熊本県3.
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『スポットライト・オン・ゾンビ!!!!』へ!
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「なるほど……そんな悲惨な状態から復興があっての熊本城の現状なら、詩織が感慨深くなるのも当然だって事は理解出来たぜ」
うんうんと、隣で同意するマリアが詩織に声を掛けた。
「震災の時って詩織は山口県に居たんでしょ? お爺ちゃん達は大丈夫だったの? 他の親戚とかは?」
そんなマリアの問いかけに、少し眉を下げた詩織が熊本城を見ながら答えた。
「地震の時は皆んな大丈夫だっんだけど、前々から心臓の調子が悪かったお婆ちゃんが地震後に入院しちゃって。結局それから一度も退院できずに半年後に死んじゃったくらいかな。でも、それは地震に関係ないし、地震の前から長くは生きれないかもって言われてたみたいだからね」
お婆さんの事はあれだが、それ以外の方々が無事だった事は詩織の家族も胸を撫で下ろしただろう。
無関係な俺でも思わず胸に手を当てたくらいだ。
きっとマリアも胸を……
と思って、マリアの胸を見やる。
「ちゃんとあるしっ! 喧嘩売ってんのっ!?」
グレーのパーカーがブカブカ過ぎてお胸が発見できなかっただけなのに、理不尽怒られてしまった。
「颯太さん、目付きがキモい」
等と、詩織にも白い目で見られてしまう。
誤解も甚だしいとはこの事か。
俺はただ単に、マリアも俺同様に胸を撫で下ろしているのだろうと思って様子を伺っただけなのに。
「颯太さん、パーカーがブカブカ過ぎてお胸が発見できなかったって言ったじゃ無いですか」っと、晴也。
……申し訳ござませんついつい出来心で見てしまいました悪気があった訳ではありませんすみません許して下さいこの通りですゾンビだから下心があった訳ではございません。
晴也の話を聞くために正座をしておいて良かったと、すこぶる思う。
見事なまでの土下座を披露できたのだから。
すると、詩織が晴也の横からマリアの方に這うように移動し、真横に到着してからこんな事を言い出す。
「マリアちゃん、おっきいの?」
その言葉に、マリアは頬を軽く紫色に染めてから悪戯っぽい笑顔で詩織に言った。
「見てみるぅ?」
そしておもむろに、俺と晴也に背を向けて軽く前かがみになり、パーカーの首元を引っ張ったところを詩織が覗き込み……
「おぉぉぉっ!」
…………くぅぅぅっ……俺も見てぇぇぇっ!
悶絶したくなるのを抑えるのが大変だ。
「詩織のも見ていい?」
等と言ってマリアは体勢を戻して言うと、詩織も楽しげに「うん!」っと言って、制服のブラウスのボタンに手を掛けたところまで伺っていると、突然俺と晴也の方にマリアと詩織がジト目を突き刺してくる。
何故だろうと思い、俺は晴也を見ると、どうやら晴也も俺同様に正座をしてマリア達を見ていた様だ。
俺は元よりだが、何故か晴也まで同じ姿勢だったとは。
しかしまぁ、この様なシュチュエーションではだ、こういった姿勢こそが男子としての正しい鑑賞のありかただと、DNAレベルで分かっているのだろう。
俺と晴也は互いにサムズアップをして称えあったのだが、女子のジト目に負けて背中を向けるのだった。
「へぇ、詩織ってひょっとしたら私よりもおっきくなってたかもね」
そんな女子トークを聞きつつ、マリアの大きさが分からないので妄想が飛び抜けてしまう。
晴也なんかもう顔面を真紫にしていて、とにかく早いとこ抜いてやらねば大変なことになりそうだ。
まぁ、自我を持つゾンビなだけに逞しくなるのは妄想ばかりなのだが。
その後もキャイキャイと続く女子トークを微笑ましく聞きながら、俺はふと熊本城視線を向け、そしてゆっくりと声を出した。
「しかし綺麗に復元出来るもんなんだな。俺は熊本県人じゃなかったから分からねぇが、きっとこの街の人も元通りになっていく城に勇気貰ってたんじゃないか?」
すると、詩織も少し弾んだ声で言ってきた。
「お爺ちゃんもそう言ってたよ、お婆ちゃんの分も長生きしなきゃってね」
だのに、ゾンビがやって来てこの有様とは何とも報われないなと思いつつ、妄想ついでに頭の中で思いつくアビの顔面を思いっきりぶん殴ってやる。
人の尊厳を踏みにじるんじゃねぇと叫びながら。
それから俺たちは4体で輪になってダベっていると、二の丸広場で徘徊するノマゾンの数が少なくなっているのに気付く。
どうやら俺たちは群れの中間地点から置いていかれた様だ。
それでもまだデッドリーラインの圧迫感は感じないからもう少しサボってもいいかなと思ったものの、何となく俺はその場から立ち上がると他の3体も無言で立ち上がった。
そして俺は、詩織に短く呟く。
「行くか」
笑顔で「うん!」と返事をする詩織に背を向けて屈むと、ポスッと心地いい、いつもの重みがやって来る。
そのまま立ち上がって二の丸広場を出て城内を巡るように移動し、城の敷地から出る寸前で振り返り、熊本城を見上げた。
ゾンビ撃退の為の自衛隊や警察隊の攻撃で至る所が破壊されている中、悠然と立ち尽くす熊本城。
きっと、人間達は復興を遂げたこの城にだけは傷つけないように攻撃をしたのだろうと推測出来るほど、城内には銃火器で荒らされた場所はひとつもなかった。
そんな光景を横並びで見ている晴也が、両手を合わせてポツリと呟いく。
「詩織ちゃんに綺麗なままの熊本城を見せてくれて、有難うございました」
俺とマリアは微笑み、多分詩織はそっぽを向いているのだろうが満更でも無さそうな気がする。
詩織を見ているマリアの表情が柔らかいからな。
姿勢を戻した晴也と共に踵を返して一歩前に踏み出した時、カチャリと、小さな金属音がして俺は晴也のズボンのベルト通しにあるキーホルダーに視線を向けた。
小さな博多にわかのお面のキーホルダーがそこにぶら下がっている。
今現在、熊本県に居るのだからせめてくまモンだろうと突っ込むと、「そんなの物色する余裕なんて無かったじゃないですか」と、返した晴也がキーホルダーを弄っていると、マリアが言葉を出してきた。
「前から気になってたけど、晴也って不思議趣味だよね。悪くないと思うけど、なんでそのチョイス? ひょっとして福岡ラブ?」
晴也はもう片方の手で後頭部を掻きながら答える。
「福岡には高校受験前に一度だけしか行った事は無いですね。太宰府天満宮に合格のお礼参りに行きたかったけど、両親が多忙で行けず仕舞いのままゾンビになっちゃって、ちょっと悔いが残ってます。ただ、このキーホルダーは自分で買った訳でも家族に買って貰ったわけでも無いんですよね」
すると、背中の詩織が楽しげに言ってきた。
「ひょっとして好きな子から貰ったの? 晴也君って彼女持ちぃ?」
そんな言葉に晴也は、「う〜〜〜ん……」と唸った後に、照れながらも答える。
「多分、僕の片思いじゃないかな。何となく何かのお礼で貰ったような気がするんだけど、ゾンビになって未だに持ってるって事はきっと僕の宝物なんだと思うよ」
「どんな人?」っと、悪戯っぽく尋ねるマリアに晴也は頬を紫に染め、そしてチラリと詩織に視線を向けて声を出した。
「多分、背が低くて少し大人びた事を言う子だった様な気がします」
晴也の視線に気付かない詩織は、楽しげに声を出してくる。
「きっとその子、晴也君の事が大好きなんだろうね。だからお菓子とかじゃなく、形に残るものをお土産にしたんだよ。それに普通のキーホルダーじゃインパクトが無いからそれにしたんじゃない?」
それから移動を再開した俺たちだが、どことなく晴也は嬉しそうな表情でキーホルダーを弄り続けていたのだった。
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