斎場
強い風が吹いていた。暖かくなってもうそろそろ季節も変わる頃合いだったが、空気はしっかりと冷たさを含んでいた。
一面の緑に一本の道が続き、丘をいくつか超えると低い斎場があり、それは神殿のような感覚を催させた。中は自然光で満たされ、草の緑や空の青と対照的にコンクリートと喪服のモノトーンがコントラストをなしていた。そんな中に一点の赤いリボンがあった。
リボンは少女の頭についていた。少女がこちらを振り向く。何かを訴えるような、憂いのある目を私に向けた。そこには時間と空間の共有があった。少女の目は澄んでいて、頬はどこまでも赤みを湛えていた。鼻は何かを求めるように宙に向けられ、物欲しげな唇がその下に位置付けていた。赤いリボンはどこまでも上品で、かつ幼なげだった。手には檸檬を握っていた。
右手から陽光が差し込んで、ちょうど彼女の目元で影の境目を落とした。空は高く、隅の方に擦った雲がいくつかあった。それ以外はまったく澄んだ空だった。風が吹いてきて芝生の上を撫で、柱の間を抜けて彼女の袖を揺らした。その袖も上品でそれと同時に幼なげだった。
暫くの間それが続いた。少女が私を見て、私はそこにいた。日が差し込んできて、彼女の袖を染めた。少女の目は私の中に何かを探しているようでも、私に何かを求めるようでもあった。しかしそれは叶わないと判断されたようだった。彼女はスカートと腕を揺らせて歩き去り、私はそれを見ていた。
少女は親に連れられ、列の最後尾について行ってしまって、そこには低い太陽の光とコンクリートの屋根と、柱の影だけが残った。風が吹いてきて春の香りを予感させた。