従者『待て』を遂行する4
ゴロゴロだらだらしていたらいつのまにか寝ていたらしい。
すぴょすぴょしている僕を起こしたのはご主人様だった。
体を揺すられ、寝汚い訳でもない僕はスッと目を覚ました。
「ん……ご主人、おはよう、ござ……」
ねむねむ。
目を擦る。スッと目が覚めても、まだ眠いのだ、仕方ない。
「二度寝はやめてくれ……鏡、どこやった?」
こちらには目を向けず、挨拶の途中で眠りかけた僕に声がかけられた。
「リュックの…木箱の…奥です」
うとうとしつつも返事をする。
これが本職の従者なら、即クビにされるだろう。
寝ぼけ眼でぼぅっとしながら、布団から起き上がる。
ご主人様は一切の躊躇もなく僕のリュックを漁っている。
いや、別に構わないのだけれど。
「これか」
引っ張り出された木箱をご主人様が開ける。
開けて早々不思議そうな顔をして、新聞紙たちを放り出す。
「……ジャム瓶」
彼が取り出したのはジャム瓶だった。
それはフェイクだ。
「奥ですって……ジャム瓶の下の底の木板をずらして……」
「二重底か、お、あった」
ご主人様も二重底の知識があったようだ。
変に驚かれなくて良かったとホッとするが、この木箱はご主人様のものだったなと思い出す。
もしかしたらこの使い方をしたことがあるのかもしれない。
「一応、『お使い』は間違えていないと思うのですが……」
喋りながらも、バンダナを巻きなおし、スカーフで口元を隠し、フードをかぶる。
ご主人様は鏡を隅から隅まで点検した後、本物だな、と呟いて、ちょっと行ってくるとまた部屋を後にした。
そんなすぐに真偽の判別がつくのか。
言葉通り、『ちょっと』出かけたご主人様はその後すぐに帰ってきた。
「寝る」
かと思えば、惰眠を貪る僕の隣に横になりそのまま寝た。
宣言から寝るまでわずか一分足らず、よほど疲れていたらしい。
健やかに眠るご主人様は整った顔面を隠しもせず、キラキラと輝いてエフェクトがばら撒かれている錯覚を覚える。
これはもしかしたら老若男女問わずにメロメロにできるのかもしれない。
次の日、僕は絶叫で目が覚めた。
「棺屋ーー?! 何と寝てるの!」
誰の声だ。聞き覚えがない。子供の声、だろうか。
「人間? これ、なに?」
先ほどの絶叫と似たような声がすぐ側で聞こえる。
肩の辺りを軽く叩かれている。
騒がしいなと思いつつも、布団に顔を押し付けたまま、僕は微動だにしない。
「何事だ」
人が増えた。男の声がした。何人かの気配がする。
これが屋敷の中なら大事だが、ご主人様が追い出していないということは問題ないのだろう。放っておこう。
真横で声が聞こえる。
「あー、うるさい…。双子にまとめ役、何の用だ」
ご主人様が対応しているようだ。
「儀式の時間になるよ」
「それよりその子はなに〜? 人形…?」
同じ声がやかましく騒ぎ立てる。
やたらおしゃべりなのかと思ったが、どうやら双子なのだと気づく。
「あっそ、俺、パス」
面倒だと言わんばかりに僕を抱えて寝る態勢を整え始めるご主人様に男が喋る。
「……給料無しにしてやろうか」
その言葉にご主人様は反応する。やる気はないがそれでは困るから動かなくては、ということのなのか、仕方なしに起き上がる。
僕は、どうしたら良いのだろうか。
一緒に起きれば良いのか、はたまたこのまま動けないフリをすれば良いのか。
「ッチ…。わかった、行けばいいんだろう。……ガトー」
ご主人様が僕をポンポンっと叩く。
僕は布団からちらりと顔を出して彼を見る。
彼は僕の目を見てふっと微笑んだ後、出かけるからいい子にしていろと囁いてさっさと起き上がる。
ご主人様はしばらくこの場に滞在するのかもしれない。
「……ねぇ、それで結局、あの人ぎょ……『俺のお気に入り』……あっ、そう」
「ねぇ、アレ、死体? ねぇ、お気に入りって、つまりそういう」
「深く聞いたらダメだ。ほら、いくぞ」
男と双子に連れられご主人様は出勤した。
僕は人形だと思われていたらしい。
まぁご主人様にとって、僕は人形や死体と変わらぬ存在であろうから、気にすることもないが。
さてさて、また一人になってしまった。
掃除でもしようか。
料理はできない、何せ台所がないから。
土産の整理をするのもいいかもしれない。
リュックの中身をひっくり返し、バックからも物を出し、金品の整理と土産物の整頓を行う。
たまに味見と称してお菓子をつまむのは、小休憩だと思って欲しい。
そういえば、あのお屋敷でネズミを食べさせて放置した肉食系の鳥類は元気にしているだろうか。
元気ならばまた帰ったら夕食の余り物をあげようと思う。
味の濃いものは体に悪いかもしれないが、それを言ったら、あのネズミたちはなかなかに体に悪いエサだっただろうから、随分とマシだと思う。
「何か餌付けしたい………ここの外は水中なのに魚がいなかったな……」
魚がいるなら小海老スナック撒いたのに。
いや、そもそも外に出ることができないのだった。失念していた。
魚といえば、どこかに宙を浮く魚がいると聞いた。空飛ぶくらげは見たけど、魚は見ていない。
いつか見に行くことができたらいいなと思う。




