従者『待て』を遂行する3
ご主人様はせかせかと普段はすることのないような歩き方で僕の手を引き、見知っているのであろう廊下を行く。
僕は一切なにも言わずにそれに着いていく。
運動不足で着いて行けなかったらどうしようかと思ったが、ここのところの『お使い』で様々なところを長時間歩くことがあったおかげで問題なかった。
その間、誰にもなににも会わずにご主人様の目的地に到着した。
水で出来たかの如く青い、青銅の扉だ。
人魚のような装飾が施されている。
廊下を歩いている際にも同じような扉を見かけた、標識とかは付けないのかなと不思議に思う。
ご主人様が取手の部分であろう場所に手をかける。
一瞬白い光が目を塞ぎ、次に見たときには扉はガチャリと音を鳴らした。
ご主人様は特になにも反応せずに、扉を開いて中に入る。
僕も続いて中に入った。
中は屋敷とそう変わらないゴミ屋敷……もとい収集部屋だった。
広い場所ではあるようだが、右にも左にも変な形の銅像やら、紙の束、ペン。さらにインクがこぼれて乾いたまま瓶と共に転がっている。
大きなテーブルと椅子がいくつか並んでいたようだが、どちらにも物がごちゃごちゃと置かれていて正直使えない。
「中の扉は普通のものだから、君にでも開けられる」
ほら、と手近にあった扉をご主人様が開いた。
中は寝室のようだが、ダブルベッドの上にまで物が乗っている。
「…ご主人、掃除……掃除します」
「食べ物はないよ? だから腐らないから、平気だよ?」
「知ってますか? ご主人、紙も金属も放置すればある程度劣化するんです」
へぇ、とまるで興味を示さない彼に僕は告げる。
「何よりホコリっぱくて僕が嫌です。ご主人も病気になりたくないでしょう?」
「うん、まぁ好きにするといい。俺は会議があるらしいから、行ってくる。ああ、そうだ。この部屋の入り口は俺しか鍵の開け閉めができない仕組みだ。いざとなったら破壊して出ろ」
魔力というものは便利だ。なにせ鍵を持ち歩かなくていい。
僕にはないから一度閉じ込められたら出られないな。
……よく考えれば屋敷とそう変わらない、と気がついたのはご主人様が出て行って、掃除を始めた1時間ほど後のことだった。
「やっぱり、お客が来たらノックなのかな?ピンポンないし」
独り言を言いながらも手を動かす。
掃除といっても、物を退けて、ほこりを掃くだけだ。
掃除機が欲しい今日この頃。
魔法で作れないのかなぁ。
そういえば、ピンポンって呼ぶけど正式名称はインターホンなんだよね。
ご主人様の部屋は全部で三分割される。
扉から入ってまず先にあるのが、ダイニングルーム。その隣に寝室、逆隣にはシャワールームのような物がある。
水は魔力で発生させるものという認識が一般的のようで、普段は僕は水筒を持ち歩くが、世の中の人には必要がない。
それはこういうところにも反映される。
屋敷の水場やここの水場はあらかじめご主人様が魔力を与えているらしく、僕でも問題なく使うことができる。
本当に僕だけでは生きていけそうにない世界だ。
「お茶を入れる準備場所もない上に、ポットもティーカップもない。……え?」
仕事で使う寝泊りしかしない部屋だとしても、来客への対応は大切だと思うのだが…、ご主人様にとってはどうでもいいことらしい。
邪魔なくらい溢れている品々をテーブルや椅子、通り道だけ残して退けることに成功した。
その品々の中から食器やその代わりになりそうなものを探す。
寝室の四隅にティーカップ……の代わりになりそうな器を発見した。ぱっと見は陶器でできている鉢植えのようだが、片手で持てるサイズで種類も均一五個セット。洗って使えば問題あるまい。
お皿の代わりはダイニングルームのいすのうえにあった。見た目は大きな植木鉢の受け皿だ。これだとスープや液体が入れられないなと思ったが、それならコップに入れればいい話だなと思った。
なんだか食器セットが初めての土いじりセットに見えてくる。せめて箸、いやフォークとスプーンを探そうと思ったが、代わりになるものなんてせいぜいペンか爪楊枝代わりのナイフくらいだ。
ご主人様はここで暮らしているとき一体どこでなにを食べていたのか。
そうだ………外に行けばお食事処なんていっぱいあるよな、部屋でなんて食べないよな。そもそもご主人様にとってここは寝るか収集品を置く以外用がない場所だよな。
決して食べていないとかそういうことはないのだと僕は思いたい。
ひと段落して、中に入れるものはお土産の中にあった菓子や水筒の残りにしよう、水筒のままでもいいが、コップに入れるのもいいよねなんて色々考えながら、遠慮なくベッドでゴロゴロする。
ご主人様の部屋だとか、オメー従者じゃないのか?なんていろいろ言われるかもしれないが、そこは『従者もどき』なのでで通す。
ぼんやりしていると、ふと忘れていたことを思い出した。
イベントで見知った顔の人を見かけたのだった。
魔女のような灰色の髪の人。
どこかで見た気がして頭に残っていたのだが、未だに誰であったか皆目見当も……ついた。そうだ、僕の知り合いなど、ご主人様か冒険者だか傭兵だかの二人と妖精さんくらいだ。他に顔を覚えるほどの人はせいぜい宿屋や店の人くらい。
だいぶ人数は狭められる。
もしかしたら彼女はどこかの店で世間勉強をしていたのかもしれない。
最近チマチマと投稿忘れをしています…。すみません。
これからは少しゆっくりめの投稿になります…。




