間話『会議』
従者、ガトーの言うところのご主人、ノルドは不本意ながら会議に出席していた。
「おっせぇんだよ、棺屋」
第三会議室にはメンバーは既に揃っており、残っている自席に一切の躊躇もなくノルドは座る。遅れたことに対する罪悪感など皆無であった。
「来ただけ、マシ〜」
「そうだよ〜、バックれるよか全然いいよ」
悪態をついた男の横にいる頭身の小さい双子が笑う。
彼ら双子は小人だ。
そのさらに横にはテーブルに椅子が置いてある。ドールハウス用とも見えるその椅子には先ほど会ったばかりである妖精が鎮座していた。
何か言いたげな顔をする妖精に、ノルドは目も向けない。
「では、揃ったことですし、はじめましょうか」
ごちゃりとした七人の内、場を取り仕切るのは、イベントでも司会を務めていた女だ。
この場にはイベントにいたものばかりだ。
第一から第四部隊長、イベントは欠席していたまとめ役、それと王女のウェンディーネ、そして、ノルド。
状況から考えて、ただの雇われ者は呼ばれないような会議ではあるが、ノルドは毎回このメンツに会議に呼ばれていた。
出席率は、双子の発言通りではあるが…。
何故彼が呼ばれるのか、理由はいくつかあるのだが、大きなものとして、能力、情報量が挙げられる。
上級兵士であるノルドは魔法使いだ。風魔法と土魔法の両方を得意とし、どちらも一流魔法使いと同一の能力。片方だけの一流なら数名いるが、二つ使いは珍しい。
情報量、はていったいなんのことだろうと思うものもいるだろう。一般的には死体集めをする無駄に能力のある魔法使いということで名が通るノルドだが、雇われ者ということで情報重視の面がある。世界各地に拠点とする屋敷を持ち、大きな戦争があればどこにでも現れて、いつのまにか戦争後の死体の山が消える。
死体が多くあるところは大体争いがある場だ。戦争は情報戦になることも多い。死体を探すにはまず戦争状況を把握するのも大切だ。
こうして必然的に彼は各国の情勢に詳しくなった。
現在、水の国に雇われる彼は、情報提供者としてこの場に呼ばれているのだ。
「最近は冒険者組合が力をつけ、もはや一つの国を作りそうな勢いだ」
「その話の前に、『厄災』の後片付けや神器の捜索について……」
「草の国も王女直々にいらしていたが、『厄災』に乗じて戦支度整え始めるつもりかも……」
内容は比較的重めでなおかつ世界の一大事に繋がる内容ばかりである、しかしながら、ノルドは興味がない。国としては平穏が一番であり、戦い・争いなど無くていいのだろうが、ノルド的にはあったら良いなと考える思考がある、よってどう戦争を回避するかの会議には興味が湧かないのだ。
時折意見を求められて、率直に状況だけ話し、妖精に目線を向けられたまま会議が進む。
参加を渋ったことで、態度の悪い男に数度嫌味を言われたが、ノルドは持ち前の無表情でやり過ごした。
「では、被害を受けた者たちへの対応はそういうことで…。では、神器の所在については……」
王女は顔を下に向けた。周囲の空気もわずかに淀む。
「今回の事件では、なかったことが功を奏したが、行方不明のままとなると困る。昨年の研究員たちによる検査の際は本物であったことから盗まれたのはこの一年の間となりますが……」
司会の女、もとい第二部隊長メイ・ルーナは細々と説明を開始する。
「皆さんご存知の通り、国最高峰の魔法罠が仕掛けられており、盗み出すのならよほどの能力者でないと……。同じ魔法使いとして、その手口には感服致しますが……」
メイは、回復の魔法を得意とする回復士だ。治癒や支援を担当する第二部隊の隊長、実力は高い。
「魔法はちょっとしか使えないけど、あのほこらがどれだけトラップ塗れかなんて魔法使えないやつでもわかるよ」
口を挟むのはエイリィ。疑いの目をノルドに向けているが、ノルドであっても盗りにいけないであろうと口には出していない。
「まぁ、普通の生き物、それこそ魔力があるこの世の全てのものに反応するから、解除せずに盗るなんて無理難題だな」
「『厄災』では所在不明で助かったが、国の象徴の一つで、価値も高い。所在不明のままなど許されない」
優男が、ペンを回しながらそう言った。
彼は、部隊全てをまとめるまとめ役、トーマ。
実力主義ではあるが貴族が主体のこの国で、貴族を追い越して成り上がったとんでもない男だ。
『厄災』
ノルドがガトーの元に帰れなくなった忌まわしい事件のことだ。
水の国に封じられていた魔神が解放され、封じるための神器を壊そうとした事件。魔神はなんとか退治したが、神器が壊されてしまえば、別の魔神の封印まで解けてしまうところだったのだ。
この国に限らず、あちこちに戦火の種ともいえる魔神は封印されている。
この国の魔神は皆あの神器で封じられているのだいっせいに解放されてしまえば、辺り一帯の生き物が消滅し、他国も大きな損害を受ける。下手をすれば世界全ての生き物が消滅するかもしれない。
そんな事態は避けられたのだが、その神器がどこかになくなってしまった。
これは大問題、である…が、ノルドからして見れば、とんでもなくどうでもよかった。
と、いうか、ノルドはその無くなった神器のありかを知っていた。
知っているからこそこの慌てよう全てがバカらしく見えてしまうのだ。
「それに関しては問題いらない」
紅茶片手に目も向けずに答える。
「どこが問題ないって? 話聞いてたか? 死体と一緒にいすぎて頭まで腐ったのか?」
悪態をつく男、第一部隊長シィーフィー・マイアンにノルドは面倒臭そうにため息をつく。
彼がいちいち突っかかってくるので、もはや相手をするのが面倒だと感じるのだ。
まぁ、それもこれも、サボるノルドが悪いからで、普段は誠実で真面目な男なのだが。
口にしないまでも双子と妖精はあからさまにノルドに呆れた目線を送ってくる。
あぁ、これだから、いちいち説明が必要な、生き物とかいう存在は苦手なんだ、とノルドは思う。
側から見ればただの面倒くさがりな男だ。実際のところ、考えてることをいちいち口に出すのが面倒だとか、感情や心情を共有させないと情報が伝わらないのが面倒だとか思っている筋金入りの堕落家だ。
実はこの男、あれこれ聞いてこないガトーは気に入ってこそいるものの、喋る機能は面倒だなとまで思っていた。
「一時的に避難させただけだこの場に……しまった。自室に置いてきた。取ってくる」
「はぁあ?」
会議室に驚きと戸惑いの声が上がったのは言うまでもない。




