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不可思議の万屋〜麒麟の姫と流れ神の伝説〜  作者: 黒部
第一章 堕ちた雷
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第十話 迫られる選択

「はぁー……」


翌日、俺と白雷は卓袱台を囲み朝御飯を食べていた。


「どうしました? 大きなため息をつくと金銀財宝が逃げていきますよ?」


「そこは幸運じゃないのか、生々しいな幻界……ほら、昨日の夜の事だよ」


思い出すだけでも気分が悪くなる……どこかのゾンビ映画みたいな猪の姿、現実には思えない。

いくら白雷もいるからって、人間が相手していいようなものじゃないだろ……


「確かに、見ていて気分のよくなるものではありませんね。魂を無理矢理死した肉体に縛りつけてしまうのですから……」


そう言いながらご飯に苺ジャムをたっぷりと乗っける。

もしかしたら気分が悪くなっているのは昨日の事ではなく目の前で行われている事なのではなかろうか?


「やはり人界は邪なる場所です。冥界に近い分、得体の知れない危険が身近にあるのですから……あぁ、おいしい……」


買ってきたばかりの瓶が空になるまでジャムをご飯に盛り、一口……恍惚とした表情で体を震わせる。


「……邪なる場所で培われた果実ジャムは美味いか?」


「…………危険な場所にこそ美味は生まれるんです。このジャムもしかり……あ、おいしい……」


そう言って山盛りのジャムかけご飯を食べ始めた。彼女を見ていると、ジャムって実は海苔の佃煮と同じようにご飯にかけても美味しいんじゃないかと思えてしまう。

……いやいや、そんなはずは、無い、筈だ。


「昨晩のようなものを見るのは初めてでしたか?」


「え? あぁ……まぁな……」


薫は今の俺なら受け入れられるって言ってたが、あんな事があったら誰でも受け入れざるを得ない。それにあの時、薫や白雷がいなかったら俺は間違いなく死んでた。

夢の中でも現実でも強かった彼女にとってはとるに足らない存在だったかもしれないんだろうな。


「無理もありません。戦に出ている者でもアレは堪えると思います。幻界での立場上、私は見慣れてしまいましたが、一般の方であれば余程の狂人で無い限りは当たり前の事です」


てっきり罵倒されるものかと思っていた。


「しませんよ。私も人間嫌いとは言え、鬼ではありませんから。角ありますけど」


「……そっか……」


青龍に姫って呼ばれてたし、やっぱり人格者なんだな。

たとえ忌み嫌う人間だとしても、基本的には


「今の笑うところですよ? もう、これだから人間というのは……」


「えぇ……今のそうなの? しかも貶されるの俺?」



・・・・・・



昼過ぎ、俺達は神矢神社を訪れた。

昨日、薫には神社に来る時間を言ってはいなかったのでいつもの時間に来たのだが


「ごめんね、薫ちゃん急用で今日はいないのよ」


社務所で俺達は薫が今日ここにはいないことを知る。

急用か……もしかして昨日の件だろうか。


「考えてる事で正解。いつもの事だから安心して流くん」


「そう、ですか。分かりました」


「あの……流様、この方は?」


「ああ、この人は」


彼女は上野 果穂。薫の親戚で小さい頃によく遊んでもらった事のある姉的な存在だ。

中学に入った頃ぐらいから町を離れて会えていなかったのだが、5年振りになるのか。

最初、会った時は本当に誰なのか分からなかった。


「なんだか寂しくなるわね、昔は果穂お姉ちゃんって呼んでたのに」


「いや、その……勘弁してください」


何というか、知らない間柄じゃないとはいえ、今は高校生だし果穂さんは大人になってるし……何より恥ずかしい。

恥ずかしがるような事は無いはずなのに、なんか恥ずかしい!


「そんなに恥ずかしいですか?」


「そりゃあ……って口に出すなっての!余計キツい!」


「あら〜かわいいところは相変わらずで安心したわ〜」


「もうゆるして」


恥ずか死ぬ。

もうこの話題はいいって!羞恥を受けるためにここに来たわけじゃないっての!


「さてと、流くん弄りはこの辺りで、本題にはいりましょうか。これが昨晩の報酬よ」


そうして机の上に置かれたのは分厚い茶封筒。


「……商店街の福引券?」


「まさか。ちゃんと全部諭吉さんよ」


「マジ!?」


中身を確認すると、確かに全て諭吉さんだった。

50枚ぐらいはあるか……?


「この紙束が報酬なのですか? なんとも闇の深い仕事ですね」


「これ1枚であのジャム30個ぐらい買えるぞ」


「このような大金を一度に!?」


変わり身の速さも雷の如く。

目がキラキラと輝いてソワソワし始めた。


「ふふ、話に聞いた通り面白い方ね」


「果穂さん、昨晩の事はここまでの大金が一度に支払われるぐらいの事なんですか? それに果穂さんは、その……知ってたんですか?」


彼女は俺の問いに頷く。

マジかよ、果穂さんもそっち側の人だったのかよ……

つまり神矢に連なる人はほぼ全員霊感やら持ってると思った方がいいだろう。


「昨日の事に限らず、この仕事は命に関わる事は珍しくはないの。だからこれぐらいは当然、それにこの事もあるから」


人差し指を口に当てる……つまりは口封じの意味も込めての事だろう。


「すごいですね、これでジャムには困りませんね!」


「全額ジャムには使えないからね!? 俺はジャムだけじゃ生活出来ないからね!?」


いつまでジャムの事言ってるんだこの麒麟サマは!? 仮にジャム買うにしても米とパンぐらいは必要だろーが!


「あーもう話進まねーよ! 果穂さん、これを薫に返しておいて欲しいです」


ポッケから取り出したのは薫に渡されていた勾玉、それを果穂さんに渡そうとするが、彼女は受け取ろうとしなかった。


「それは流くんが持っていて欲しいとの事よ。そしてこれからもお仕事のお手伝いをして欲しいとも……流くん、どう?」


「それは……」


即答は出来なかった。

そりゃあ、事ある毎にこんな大金が貰えるなら先は安泰だろう。けれども命懸けな上に、正直白雷や薫がいないと……一人じゃ何も出来ない。

でもせっかく仕事を紹介して貰ったのに断るのも……


「流くん、薫ちゃんには……いえ、私達にはあなたの力が必要なの。陰の気は移ろい易く、完全に浄化出来るのは貴方だけなの。だから……!」


「果穂さん……でも俺は……」


これだけ頼まれているのに、俺は素直に首を縦に振れなかった。

神矢神社の人達には感謝してる、裏切りたくない。けど……やっぱり昨日みたいな事が起きるのは怖い。

俺は……どうしたらいいんだろうか……

読んでくださりありがとうございました。


よろしければ感想、評価を残してくださると嬉しいです。


転がり喜びますほんとに


この小説が皆様の楽しみになりますように


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