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不可思議の万屋〜麒麟の姫と流れ神の伝説〜  作者: 黒部
第一章 堕ちた雷
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第十七話 不浄の雨

空から風邪を切るような音が微かに聞こえてきた。

矢は確実に近づいてきている。


「術に矢って、アイツら雑兵みたいな奴なんだよな!? なんでそんなに高性能なんだよ! ズルくないか!?」


「それが常世の存在というものなんです。相手の嫌な所を突いてくる嫌らしい存在です」


「全くだな!」


「……そのままの速度で走っていてください」


「え? それは……うおっ!?」


風を切り、ズドドドッと周囲に何かが落ちてきたような音がした。不浄の矢は黒いのか、暗闇に溶け込んでいるかのようにその形を見ることは出来なかった。

すぐ側の木に当たったようだが、俺と白雷には当たっていない。


「マナがごく僅かですが戻りました。相変わらず身体は動きませんが、矢の道筋ならある程度読めるようになりました」


「そ、そっか、危ねぇ……助かった……」


どうやら雨の矢を乗り切る事が出来たらしい。

少し疲れてきていたから走るのをやめて小走り程度にしようとすると


「一回で終わりな訳が無いでしょう! 第ニ波、来ます! 半歩右に動いて速さを落としてください! 急いで!!」


「は、半歩右……いや分かるか!!」


よく分からない指示に従い少しだけ右にズレて走る。だがスピードを落とせって、どのくらいまで落とせばいいのかが全然分からない。


「ッ! 危な」


「ヘックシュッ!」


急に鼻の奥にツンとワサビが入ったような感覚がして立ち止まりくしゃみをする。

すると頭上でヒュンと音が鳴ったと思えば目の前にはいつの間にか木があり、ちょうど目線の高さと同じくらいの箇所を何かが穴を開けていた。


「……よく躱してくれました。正直死を覚悟しました……お見事です」


「あ、どうも……」


どうやらくしゃみの衝撃で少し更に前屈みになった時に俺の頭上、白雷の頭上を矢が飛んできていたようだ。

木の状況から察するに、もしくしゃみが無かったら当たってしんでいたかもしれない。そう考えると背筋が凍る……白雷のお陰で温かいけれども。


「よし、行くぞ」


未だに震える足に喝を入れ、再び走り山を下り始める。

山から出る事が出来れば山を囲う結界で常世の存在は追って来れない筈だ。

いける、このままなら二人とも助かるかもしれない。そんな期待をしたら、体中が熱くなり、自然と力が入るようになった。


そうだ、俺達は生きるんだ。


「第三波、来ます!」


白雷が次の矢の雨が降る事を警告する。

またか! と心の中で叫ぶ。


「これは……」


「どうすればいい?」


白雷に次の矢の軌道を聞く。

さっきは偶然避けられたが同じことが起きてくれるとは限らない。それに、右にズレる行動は合っていたから今度はちゃんと動ける……と思う。


「…………」


「白雷? どうした?」


彼女に尋ねるが返事が返ってこない。

マナが少し戻ってきたとはいえ、やっぱり難しいんだろうか。マナを持たない俺にとってはその難易度を知ることは出来ないが、少し不安だ。


「……白雷?」


「大丈夫です。このまま進んでください」


「? 分かった」


特に何の指示も無く、ただ進めと、それだけだった。

最初は特に気にも留めなかった。現状、矢の軌道が分かるのは白雷だけだ。その白雷が問題無いと言っているのだから大丈夫なんだろう。

だが何かが引っかかっていた。

本当に大丈夫なのか?

さっきまで第三波が来るから気をつけろ、みたいな感じだったのに急にそのままでいいってそんな事あるか?


「常世の存在、ましてや今回のような雑兵に正確な射撃など出来ません。第三波には穴が」


「本当にか?」


「ええ……ほら、そのまま」


後ろを振り向き常世の存在の追跡を確認しつつ、空を見上げる。満月に照らされた空に浮かぶ無数の黒い点、それは段々と大きくなっている……いや、近づいてきていた。


「クソッ!!」


周囲を見回しながら一目散に走り出す。

あの黒い点、間違いなく不浄の矢だ。それも避けるなんて出来ないほどの量が俺達に向かってきていた。

そうか、白雷はそれを知って……!


「何で言わなかった!?」


「あの量と範囲では避けるのは不可能です! 弾くにも私の体は……」


「だからって自分を盾に俺を助けようってか!? ふざけるなよ!!」


「ふざけるものですか! これは私達幻獣の問題です! 私達の問題に貴方を巻き込みたくなかった!! 貴方を死なせたく無かった!! 私は……!」


彼女の声が次第に震えてくる。

激情を露わにした彼女を目にするのは初めてだ。そんな彼女を見て俺は


絶対に死なせないと決めた。


「人間を見くびるなよ……白雷!!」


足に力を込め、更にスピードを上げる。

まだだ、まだ時間は僅かにだがある。

俺は三度目の奇跡に賭ける!


「やめてください! 私が身代わりとなれば貴方は助かるかもしれません! だから」


「かもしれない可能性の為にお前を死なせてたまるか! 夢に出そうで嫌だわ!」


「わ、私恨んだりしませんから! このままだと本当に……」


「言ったろ、見くびるなってな!!」


走り続けていると、暗闇の先に薄らと白い何かが見えてきた。それこそが俺が探していた奇跡。

岩だ。その影に身を隠すことが出来れば不浄の矢の雨を抜けることが出来るかもしれない。

問題は……間に合うかどうか。


「頼む……間に合え……!」


既に周囲に幾らかの矢が落ちてきている。けれども岩はもう目の前にある。

あと少し……あと少しだ!

様子を見ようと振り向いた時


「あ……」


眼前に黒い矢があった。

読んでくださりありがとうございました。


よろしければ感想、評価を残してくださると嬉しいです。


転がり喜びますほんとに


この小説が皆様の楽しみになりますように

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