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とある実験体と若いあんちゃんの話

 


 目を開く、目覚めはバッチリのようで、身体的な不快感はない。風邪は引かなかったらしい。


 目の前には白い天井。知らない天井だ、なんてテンプレだろうか。


 起き上がって辺りを見渡す。ふむ、なんの変哲もない実験室だ。


 実験室、歯医者さんでよく見かける可動式ライトが真横にあって、透明の液体や白い粉末の入った瓶が床に無造作に転がっている。


 服装はあの推定・親から寄越された服のまま、実験台の如き鉄板のようなベッドで直立不動に寝かされていた。



 周囲に血や無気味な肉片は見当たらないことから、恐怖感は特にないが、奇妙で不気味な悪寒がする。




 幸い拘束もされていないのでさっさと出て行こうと思う…。




 大変だ。





 出口がない。





 ここは普通、ロックがあったとしても扉一つくらいはあるものだろう。



「え、何。閉じ込められた?」




 僕、水槽から出て一年も生き延びてないんだよ? 生まれたてだよ? こんなところで餓死させられる運命だったの?


 いろいろこの状況に文句も不快感もあるが、僕が今まで感じてきたことが脳が起こした錯覚や幻覚でない限り、倒れた後、連れ去られた可能性が高い。



 よく考えたらびしょ濡れですらなかった。




 なのに服はそのまま。





 僕は何も気づかなかったことにして思考を別方向に持っていくことにした。




 連れ去られた、ということは、連れ去られる理由があるってことで、僕に利用価値を見出したから連れ去られたと考えていい。



 見ため年齢的に、アダルトなことはない……と思いたいが、幼児ではなくもう少し上の年齢に入る見た目なのでそういう可能性もある。具体的な見た目年齢は十を超えて少しといったところだ。他の要因としては『保護』や『加虐趣味のためのおもちゃ』なんて考え方もできるが、保護なら待遇が良いであろうし加虐趣味ならもう少し恐怖を煽る演出があるだろう。




 いや、最初は優しく接しといて、それから……みたいな可能性もあるのか。



 考えながらも部屋の探索をしてみる。




 特に変わったものはなかった。



 壁も一見ただの壁だ。



 もしかしたら、かの有名な妖、ぬりかべが邪魔をしているのだろうか。




「開けゴマとか、オープンセサミとか、合言葉を言うにしても、どこで言えばいいのか方向がわからないなぁ」





 そもそも合言葉がわからない。これは詰んでいる。







 しばらく周囲をウロウロして、何もできずに元通りに鉄板ベッドに座り込む。


 ふかふかでもなければ、居心地が良いわけでもないベッドで、状況把握も飽きてきた僕は、暇だなぁと寝転ぶ。




 お腹も空いてきたし、サンドイッチ食べようかな。でも手持ちのバッグが見当たらない。





「はっ!……まさか強盗」







「残念、死体漁りなんだな」






 独り言に返答が返ってきた。後ろからだ。



 驚いて反射的に起き上がり振り向けば、誰か枕もとに立っている。



 近距離で見上げるとイケてるメンズの気配を察知できた。



 男性だ。若いあんちゃん。



 ……あんちゃんっていうのは、お兄さんって意味だ。あれ、これ誰に説明してんだろう。




 カッコいい見た目をしていて、金髪碧眼の細身の男性。服装は黒いYシャツに、茶色のズボン。その上から白衣を羽織っている。装飾品ネックレス一つ。



 それより彼は今なんと言ったか。




「……死体漁り」





「そうそう。俺、確かに死んでると思ったんだけどなぁ」





 そう言って無遠慮に首筋に手を当ててくる。僕と君、今日初めて会ったはずなんだけど。そんなスキンシップとれるほど仲のいい相手ではないはずだ。



 彼の手はあったかい。ふむ……別に悪い気分にはならなかったから気にしなくていいかな。





「生きてるんだけどなぁ」




 ポツリと呟く僕に彼も首を傾げる。




「だってこんなに冷たいんだ。生きてるなんてわからないだろう?」




「冷たいだけで死んでるなんて思わないでよ。心臓は動いているでしょう?」




 心臓?と首を傾げる彼に疑問を抱く、ここでは心臓拍動停止や呼吸停止の確認は行ってないんだろうか。



「だいたい、魔力の流れもないのに生きているなんてアンデット系の魔物でも無理だよ」



「魔力」




 急にファンタジーのようなことを言い出す彼に、僕はさらに首を傾げる。


 それを見て彼も()がおかしいことに気が付いたらしい。





「魔力がわからないのか。……まぁ、そういう種族もいたって聞いたことあるし、一応動いてるし、生き物なのか」




 少しいい淀みながらも納得したように肯く彼を、僕はぼぉっとしながら見つめた。

 相手が何を考えているのかなんてまったく予想ができないから、状況と空気に流され、僕は大人しく彼を眺める。



 見目のいい奴だ。



「ふぅん……」




 彼は興味津々に僕を見つつそろりと手を動かす。

 首筋を触っていた手がゆっくりと下に降りて心臓のある部分にぐっと押し付ける。



 僕の心臓、動いてるよね? ……あれ、でもさっきは心臓なにそれ美味しいのとばかりにおうむ返しをしていたような……。

 どうして場所が分かったのだろう。



 なにをしているのかとされるがままにされていると、急に手を離して、今度は僕の座る実験台の側面にしゃがみ込んで足首を触る。



 そういえば土足だったなと思いつつ自分の足を見る。



 みごとな白い生足と長いソックスガーターにヒール付きブーツ。まるで陶器かドールかのような人間味のないそれに一瞬びくりと身体が震える。



 この身体は、まるで……。





「うんうん、体温ないね、つめたい。靴下越しでもわかるよ」




 耳に届いたその言葉がさらに恐怖を煽ってくる。




「心臓っていうのは、胸の真ん中のこれでしょ?」




 もう一度、と足に置いていた手がするする伸びて僕の心臓部にトンとぶつかる。



 うなずく暇もなく、震え始めた身体、それでも思考は止まらなかった。



「アンタのは動いて……いる、みたいだけど、これ、死体のは確かに動いていなかった気がするよ。やっぱり、生き物なんだ」




 がっかりしたような、それなのに楽しそうな声がする。


 いいねいいね、とつぶやきながらにこりと笑った三日月のような口元が見えた。


 声は出なかった。




「俺、死体以外、興味なかったんだけど……アンタみたいなのなら、アリだよね」




 なにがだこの野郎。




 心の中ではしっかりと言えた。



今日は初日なので三話投稿。

今週はこれら含め全六話投稿の予定。

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