小さなモノ
カカオくんがおかしなものを食してから、早一週間、特に問題もなく元気に過ごしているこの子を見ていると、異世界ってすごいんだなぁと思う。
「カカオくん、君、超人なの? いや超鳥?…まぁいいや」
ご主人様がまた職場の方に出かけている間に、僕は掃除をする。
ご主人様の集めたものはどいつもこいつも、一貫性がなく、この屋敷は手当たり次第に物を詰め込んだおもちゃ箱みたいだった。
腐った何かが出てきても驚きはしない程度にはごちゃごちゃしている。
カカオは何か食べてしまっても、又は飲み込んでも、おかしくない状況だった。そんな中で生き残っているあたり、生命力が強いというか、なんというか。
「ぎゃあ」
僕の肩に乗っかって、ぐあぐあ言ってるカカオに適当に返事をしながらも、箒をバサバサする。
黒いアイツがいないだけマシだ。出てきたら一秒も躊躇せずに潰してしまおう。
そういえば、ご主人様に聞いたのだが、小さなモノとかいうらしいアノ謎のマンドラゴラもどきは、何種類かいて、アレは草の形態らしい。
草の形態、名前通り草の精霊からなる生き物で、森の活性化に役立つ。亜種で風の精霊もいるらしいが、草の精霊ほど力が強くないせいか、風の小さなモノは発見されていないようだ。他に火、水、土がいるそうな。
火は燃えてる小人、水は液体でできた小人、土はゴーレムみたいな小人だった。図鑑で見た。
ご主人様は、なにかを持ち帰るととりあえずその辺に放置して、興味が出たらひっくり返して探し出し近場に置いておき、興味がないと放置したままにする習性がある。
図鑑は僕が引っ張り出してきた。一階と二階の間の階段あたりで見つけた。
階段もなかなか通りづらい、ギリギリ物は退けたけど、足元に気をつけないと転びそうになる。
何かないかなぁ。
今日は二階の死体安置部屋の周辺を探索している。
部屋に入る気はない。僕自身に死体愛好家の趣味はない。
ついでに、ちょっと怖い。恐ろしいとまでは言わないし、嫌悪感もないけれど、近づきたいとも思えない。
たまにご主人様が黒い大きな袋抱えて帰ってくる。アレが多分死体。
僕もああやって運ばれたのかなぁ、なんて思ったり。
廊下に血やら臓器やらと気味が悪いものは無い。時折何か入った小瓶だったり、錆びた医療器具のようなモノが見つかる。
ご主人様にはもう、片付けをしろなんて言えないのだけれど、この医療器具は、あの僕を最初に置いていた実験室のような場所にあるのが適切だと思う。
他、基本はガラクタばかりだ。
危ないガラスとかもあるけれど、手を切ろうが足を切ろうが死ななきゃいいので、素手でガサガサやる。
カカオだって素足で飛び跳ねているのだ。いける。
カカオは肩から降りて、地面をぴょこぴょこしながら探索している。両足で跳ねてみたり、片足づつヨチヨチ歩いてみたり、行動はまるで道路のカラス。
コンクリートできれいに舗装された道、ここらへんではあまり見かけない場所だ。
……今頭に浮かんだ光景はいったいどこのものなのだろうか。
地球という存在はわかるのに、どこにあるのかがさっぱりわからない。というかこの世界の名前はなんというのだろうか。僕はそんなことも知らない。
「ペンネさん達と買ったお土産、まだ残っていたかな」
飽きてきたので、お菓子を食べに自室に戻る。
食い意地のはったカカオもついてきた。
スナック菓子はあるのに、ねりきりやら砂糖菓子が見当たらない世界だ。僕は甘いモノが食べたい。
甘ったるいお菓子をコーラと共に貪りたい。
「炭酸が飲みたい」
「ぎゃう?」
炭酸って確か二酸化炭素がどうのこうのされた飲み物だったような…。
こういう時に限って僕の知識はポンコツだ。
辞書のようにいろいろなことが細かくインプットされている訳では無いのだ。
「とりあえず、ジュースにしよう」
君も飲むかい? カカオくん。
今日のジュースは柑橘系。みかんジュースみたい。爽やかで甘いけど、お店で売ってるのというより手作り感がある農家の直売所で売ってるやつ。
カカオくんはソレをごくごく飲んでいる。
この鳥は何者なのだろうか。なんでも食べるし飲むし、体調を崩したところは見たことがない。
このスナック菓子も不思議だ。包装のされ方や中身を見るに、小さなお店の裏方で作られてる感がある。強いて言うならお祭りの出店で売ってるお菓子みたいな…。
この世界はつくづく僕に知識と合致しない。
親(推定)も、どうしてそんな知識を埋め込んだのか。
他人の考えはよくわからない。
「小さなモノって、恐怖心ないのかなぁ」
時間帯確認をするため窓を見たら、水のような透明の液体でできた何かが、こちらを見ていた。
コレが、水の形態。
カカオは早速という風に襲いに行ったが、ガラスに衝突して頭ぶつけている。
窓を開けてみると、そいつは中に入ってきた。
カカオが食べようとして口を開いたが、ひょこひょこ逃げられている。すばしっこいようだ。
かわいいというより美しいそいつに、僕はチョンと触ってみる。
触った感じはただの水。手はすり抜けるし、液体なだけあって捕らえられない。
小さなモノとはよくわからない生き物である。




