夏
夏場は暑い。
そんな常識は魔法使いのお家では存在しなかった。
魔法で調節しているらしく、とても快適。外に出たくない。
この辺りには季節があるのか、四季が存在して日本にいるような感覚が楽しめる。しかしながら、首都のあたりだと万年夏だし、他の国には万年冬や大雨の国があるそうだ。
ずっと雨が降ってるなんて、不思議だ。そういう国にも作物はしっかり取れるのだろうか?
「ご主人、かき氷が食べたいので氷を作ってください」
暇をしているのかソファーで本を読んでいるご主人様に、氷の魔法をねだる。
かき氷食べたい。シロップは濃いジャムを薄めてそれっぽくする。
ジュースをかけてもいい。
ご主人様は火の魔法は苦手だという。
風魔法が得意らしい。
氷はどうだったか。まぁ、いいか。ともかく僕は食用の氷が欲しい。小さいものなら冷凍庫にあるのだが…。
「氷? ……かき氷?」
「氷をすり下ろして、ジュースかけて食べるんです」
練乳でもいい。あったかな?練乳。
「……それは美味しいのか……?」
訝しげに首を傾げられた。
しかし、やりたいなら好きにさせるがモットーのご主人様は特に嫌がることなく、ブロック状の氷を用意してくれた。
ご主人様に見守られながら台所に立つ。
もらった氷をガリガリ削っていく。おろし金が無かったので、包丁でジャリジャリやる。
コレジャナイ感が半端ない。
失敗したなぁと水とジュースの混ざった氷っぽい何かを啜っていると、こんな感じか?とお茶碗一杯分くらいのふわふわの雪を作ってくれた。
そう、こんな感じの!
ぱあっと笑った僕に、彼はくすくす笑った。
かき氷は美味しかった。
見ていたご主人様も試してみたらしい。横でコレ氷より凍らせた果物とかの方がいいのでは、なんて言っていた。
そういうのも見たことある。美味しかった。
……さて、どこで見たのだったか、いつ食べたのだったか。
「ご主人、カカドターニャの実で作ってみました」
後日果物で試したら、この果物じゃないって顔された。
薬味だった。正直に言おうまずい。
食べきれなくてカカオに渡した。
カカオは躊躇なく完食した。
食欲の化身だった。
しばらく凍らせるブームがきていて、色々と試してみた。
個人的にはリンゴが好き。
「ご主人、プール遊びをするので風呂場に行きますが、ご主人も行きますか?」
従者もどきの僕は、時折ご主人相手にも関わらず遊びに誘ったりする。
ご主人はプール遊びが何なのかは知っていたようで、珍しいことするなぁ、とつぶやいた。
事実である。
僕の肩の上で、カカオくんが楽しそうに軽く羽ばたく。
この子も水浴びがしたいらしい。
そろそろ肩から降りて欲しいのだけど…君重いんだよ…。
「俺は遠慮しておこう…君、水着持ってないだろう」
「……え? じゃあ下着で入っちゃえばいいのでは……?」
「……君には羞恥心がないのか?」
ご主人様は死体を服着せて棺桶に突っ込んでいるのだろうか。
僕ってば、追い剥ぎしてから詰めているのだとばかり思っていたから、女の死体も見慣れているであろうご主人に、マッパ晒したところで恥ずかしくも何ともないのだが…。
というか…。
「ご主人、僕を屋敷に持って帰った時、僕のこと着替えさせたでしょう?」
確かあの時、濡れてた服が乾いていた。
つまりは一回別の服を着せた跡、服を洗濯して乾かして、また着せたのだろう。何故服装を戻したのかまでは知らないけれど…。
その時見てるんだから別に気にしないのに。
「それとこれとは話が違うだろうに」
ご主人様は意外と紳士だった。
そういえば、僕は性別不明でやってきているが実のところ女子である。
特段、気にすることでもないから、坊ちゃんと言われようとお嬢ちゃんと言われようと基本受け入れている。
僕は僕を呼んでくれるご主人がいれば、後の人になんと呼ばれようと気にしない。
流石に侮蔑を込めたような呼び名でなければ、という話で、おい馬鹿だのガキだの言われたら嫌な思いをするけど。
「カカオ……水鉄砲〜」
冷たい湯船に浸かって、知識にあった両手で水を飛ばす水鉄砲と呼ばれる手遊びをしている。
「ぎゃあ」
軽くひょいと避けたカカオはお返しとばかりに水面スレスレで羽ばたいて水を飛ばしてくる。
勢いがすごい。
口に水が入った。げほげほ言いながら、やったなーと、バチャバチャ手で水をすくってかける。カカオも楽しそうにしている。
そうやってしばらく戯れた後、疲れたのであがることにした。
プール(水風呂)で、今日は楽しく遊べたので、少し疲れて、本を読みながらソファーで転がっていたら寝落ちした。
従者にあるまじき行動だが、僕はモドキだからセーフ…セーフだと思いたい。
「カカオ、ガトーは寝たのか?」
「ギュア!」
「…あまり騒ぐな。起きてしまう」
ノルドは片手でカカオをあしらいながら、ソファーで熟睡しているガトーを見る。
ふみゃ、と至って幸せそうな寝顔を晒して、眠ってしまうまでに読んでいたのであろう本を抱えている。
いつものメイド服はよろけているし、いくらズボンとはいえ、太ももまで露出している格好で、そうも見せびらかすような体制をとるのは如何なものか。
ソファーに寝転がるガトーは、毛布も何もかけていないのだ。身体のラインがよくわかる。
まぁ、そう大人っぽい訳でもなし、稚児趣味がなければ、遊び疲れた子供にしか見えないが……。
相変わらず、危機感が死んでいるというか、何というか。
これは性別なぞ関係ない、見目が良ければ、どちらにせよ世の中の需要は多いものだ、俺が売ってしまうようなやつだったらどうするのだと考える。
いや、ノルドが、ガトーを他人に受け渡すなどありはしないのだが。
ガトーはノルドのお気に入りの収集品なのだから。
それが分かっているからこそ、この賢い子供はここに留まっているのかもしれない。それならそうで、ノルドには好都合だった。
「カカオ、ガトーを運ぶが、お前は帰るか? 泊まってくのか?」
賢すぎる大鳥に声をかければ、先ほどのことを考慮してなのか、囁くように小さな声で、きゅぅ、と鳴いた。
羽音を響かせないように、ソファの背もたれからノルドの肩に止まる。
泊まっていくらしい。
ガトーの持っていた本を持ち、ガトー本体も抱える。
小さな子供など、一傭兵であるノルドには軽すぎた。
この前も氷なんか齧っていたし、ガトーの創造主はロクに餌も与えていなかったのかもしれない。
そういう点なら、ノルドの方が面倒を見ている気が…。
いや、何にもしてないな、とノルドは思う。
事実、なりきり従者のガトーは、食事を自分で作って自分で食べている。ノルドの分も作る。
食費出してるぐらいだな、なんともまぁ有能なペットだ。
ノルドはガトーについておもちゃからペットへ認識を改めていた。
「腹が減ったら、ガトーを起こすといい」
ガトーに与えた部屋まで、運んで、布団にきっちり寝かせた後、カカオに声をかける。
カカオはガトーの部屋で過ごす気だった。
出られるように、軽く窓を開けてから、ガトーに部屋を後にする。
物の配置やら何やらは、そんなに変わっていなかった。
案外部屋の中の収集品を気に入っているのだろうか、と不思議に思った。
実際のところ、ガトーは、単に動かすのが面倒なだけだったけれど、それはノルドには関係のない話であった。




