廃殿
石の大鳥居は、衰えていく町の景色を眺めながら雄と佇んでいた。
時分構わず人の営みを見ることは敵わない。
参道の川に架かる太鼓石橋は、押し流そうとする水に抗いながら、明日も懸命に両岸を繋ぐ。
甍造りの大門は、今にも頽れそうな弱々しい姿で、何者かを迎え入れようと大戸を開いて立っていた。
敷石は雨に穿たれて、方形に切り出されたそれらの角は疾うに丸くなっている。
訪れる者のないこの社には、今日という旅人が霧雨を誘ってやってきていた。
潰れた板屋の前では、一本の手水柄杓がもの悲しげに雨水を湛えている。
歪んだ石段の隙間に落ちた水滴は、押し固められた土を削って泥となる。
老軀の歩みを支えた鉄の手摺りは赤く朽ち果て、己が立つので精一杯だ。
段上に立つ社殿は、曽ての栄華を伝えようと切に努めている。
朱の塗柱はいつしかその色を失い、殿中は物少なに静けさを保ち続ける。
雨上がりの陽光に照らされて、唐破風の金箔だけが輝いていた。
杜は荒れ、往時の神秘は欠片も見当たらない。
小径は草叢に消え、丸太の階段だけが辛うじてその姿を留めている。
露を乗せた小さな子葉に木漏れ日が差して、力強く、その生命の営みを始めた。