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従者の弁当

 

 なんだかコンビ二のチキンが食べたい気分。


 不意にそういう気分になる時ってあるでしょう。しかしながら、この場にはコンビニもファーストフード店もない。作るしかないが、鶏肉から調理するのは嫌だ。


 諦めと共にため息をつきつつジャガイモを油で揚げる。


 今日のおやつはポテトだ。




「ご主人、何してるんですか」




 皿いっぱいのおやつを抱えてご主人様の寝室に直撃した。

 彼は僕が起こす前に既に起床していた。


 ぼんやりとした顔で、窓の外を眺めている。


 窓の外に何かあるのかと思ったが、案の定何もなく、ただただ、ぼぅとしているだけのようだ。

 寝ぼけているともいう。




「おやつですよ。今日は要りませんか?」



 声をかければすぐにこちらに()()()()()()。彼はいつものように僕に笑いかけた。



「いる」



 ご主人様は食事を抜くことはあれど、おやつは食べる。


 一度、果物をおやつとして出した時は不評だったので、基本クッキーかスコーン。僕はちゃんとしたケーキなどの洒落たものは作ることができない。こうしてポテトやらドーナツやらを揚げる事はあれど、基本、手間のかかる事はしない。


 パンケーキ?あれは食事。量が多くなってしまうので食事扱いだ。ご主人様からクレームがないので問題はない。



「それで、何していたんです」



 素手でおやつを摘むご主人様を嗜めもせずに会話をする。おやつは僕も食べる。普通の従者ならば完全に解雇案件だが、従者もどきは平然と行う。


「外にね」


 一言告げてまた外を見る彼にならい僕も窓を覗き込む。

 いつも通りの森の中。前に僕が倒れていたサバンナはこの森の奥にある。

 素敵だけども、少し怖いと感じるところであったので、僕はあまり森の奥に近づきたくはない。


「何かいますか」


 首を傾げて目を凝らして見つめるが、何かがいる様子はない。少し寒気がする。



「君()()見えてないんだね」


 なら何もいないのだろうね、などと訳の分からないことを言いつつ彼は立ち上がる。

 確かに何も見えない。彼がそういうなら()()()()には何もいないのだろう。



 そういえば、最近彼は僕のことを『君』と称するようになった。ついこの間までは『アンタ』だったのに。

 何が原因かは知らないが、親しくなったというのであれば僕は嬉しい。


 長い付き合いでいたいから、親しいのはきっと良いことだ。



「俺は今日、昼から出かけるんだ」


「そうですか」


 ご主人様の昼間営業は何をしているのだろうかと考えてみるが、特に思いつかない、だが、出かけるというのだ、やる事はあるのだろう。


「お弁当はご必要ですか。」



 もぐもぐとポテトを口に放り込みながら喋る。僕としては要らない方が楽なのだが、彼は僕のご主人様だ。決めるのは彼である。


「お弁当……」


 はて、それはなんだろうか、という顔をしている。知らないのだろうか。ランチとか携帯食料とかいえば伝わるのだろうか。

 しばらく考え込んでいたが、すぐになんのことだか思い出したようで、にこりと笑って返事をくれた。



「入れ物はあったか、なければ必要ないが、あるなら君の作る『パンケーキ』が良い」


 パンケーキ。


 お弁当に、パンケーキ。


 持ち運びできないわけでもなく、問題はないが、何故にパンケーキ。おにぎりとかたこさんウインナーとかでも構わないのだが。


 そういえば、僕は『米』の存在は知っていても、見たことがないな。パンばかりだ。


 ここは主食がパンと芋なのだろうか。



 さてさて、入れ物を探すところから始めなければない。






「入れ物。よく考えたら、あったとしてもパンケーキ切ってサンドイッチの如く蜂蜜を挟んで入れるしか方法がないな」



 ぼろぼろになりそうだ。ラップが欲しい。ラップで包んでさらに布で包み風呂敷風すれば問題は解決されるのに。


 かといって、ゴム手袋もどきの材料は使うことができない。あれは食料向けではない。



 箱を探すが、見当たらない。

 ゴソゴソと台所の棚を漁る。


 やっとのことで竹籠のようなものを見つけた。


 軽く洗って、布で拭く。しかしまだ乾かないのでご主人様に頼んで乾かしてもらう。


 ご主人様は魔法使いだ。

 火の魔法は得意ではないそうだが、日常生活に困らない程度には使えるそうだ。


 まぁようするに、僕はこの世界において生活できないほど使えないということになるが、僕にはご主人様がいるから無問題だ。



 乾いて綺麗になった籠に薄いハンカチを二枚敷いて、焼いたパンケーキを四枚挟む。ふたがわりに布を被せる。取れたら困るので、細長い布で優しく結ぶ。


 少々彼が持つには、コレは可愛すぎる。まぁ良い。



 柄を変えるのも面倒だから、このまま可愛い箱を持っていってもらうとしよう。




「いってらっしゃい、ご主人」



「君は相変わらず、敬語の使い方が微妙だ」



 にこりと営業スマイルで見送りをすれば、文句を言われた。そうは言われても僕は正しい敬語なぞわからない。ご主人様に口頭で『様』をつける気はない。僕は彼を敬っているわけではないからそれで良い。


 僕と彼は、物と所有主の関係だ。



「コレ、弁当。中にパンケーキ。付け合わせは保存の関係でジャム。ジャムの種類はイチゴとブルーベリー」



「あぁ。本当にソレを使ったのか。……行ってくる」



 不服というよりも、不思議という表情を見せながら、くるりと僕に背を向けた。


 いってらっしゃいをして僕はさっさと部屋に戻る。





 ……今日はいつもよりも暇だった。



 ご主人様は次の日の朝には、平然とした顔で寝室で寝こけていた。


 結局何をしていたのかは聞く事はなかった。



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