来客
カカオと山を散策していたとき、キノコだの山菜だのがとれた。
その中のキノコで一株、いや一匹、動いて逃げるタイプのキノコがいた。面白いので捕獲してご主人様に見せにいく。
気分としては捕まえた獲物を見せにくる猫。
「動くキノコです、ご主人」
「逃がしてこい、食べたくない」
即答されたので、窓から放り投げたら、それと共に飛び立ったカカオに食われたキノコ。哀れな。
食べられてしまったキノコに合掌した今日この頃、僕らは元気に過ごしています。
「やぁ、坊ちゃん、元気してたかい?」
リビングに戻ったら、とてつもなく不機嫌そうなご主人様と楽し気に笑うエイリィがいた。
「……いらっしゃいませ」
軽く頭を下げる。
ご主人様の態度から見て望まれた訪問ではないようなので、僕はどうしたものかと頭を悩ませる。
追い返すにもご主人様は滞在自体は許可しているようだ、お茶でも出したほうがいいのだろうか。
「紅茶、緑茶、コーヒー、ジュース、何を出しましょう?」
「この前、きみが飲んでいた薬膳茶でいい」
え、と思わずご主人様の顔を見てしまう。
作った僕自身が言うのもなんだが、あれは人間の飲む飲み物ではなかった。まずいにも程があるものが出来上がってしまった。結局カカオに飲ませてなかったことにしたのだが、本当にいいのだろうか。
行ってこいと目で言われたので、頷いた後、ニコッと笑う。もちろん外向きの面だけの笑顔だ。
「少々お待ち下さい。カカオ、つまみ食いしないでね」
とりあえず、作り置きのクッキーや買ってきた土産のおかしをざざっと皿に並べて、お茶を淹れに引っ込む。
薬膳茶の用意ができたので、部屋に戻ったところ、楽しそうに笑っていたのはエイリィだけで、やはりご主人様は不満そうに頬杖をついていた。
「ありがとー……待って、これ何入ってるの?」
「薬草おまかせセットです。想像にお任せしますが、僕のお気に入りのカカドターニャが入っていることは確かです」
「かかどたー……あ、うわ、独特の匂い!」
香りを嗅いだだけで、参ってしまったのか、嫌そうにお茶を遠ざけたエイリィに、ご主人様は急にニコニコしながらお茶を押し付けている。
「ほら、ガトーがせっかく淹れてきたんだ」
「酷いなぁ、はるばるやってきた客に向けてこの仕打ち」
「……別に、ぶぶ漬けの要領でつくっていたわけではないのですが……」
微妙な顔で考えていたら、言葉を聞かれれていたのか、エイリィに口を挟まれた。
「ぶぶづけ?」
「いえ、お気になさらず」
きっとこれも『知識』の弊害。
誤魔化して笑った後、代わりのお茶も出す。こうなることは目に見えていたから、余分に淹れておいたのだ。
こちらは僕の趣味で買ってきた紅茶だ。
「それで、ご主人、なんのお話をしてたんです?」
普通、従者が主人と同じ席に座るとか、話に口を挟むとか、あり得ないと思うのだけど、ごっこ遊びなだけの僕は横に平然と座る。
「今日は別に国の案件じゃないよ、個人的な要件」
エイリィが答えた。
「情報屋の一面も持っているんだけどね、売れそうな話がないか集めに来たんだ」
「……確かに俺は戦場関連の情報には目をつけているが、売ってやる通りはない。国関連じゃないなら尚のこと」
「いいじゃないか、ちょっとくらい。…なんかないの?」
雑談しに来ただけのようだ。気にしなくてもいいみたいなので、僕は横で本を読み始める。
手近にあったご主人様のコレクションの中の一つで、置きっぱなしの埃かぶってた本が数冊あったので、その中から綺麗な表紙の読めそうなものをチョイスした。
中には読めない、紙が朽ちてしまっているものもある。本を開いたら中身がバラバラになったり紙切れがパラパラ落ちてきたりするのはよくあることだった。
どうやら何かの図鑑のようで、恐らく生物についてのもの。
ユニコーンのようなツノの生えたうさぎを見つけた。
名前の部分は読めないが、説明文の読める場所だけ抜粋すると、水の中にいる、海藻を食べる、ツノを擦り合わせて求婚する、といったことが書かれていた。
そういえば、エイリィは妖精だったはず、何か面白い特徴とか文化とかあるのだろうか。
一人で勝手にあれこれ考えていると視線に気がついたのか、エイリィはこちらを見てにこりと笑った。
「どうかしたの?」
あ、いえ、なんて少し戸惑ったけれど、丁度良い機会なので文化について質問してみる。
「この本のうさぎさんは水の中に住んでいるそうで、妖精さんにも不思議な文化ってあるのかなぁ、と思いまして」
「不思議な文化、ね」
エイリィは口の中で音を転がした後、少し考えるような素振りを見せたが、すぐに何か思い付いたのか、楽しげな表情になった。
「妖精はお祭りや騒がしいのが大好きでね、何かある度にすぐにお祝いムードになるんだよ、この前なんて、うちの部隊員が新しい家具買ったってだけでパーティーで大騒ぎさ」
「どうでもいいにも程があるな」
「楽しくていいじゃないか」
家具買っただけで、というのはどうかと思うが楽しそうではあると思う。妖精は楽観的で明るい資質の方が多いのだろうか。
「じゃあ、坊ちゃんも何か教えてよ」
ギブアンドテイクさ、なんて笑うのを見て、情報屋の仕事柄、性分なのだろうと思いつつも微妙な顔をしてしまう。
何かと言われても、特に考えつくこともなかった。
「そうですね……小麦粉を袋から出して部屋中に蔓延させた後に、火を投げ入れると爆発します」
「……え?」
呆然とする妖精を間抜けな顔だと思いつつ言葉を続ける。
「粉塵爆発ってやつですね、粉を火のついた狭いところでばら撒くと、火が伝達だか、なんだったか……忘れましたけど、なんか、爆発するんですよ」
「魔法使ったとかではなく?」
「火を出すときに魔法使ったら、遠隔で爆破できますね」
いや、それならもっとこう、爆発する魔法を使えよって話だし、狭いところとか条件があるあたりあまり役に立たないかもしれない。
なにせ、魔法が便利すぎる。
「ガトーはお喋りが好きなのか」
突拍子もなくご主人様に声をかけられた。何やらさらに不機嫌そうだった。
「別に好きというわけでは……嫌いでもないですけど」
煮え切らない様子の彼に、一体どうしたのかと首を傾げていると、エイリィは苦笑した後笑って言った。
「……うん、来てよかった、思わぬ収穫だったよ。おまけでいいこと教えてあげよう」
どうやら僕の話は役に立ったようだ。
「きみのご主人、もといノルドは昔は大層ギャンブラーで…一回やばいのにぶち当たって身ぐるみ剥がされ『その口に火でも放り込んでやろうか』……おっと、ストップがかかっちゃった」
この時の妖精はまさにイタズラをしにきた悪どい目で戯けて笑ってみせた。
「今の話は忘れろ」
とても意外な話が聞けたが、ご主人様にとっては嫌なことだったようなので、この話は無かったことにしようと思う。
「……ところで、カカオ、出した茶菓子全部食ったの?」
「グギャァ」
可愛こぶっても許さないぞ。今日の夕飯は減らしてやる。




