大宰府3.
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ようこそ!
『スポットライト・オン・ゾンビ!!!!』へ!
慌ただしい毎日の、ちょっとした一時にお付き合い頂き、本当に有難うございます。
僅かな時間ですが、ごゆるりとお楽しみください。
まさに異常でまさに異様な、阿鼻叫喚の光景が太宰府天満宮全体を支配する世界の何と歪な事か。
身なりはボロボロに裂け、身体の一部の無い者もいれば、顔面の陥没している者もいる。
髪はガサガサに膨れ上がり、むき出しの肌は生気など無く、大きく抉れた傷はどす黒く変色している。
醜い『骸の兵士』達が一心不乱に満月に向かって吠える様は、まさに気の触れた宗教のようだ。
そんな俺の……俺たち『骸の兵士』達の脳裏には、見た事のない人物が。
煌びやかな中世の王族の様な風貌の、アビドバス・ガロン・ウィルガラン国王が両手を大きく広げて叫んでいる。
『人間共を傷つけよ! 虫けら共を破壊しろ! そして仲間を増やせっ! 『骸の兵士』に栄光あれっ!!!』
その言葉に歓喜し、更にその声を求めるように雄叫びをあげ、満月に手を伸ばし、そして俺たちはその名を呼んだ。
『アビドバス・ガロン・ウィルガラン国王、万歳っ!!!』
ウッガァァァァッッッ!!!
ゴォォォォォォォッッッ!!!
ギャァァァァァァァアァッッッ!!!
ゥワァァァァァァッッッ!!!
しかし、そんな地獄絵図は突然終わりを告げた。
満月に雲がかかり、辺りを照らす光が若干薄れた瞬間に、脳裏からアビドバス・ガロン・ウィルガラン国王の姿が消えた。
今まであった高揚感が波が引くように去っていき、境内にひしめくノマゾン達は一気に脱力して肩を落として顔を下げる。
突然カリスマを失った虚無感に苛まれる俺たちを他所に、ノマゾン達は何事も無かったかのように再び徘徊を始めた。
だが、自我を取り戻した俺たちは、ノマゾンの切り替えの速さに全く着いていけないでいるのだ。
まぁ、別に無理して着いて行く気は全く無い。
不良ゾンビだし。
ただ、突然現れた高揚感から一気に叩き落とされたこの虚無感の落差。
全てを与えられ、一瞬で全てを取り上げられた喪失感。
…………悪くない。
「本当、ジェットコースターに乗ってたみたいでちょっと興奮しかもっ!」
っと、マリアが頬を紫色に染める。
「それわっかるぅぅぅっ! なんかさ! なんにも無くなった瞬間にゾクゾクしちゃってさ! ヨダレ漏らしそうになったしぃ」
と、詩織が晴也にしがみつきながら片足でピョンピョンと跳ね上がっていた。
「何だろう……こんな気持ちになったのは初めてな気がします。もう忘れたけど多分、高校に合格した時と同じくらい……ううん、きっとその千倍くらい気持ち良かったかも知れせん」
ドMである。
揃いも揃ってドMゾンビである。
そんな癖があったのか、はたまたゾンビになってこれまでに培ったものなのかは分からない。
そんな発見に高揚し合う、4体の残念なゾンビが本殿の前で暫く余韻に浸るのだった。
再び徘徊を開始したノマゾンを掻き分け、俺たち残念組も移動を開始し、本殿と参道の間にある大きな門で振り返って境内の様子を眺めながらマリアが声を出す。
「なんかさ、『骸の兵士』って人間を襲うって目的をアビに強要されててもさ、やってる事って個人的なじゃない?」
マリアの言わんとしている事はよく分かる。
俺たちは『兵士』と言われてはいるが統率がとれている訳でもなく、また統率をとっている指揮官ゾンビがいる訳でもない。
ただ群れを為して徘徊し、人間を見れば追い詰めて、ただ傷つける。
徒党を組んでいるように見えても協調性がある訳でもなく、人間を囲む時もあるが作戦を立てた訳でもなく、挟み撃ちの様で偶然に過ぎない。
ただ数が多いだけの集団だった。
俺も人間の頃は自衛隊に所属していたから分かるが、こんなものは軍隊とはとても言えない。
言わばその他大勢の烏合の衆だ。
「でもさっきはさ、すっごい一体感って言うか、ライブでのクライマックス感って言うのかな? 行ったこと無いけど。とにかく、ここにいる全員がひとつになれた感じがして、ノマゾンの見方がとょっと変わったかも」
っと、マリア。
すこぶる同感だ。
たった数分の間に俺たちはひとつの感情に、この場にいる全員で気持ちが高ぶったのは間違いない。
自我に目覚めていようが無かろうが、人間から見れば同じゾンビだし、同じ兵士だし。
かと言ってノマゾンに感情移入することも無い。
それが俺たちのスタンスだ。
それがアビであろうと立ち位置を変えるつもりは無いが、少なくともここに来るまでの上から目線は辞めようと思う。
そんな事を考えていると、マリアが今度は不思議そうに言ってきた。
「それにしてもホント、此処ってノマゾン多くね?」
「マリアちゃん、それ今更だよ。私なんて駐車場の時からそう思ってた」
っと、俺の背中で詩織が言うが、その言葉に俺もそう感じていた。
参道までの通りや御神牛がある広場、そして参道を経て境内へとノマゾンの数はどんどん増えていった事は驚きだった。
「まぁ場所の問題もあるのかも知れねぇぜ。何せ此処は神様の祀られた所だから、ひょっとして何か神様的なエネルギーに引かれたのかもしれねぇしな。例えゾンビと言えど死人だから、ひょっとしたら無意識に神様に縋りたい気持ちが微かに残ってたんじゃねぇのか?」
すると、俺たちの会話を聞いていた晴也が気まずそうに言ってくる。
「あの……ここに祀られてる『菅原道真公』は実在した人物で、没後に『学問の神様』として祀られたんですよ。だから本当の神様とはちょっと違うんです。ですので、ここには他の神社には普通にあるけど、この太宰府天満宮には無い物があるんです」
「どういう事よ?」と言うマリアと同じ疑問の目を向ける俺と詩織に、晴也は本殿を指さして答える。
「鈴ですよ。普通の神社は大小関わらず必ず鈴があるんです。でも、此処にはそれが無いんです」
そう言われて俺たちは本殿の方を見るけど、確かに普通の神社に見られる鈴が何処にも見当たらない。
ノマゾンに引きちぎられたのではと思ったが、もしそうだとしたら先程お参りをした時に気が付くと言うものだ。
俺もマリアも詩織も不思議に思って同時に小首を傾げると、俺たちの所業に苦笑いの晴也が声を出す。
「太宰府天満宮は神社なんですけど、実は菅原道真公のお墓なんですよ」
「「「へっ?」」」
青天の霹靂だ。
では何か? 俺たちは……もとい、人間は神様に参拝したつもりで、実は他人のお墓参りに来ていたという事か?
なんのゆかりも無い故人のお墓にお賽銭と言う名のお香典を投げて、願望成就を願っていたと言うのか?
そんな俺の驚愕に「お香典って……」っと、苦笑いの止まらない晴也に、マリアが本殿を見上げながら声を出す。
「それじゃぁつまり、この大きな本殿が全部お墓って事?」
「そういう言う事になりますね」と言う晴也は、悪いことを言ってしまったかの様な表情で後頭部を掻き始める。
「神社の鈴は神様に向かって参拝に来ましたと、お知らせするものなんです。でも、此処はお墓ですから鈴が無いという事らしいです」
「諸説ありますけど」と、付け加える晴也。
しかしまぁ晴也のウンチクで、これ程までに無知だった自分にすこぶる呆れていると、俺は何となくあるワードをポツリと呟いた。
「お墓……?」
すると背中の詩織も「お墓かぁ……」と呟き、「お墓ねぇ……」とマリアが言って暫し、俺たちは4体揃って顔を見合せ同時に叫んだ。
「「「「お墓ぁっ!!!」」」」
日本で『お墓』と言えば幽霊が付き物ではあるが、欧米やヨーロッパ辺りでお墓と言えば、紛うことなきゾンビである。
つまりはそういう言う事で、ここが広大な『お墓』だからこそ、ゾンビが引き寄せられて群がってしまっているのだろう。
今も境内にはノマゾンの大群が溢れ、参道からも続々とやって来ては徘徊し、もう地面すら見えなくなっている。
何となく合点のいった俺たちは踵を返して門を潜り、ノマゾンの流れに逆らいながら参道を戻っていると、再び満月の月明かりが参道をら照らした瞬間に高揚感が湧き出した。
俺たちは満月に向かって叫び、周りでは大絶叫が湧き起きる。
グァァァァァァァッッッ!!!
ギャァァァァッッッ!!!
ウォォォォォッッッ!!!
アァァァァァァッッッ!!!
そしてまた、満月が雲間に入ると喪失感に襲われ、俺たち4体だけは更に別の高揚感に包まれた。
そんなことを繰り返しながら移動する俺たちは、夜明けまで何度もやってくるジェットコースターの様な高揚感を楽しむ様に太宰府天満宮を去って行くのであった。
つくづく残念なゾンビである。
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