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廃殿

作者: 山辺 夜







石の大鳥居は、衰えていく町の景色を眺めながら雄と(たたず)んでいた。


時分構わず人の営みを見ることは(かな)わない。


参道の川に架かる太鼓石橋は、押し流そうとする水に(あらが)いながら、明日も懸命に両岸を繋ぐ。







甍造(いらかづく)りの大門は、今にも(くずお)れそうな弱々しい姿で、何者かを迎え入れようと大戸(おおど)を開いて立っていた。


敷石は雨に穿(うが)たれて、方形に切り出されたそれらの(かど)()うに丸くなっている。


訪れる者のないこの(やしろ)には、今日という旅人が霧雨を誘ってやってきていた。







潰れた板屋の前では、一本の手水柄杓がもの悲しげに雨水を(たた)えている。


(ひず)んだ石段の隙間に落ちた水滴は、押し固められた土を削って泥となる。


老軀(ろうく)の歩みを支えた鉄の手摺(てす)りは赤く朽ち果て、己が立つので精一杯だ。







段上に立つ社殿は、(かつ)ての栄華を伝えようと切に努めている。


(あけ)塗柱(ぬりばしら)はいつしかその色を失い、殿中は物少なに静けさを保ち続ける。


雨上がりの陽光に照らされて、唐破風(からはふ)の金箔だけが輝いていた。







(もり)は荒れ、往時の神秘は欠片も見当たらない。


小径(こみち)草叢(くさむら)に消え、丸太の階段だけが(かろ)うじてその姿を留めている。


露を乗せた小さな子葉に木漏れ日が差して、力強く、その生命(いのち)の営みを始めた。







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― 新着の感想 ―
[良い点] とても素晴らしい風景描写でした。 廃殿の様子が目に浮かぶようです。 自分もこんな風に書けたらいいのですが・・・ ルビ打つのも大変でしょうに多用してくれているのは、私の様な無学なものにはと…
[一言] 寂れていく中にもどこか厳かな雰囲気があり 凛としている様な印象を受けました。 今日もまた静かに佇んでいるような気して行ってみたいなと思いました。
[一言] 廃墟ながらも、どこか厳かな感じがします。 その場所で、長い時代を見守って来たんでしょうね〜。
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