ハゲに与える鉄槌
紛れもなく後悔である。私が投げた石の先にはいつもハゲがあった。
「ハゲがいるぞ!」
在りし日の私が叫んだ言葉が聞こえたようだった。
「ハゲを捕まえろ!殺すなよ!生け捕りだ!!」
「絶対に逃がすな!」
半袖短パンで柵を飛び越える私は仲間たちに指揮する。
ハゲはたいてい足が遅い。私の部隊で一番足が速いのは「マックス」だ。
マックスが猛スピードでハゲを追い越しハゲの行く手を阻む。
そこで前もって配置していた、我が部隊誇るスナイパー「ゴルゴ」が木の上から1000cmの超長距離射撃でハゲをめがけて石を投げる。ハゲはうずくまり我々の勝利が宣言される。
若い私とてわかっていた。ハゲは望んでハゲになったわけではないということを。
しかし理由なくしてハゲになるはずがない。なにか理由があるはずだと考えたとき、見いだされる答え。それこそ「悪」である。ハゲは悪の道に進んだがゆえハゲになったのだ。このある種の哲学が我々をハゲ狩りへと推し進めた。
「ハゲを浄化せよ」
部隊一の博学者「きょうじゅ」が言う。
我々は「きょうじゅ」の合図とともにハゲの流血箇所に絆創膏を貼り、マジックペンで髪を描いた。
「「我ら正義の名のもとにおいて貴様に髪を与える」」
ハゲに我々隊員から一人一本ずつ髪を与える。
工兵「がっちゃ」がハゲの頭にノリで髪貼り付け、儀式が完了し「フサ」は開放される。
フサとは儀式を終えたハゲのことである。
我々には確かな正義があり、その正義が私達の活動に正当性を与え、使命感すら感じさせた。
ハゲという悪を浄化しフサへと還元する。正義の使者として。
ハゲ狩りは若い私に道徳を教え、善に尽くす喜びを教えた。
善と悪との戦い。しかし悪をただ罰するのではなく、善の道へと引き戻す。そこにこそ真の正義と平和があると私は確信していた。私達のハゲ狩りこそ悪を滅ぼし、世界を救う唯一の道なのだと。
ああ、かつての仲間たちは今どうしているだろうか。
マックス、ゴルゴ、きょうじゅ、がっちゃ
彼らはまだ正義の名のもとにハゲ狩りを続けているのだろうか。
私達が築いた正義の城は、私の目の前で崩れ落ち砂の山と化した。
いや、もとから砂の山だったのだ。若い私は砂の山を城とたたえていたのだ。
正義も悪も今となっては私にはわからない、もしもこの世界に正義があるならば。
私というハゲに与える鉄槌を。
作者はハゲではありません。