訳では無い。
とは言いきれない所があるのが、俺たち愉快な『カプカキ』ではあるが、今回ばかりは例外だった。
何故なら、俺の頭を撫でてくれているマリアも、俺をからかう様な会話をする晴也や詩織も、今はでは俺の方に視線を向けているのでは無く、全員が惚けたように宙を眺めているのだ。
全員……
そう、みっともなくマリアにしがみついてガクブル震えている俺の視界の焦点も合わないでいる。
そんな俺の……
俺たちの……
いや、この場にいる全てのゾンビの脳裏には、アビ……アビドバス・ガロン・ウィルガラン国王の姿が現れ、中性時代の煌びやかな王族の衣装を大きく見せるように両手を上げて叫ぶ姿が映し出されていた。
『戦えっ! 破壊せよっ! そいつは敵だっ! 兵器モアイを粉砕せよっ! 『骸の兵士』に栄光あれっ!』
そして次の瞬間、世界は地獄絵図と変貌するのだった。
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