大宰府2.
✱アクセス有難うございます✱
毎日AM8:00とPM9:00に投稿!
ようこそ!
『スポットライト・オン・ゾンビ!!!!』へ!
慌ただしい毎日の、ちょっとした一時にお付き合い頂き、本当に有難うございます。
僅かな時間ですが、ごゆるりとお楽しみください。
「なるほど…これが御神牛か」
あれから鳥居を潜って直ぐに、俺が想像していたのよりも大きくて厳つい、伏せた牛の銅像が俺たちを出迎えてくれた。
その場所にもノマゾンがかなりの数で徘徊していたのだが、どのゾンビも御神牛には目もくれず、大半のノマゾンは参道の奥に進んで行く。
しかし、この御神牛……
確かにウケると言ってしまえば罰当たりな気もするが、特に頭から額、鼻の部分がピッカピカに光っているのが薄い月明かりに照らされ強調されている。
すると、晴也は御神牛の目の前に立って、ピッカピカな額をカッサカサな手で撫でながら言った。
「御神牛って言うのはですね、自分が良くなりたい部分をこうして撫でるとご利益があるって言われてるんです。それに此処は学問の神様が祀られている所ですから、受験生とかがこうやって撫でるもんで額がピカピカになっちゃってるんですよ」
なるほどねぇ……
晴也のウンチクに感心していると、背中の詩織がモソモソとしてきたもんだから、屈んで下ろしてやる。
詩織は銅像の台座を使って移動し、御神牛の左足を撫で始めた。
詩織の左足は、足首が砕けていて筋肉だけでくっついている為に、少し動くだけでブラブラと揺れてしまう。
自らが歩いて移動する時は、左足を出した時にガクンと体勢が下がってしまうので、そろそろ足首から下がちぎれそうでグロテスクな感じになっていた。
ただ、ふくらはぎ辺りに付けられている紺色に白と赤のラインが入ったシュシュが何となく無惨さを和らげていて、一緒に行動する俺たちにとっては頗る有難い。
誰かにプレゼントされた様だが覚えていないと言いつつ、そのシュシュを時折撫でては安らかな表情を浮かべる詩織。
まぁ、誰が相手かは知らないが、送った方はなかなかのセンスがあるのか、もしくは詩織の事が大好きなのだろう、詩織のイメージにピッタリなチョイスなのは間違いなかった。
さてさて、そんな詩織を背負い直して俺たち一行はノマゾンに混ざって参道を歩き始める。
軽くアーチを描く橋を超える度に晴也のウンチクが始まり、そんな解説をガイドの様に聴きながら進むと、いよいよ真っ赤な大きな門をくぐり抜けて
本殿前の広場にたどり着いた。
薄い月明かりに照らされたその場所にはノマゾン達があちらこちらで徘徊し、人間が結び付けていた御籤が結ばれた場所に引っかかったり壊したり。
社務所の扉にぶつかって破壊したり、社務所内で御札やキーホルダー等をぶちまけたり。
もうホントやりたい放題だ。
ただまぁ、ノマゾン達は意図的にやってる訳でない。
ただただゾンビらしく、人間だけを求め障害物を乗り越えていこうとしているだけなものだから、そんな姿を本来の俺たちならばリスペクトしなければならない。
ただ、自我に目覚めてしまったばかりに罰当たりだとか勿体ないとか……
片付けや掃除が大変だろうなと、冷めた目で見ている俺たちは、彼らからすれば確実に不良ゾンビだ。
冷ややかな目で見られても仕方がない。
まぁ、半数のノマゾンの目は腐り落ちたりぶら下がったりしているのだが。
よくあれで歩けるものだと感心してしまう。
見えていないから至る所にぶつたり躓いたりしているのだろうが。
いかんいかん、どうも自我が目覚めているものだから、上から目線で穿った見方をしてしまうのは俺の悪い癖だろうか。
「齧り率は私たちの方が高いんだからいいんじゃね?」
っと、俺と同様に冷めた視線をノマゾン達に向けるマリアが呟くのだが……
だよな!
っと、割り切って俺たちはノマゾンをかき分けながら本殿に向かって歩を進めた。
不良がまっしぐらである。
程なく本殿の前にたどり着いのだが、ノマゾンの中にチラホラと巫女さんや、烏帽子をぶら下げた宮司さんが本殿の中で徘徊しているのが確認出来た。
慣れ親しんだ場所でゾンビとなった方々にご愁傷様と、そしていらっしゃいと呟く。
そのまま本殿の前のひっくり返された、大きな賽銭箱の前で横並びになった俺たち。
もちろん詩織は俺の背中から晴也の左横に移動して佇んでいると、晴也が穏やかに声を出してきた。
「僕、高校入試前に合格祈願に来てたのに、合格してからお礼参りに来れなかったんですよ。両親が忙しくって連れてきてもらえなかったんですけど、今日ここに来れたのは偶然だけど、とっても嬉しいです。これでやっと合格のお礼ができますからね」
晴也はゾンビになる前は全国模試で日本一になるくらいの頭脳持ちなのだから、実力なんじゃねぇの? ……っとは言わず、ゾンビになっても律儀にお礼が出来ることを喜ぶ姿にこちらも口元が緩んでしまう。
ゾンビとしては不良の部類だが、人間のままだったら感謝の出来る素晴らしい大人になったのだろうと思うと残念でならない。
無性に晴也を齧ったヤツを見つけ出して正座をさせ、説教をしてやりたくなった。
「僕は颯太さん達と出会えたからもういいんですけどね」
ゾンビとなって涙腺など既に枯れ果てているのだが……
俺の涙よ、カムバック!
それから二礼二拍手一礼をし、暫くお願い事をした俺たちは同時に振り返る。
いつの間にか晴れた月明かりに蠢くノマゾン達が、何となく嬉々として徘徊している様に見え、そんな俺たちも何となく高揚感に溢れているように感じた。
いつもより視力が増し増しに見え、詩織ほどでは無いが聴力が上がった様な気もするし、しかもそれは俺だけではなくマリアや晴也や詩織すらも同様の様だ。
なんと言うかこう……
血湧き胸躍ると言うか、何となくこう……
無性に吠えたくなってくる。
ウッゴォォォォォッッッ!!!
そんな俺の雄叫びに、境内の真ん中にいたノマゾンが突然満月に向かって吠えると、それに呼応するように周りのノマゾンも吠え始める。
グァァァァァァッッッ!!!
オォォォォォッ………
ガァッ!ガァッ!ガァァッ!!!
ウォォォォォッッッ!!!
そんな叫びが境内で響き渡る中、完全に高揚しきった俺は再び雄叫びを上げる。
ウォオォォォッッッ!!!
そのすぐ後にマリアも晴也も、詩織も揃って絶叫をあげた。
ウワァァァァァッッッ!!!
グァァアァァァァァッッッ!!!
ギャァァァァァッッッ!!!
顎を持ち上げ両腕を高く掲げ、満月から降り落ちてくる邪悪なエネルギーを余す所なく全身に収める様に、俺たちは叫び続けるのだった。
お読み頂き有難うございます。
よろしければブクマ&評価などして頂ければと思います。