熊本県2.
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『スポットライト・オン・ゾンビ!!!!』へ!
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それでも、詩織が言いたいことはよく分かる。
自我に目覚めてしまったとしてもだ、『骸の兵士』としての使命は強制されるものだから、いくら足掻いたところで本能には勝てず、身内を齧った後にやってくる理性に自責の念は必ず訪れるだろう。
そうなった場合、例え俺でも正気を保てるかどうかは分からないし、それが14歳の少女の心にどの様な傷を付けるのか想像も出来ない。
こんな時は、俺たちをゾンビにさせる原因を作ったアビ(アビドバス・ガロン・ウィルガラン国王)を恨めばいいのか、それとも自我に目覚めた偶然を憎めばいいのか……
そんな事を鬱々と考えていると、詩織は俺の方に視線を向けて言ってくる。
「だからね、私、颯太さんに感謝してるの。何時もの様に色んなとこをよそ見しながらフラフラと歩いてくれたから。おかげで直ぐに此処までたどり着かなかったし、もっと早くに着いてたら気になってしまってただろうし。だから颯太さん、ありがとねっ!」
詩織の笑顔が切なくて眩しくて、いっそ目ん玉を握りつぶしたくなってしまうほど安らいだ表情は、俺にはとてつもなく勿体なく感じてしまう。
俺としてはひと仕事が終わって、何時もの様にサボりの場所を物色していただけに過ぎない。
つまり、お礼を言われる程のことでは決してないのだから、詩織のそんな言葉が無茶苦茶むず痒い。
腐った身体にウジが這う以上にむず痒い。
「いや、颯太さん……言い方」
晴也にまで窘められてしまった。
最近の10代は大人の扱いが辛辣だ。
それでも、俺の背中に背負われた詩織は移動中にどの様な表情をしていたのだろうか? どの様な気持ちでいたのだろうか?
ついついそんな事を考えてしまう。
「そんな事をは考えなくっていいんじゃない?詩織もお礼言ってんだし。だから颯太も何時までもウジウジやってないでしゃんとしなよ」
そう言って、背中をパンッと叩かれる。
しかし、ウジが這うからのウジウジとは、かなりウィットに飛んだゾンビギャグだ。
出来るゾンビは何処かが違うのだろうなと、尊敬のまなざしでマリアを見つめると、短い言葉で蔑まされてまった。
「馬鹿!」
……女心は難しい。
しかしまぁ、確かに詩織の言う通り、こちら側の存在としては自我が目覚めていようと無かろうと、人間ならば例え身内だろうと齧り対象だ。
それに、いくら攻撃されても無限増殖していく『骸の兵士』の進撃は、核兵器であろうと止められない。
何せ、死んでからが真骨頂のゾンビなのだからな。
だったらもう早くに諦めちまった方がいいに決まってるし、下手に自分が手を下すようになっちまうよりは他のノマゾンにやってもらう方が、自我を持つ方としては罪悪感に苛まれずに済むと言うもんだ。
「悲しいけど、そういう事ですよね」
っと、晴也が同意すると、その隣の詩織がいつもの笑顔に戻って短く言った。
「そゆこと!」
先頭ゾンビがこの場所を通過してから恐らくは12時間以上は経っているだろうし、群れの中間に位置する俺たちの周りには、『骸の兵士』の約半分のノマゾンが徘徊しているので生存者がいる確率は極めて低い。
つまりはもう既に……
そういう事なのだろう。
「逆に、もうこちら側って事を喜んでいいんじゃない? バッタリ出会って逃げ惑われるよりはずっといいと思うけどね」
そんなマリアの言葉に、俺も晴也もドキリとしてしまう。
心臓はもう動きはしないのだけど。
しかし詩織の反応は全く違うものだった。
「それね! もし生身のお爺ちゃん達に出会ってさ、私を見て怖がられて逃げ惑われたら悲しくなっちゃうしね。それにもうゾンビになってるのを見つけたらさ、変な風に聞こえるかもしれないけど私は気が楽になると思うの」
そう言いながら詩織は周りに徘徊するノマゾンを伺うが、見知った顔を見つけた様子は無さそうだ。
この街にどれほどの人間が住んでたのかは分からないが、そう簡単に見つかるもんでも無いだろうしな。
それにもし、ゾンビとして出会った場合はだ、少しだけ並走してやるのもやぶさかでは無いと思う今日この頃だ。
そんな気持ちで熊本城を見上げていると、晴也が不思議そうに詩織に尋ねる。
「それより詩織ちゃん、さっき熊本城を眺めている時に『直ってる』って言ってたよね。あれってどういう事?」
「6年前の4月に熊本で大きな地震があったの覚えてる?」
っと言って詩織は俺たちに向けて、コテンと小首を傾げる。
そう言われて思考するんだが、この地震大国日本では日頃から度々ニュース速報で地震情報を流しているのであって、どの辺で地震があった等はハッキリ言って覚えてない。
しかも6年前ともなれば尚更だ。
当時は大学2年生だった俺だし、4月ならば夏のインカレに向けて部活に勤しんでたから、あまりテレビ等は見ていなかった気がするな。
「ごめん詩織、私も良く分かんない。地震って言ったら真っ先に東北大震災を思い出すけど、それ以外は特に気にしたことないし」
っと、マリアが申し訳なさげに言う横で、晴也だけは神妙な顔つきになって言う。
「僕は覚えてますよ。震度7前後の地震が2回も発生したやつだよね。……そうか、だから熊本城なんだね」
っと、何かを理解したように晴也は詩織に頷き掛けると、詩織も「うん」っと言って頷く。
10代の2体が納得し合う中で20代の2体は何の事やらと視線を合わせて首を傾げていると、晴也がその当時を語ってくれた。
「僕はその当時12歳でしたからテレビのニュースとかでしか知りませんけど、その地震で熊本城が凄い被害にあったんですよ。屋根瓦なんかかなり落下したし、お城の土台の石壁が崩壊しちゃって重要文化財の危機だって連日やってましたしね」
そう言えば、何となく熊本城が大変なことになったとニュースで見たことがあるような気もする。
なんせあの頃は東京に居たし、大学の寮ではテレビなんか見なかったからネットニュースで流し見するくらいだし。
だから、そこまで深刻な状態だとは思わなかった。
そう言ってマリアを見ると、申し訳なさげに肩を竦める。
「あの頃から深夜アニメばかり見てたから……」
全く頼りにならない年上ゾンビ共だった。
しかし、当時12歳だった晴也がニュース番組を連日見ていたとは嘆かわしい。
小学校6年生ならばもっとバラエティー番組や、それこそマリアまでとは言わないがアニメとかを見て、翌日にクラスで盛り上がる様なことにならないものなのだろうか。
俺が晴也の年頃の時なんかは、ポケモンや遊戯王等を毎週楽しみしていたもんだがな。
「僕は中学受験の時事問題対策として、ニュース番組ばかりみてましたよ」
物凄く恥ずかしい事を語った気がする。
マリアなんかもう晴也からそっぽを向いて、下手くそな口笛まで吹いているし。
とことんダメダメな年上ゾンビだった。
しかしまぁ、知らないものは知らないのが現状だ。
返って知ったかぶりをする方がもっと恥ずかしい事なので、俺とマリアは正座をして晴也に教えを乞う事にした。
年上のプライド等は、当に腐敗しているので問題は無い。
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