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従者のお使い『もってこい』5

 

 ご主人様を待って早数日。

 やってきたエイリィに言われて今日は、何やらイベントに行くことになった。


 このお祭り騒ぎはしばらく続くらしい。



「そういえば、このお祭り騒ぎの原因は何なのでしょう」



 感謝祭、復活祭、豊作祈願、色々な祭りがあるが、これは何のための祭りなのか。


 賑やかなのはわかるが、イースターやクリスマスのような特徴といった特徴がなく、ただの夏祭りや秋祭りのような、店が並ぶだけにも見える。



「あー、坊ちゃんは最近来た子か。こればっかりは緘口令が出てるから、いえないかな」



「はぁ…? そうですか。とにかく喜ぶことがあったとか、そういうことですか」



「そうそう、喜んでいるっていうか、祝っているっていうか。まぁ、毎年ある祭りとかではないかな」



 聞いても面白いことはなさそうなので、聞き流しておわらせる。


 イベント会場は、首都で一番大きい公園だそうで、緑の芝生が生い茂る広場のような場所だった。


 出店が隅にたくさんあって、途中、フリーマーケットのような場所もあり楽しむことができた。


 こういうのは見ているだけでも楽しいものだ。


 ただ、人が多い。人が多すぎて僕的には早く宿に戻りたい。


 だるいなーと思いつつ隣を見ると、いつの間にやらエイリィが居なくなっていた。


 迷子だろうか。小さいから探すのは大変そうだ、そう考えた矢先に、その妖精はひょこり目の前に出てきた。


 具体的には上から。


「ごめんごめん。坊ちゃんの上にいたんだ」


 飛べるのはこういう時便利だなぁ。


 ここら辺でいいかな、と妖精は言う。


 ステージと思われる場所が見やすい前の方だ。


 流石に目の前ではないが、ステージ上の人の顔色がわかるくらいなので、比較的近い方だ。いつのまにやらこんな場所まで来ていたのか。



「……そろそろ私、行かなくちゃ。もうすぐ始まるからここで見ててよ」



 何が始まるのか全くわからないままで、帰るにもここは人混みの中心部に近い。一人で帰るには骨が折れるだろう。


 ここは大人しく見ておこう。


 周囲の者たちがざわざわと何かを喋り始める。何を言っているのかまでは聞き取れないが、そろそろ始まるのだとわかった。

 列になっているわけでもなく、背の順でもないので大柄な獣人の真後ろに羽根のない小さな者、小人なんかが見えなくてぴょこぴょこ跳んでいる。


 あ、それに気がついた横のエルフっぽいお兄さんが抱えてあげている。


 なんだかんだ言って平和な世界だ。


 僕の前には、身長百センチないくらいの者。緑の肌を持つ、ドワーフのような生き物たちが集団でいるので、僕なら問題なく見ることができる。


 立ち見か、足がつったらどうしよう。




「さあさあ、それでははじめますよ〜。あ、こらそこの子〜前の人押さないの。ん゛ん゛っ…えーでは」


 前で綺麗な巨乳の美女が喋り始めた。体のラインがよくわかるぴっちりした服装だ。装飾品や金の飾りがじゃらじゃらとついた杖、頭を覆うような黒い被り帽。

 僕は、エロい、というか色っぽいシスターに見える。

 優しそうな雰囲気で、おっとりとした口調の細い声が会場に響く。すぐに辺り一帯が静まる。ここの国民はお行儀が良いようだ。


 それにしても、もっているのはマイクだろうか。電線も何もないが、ワイファイでもとんでいるのか。…いや、魔道具とやらだろう。



「王女様のお言葉を聞くことのできる、集会。および、首都の住民たちはご存知のことと思いますが、とある事件の『終幕式』をとり行わせていただきます。司会は(わたくし)、水の国精霊守護部隊、第二部隊隊長、メイ・ルーナがやらせていただきます」


 名字が、ある、だと……?


 どうぞよろしくお願い申し上げます、と丁寧に喋る彼女を驚いて見つつも、ステージの真横に陣取った音楽団の奏でる盛大な音楽とともにステージに上がる人に目をながしていく。これだけ大きいイベントなんだ。名字持ちの偉い人がいても不思議ではない。


 わぁぁ、と歓声が上がる。耳がいたい。


 学校の運動会の始業式といった雰囲気だ。



「まずはじめに、我が精霊守護部隊の各部隊長。第一部隊隊長、シィーフィー・マイアン!」


 一層歓声が強まる中、腰に剣をさしたおっさんが出てくる。名前は好青年風なのに、おっさんだった。青い髪に青い目、元の容姿は整っていたのだろう。おっさんといってもダンディーなおっさんだった。


 顔がよければ、年齢などどうでもいいというのか、イケメン(その顔)は。


「次に、第三部隊隊長サガ・トング。そして副部隊長ウガ・トング!」



 サガとウガって、ニンジャみたい。いやその前に名字がトングだった。調理器具だ。僕の名前(チョコレート)の方がマシな気がする。

 一卵性双生児なのか、そっくりそのままな顔をした小人が出てくる。

 小人といっても、あの妖精ほど小さいわけでも羽が生えているわけでもではないが、あれでは人間換算で二桁の年齢にすらなっていないように見える。



 色々な種族がいるようだ。



「次に、第四部隊隊長、エイリィ・ミルヤーナ」


 あ、エイリィが出てきた。

 驚いた?とばかりににやける妖精には悪いが、なんとなく予想はついていた。

 軽く手を振るとにこりと微笑み返される。


 偉い人だったんだな、エイリィ。


「次は客人の紹介です」



 おい、王女様は出ないのかよ。


 思わず心の中でツッコミ入れてしまったが、司会は一切の遠慮なく火の国だの草の国だのから来た人々を紹介している。長くてまるでこちらが興味のないことを延々と話し続ける校長のようだと感じた。そんな人物、会った記憶もないのに。



「草の国、王女ベルミア」



 別の国の王女様までいるのかと、何気なくステージに視線を戻す。


 真っ先に目に入ったのは灰色の髪。


 既視感。


 とんがり帽子やローブ。まるで魔法使いのようだ。

 杖を携え、怪しく笑う。青い目は一瞬緑に見えてしまった。

 緑の宝石はあまり好きではない。


 緑自体は嫌いではないのに何故だろうか。いや、その前に彼女の目の色は青だった。何故緑に見えたのか。

 不思議に思いながら服装を見ていく。

 王女にふさわしいロングドレス。灰色の髪に似合う漆黒で染まったそれは黒にも見えたが光の加減で紫にも見えた。肌に目立つタトゥーが入っている。あれはなんの紋様か。



 にこりと笑って横にはけた彼女から目が離せない。



 どこかで、見た気がするのだが、はて…?



 首を傾げている僕のことを司会は待ってくれなかった。



「今回は異名持ちの上級兵士も雇っております、警備は硬いですよ〜。風網の弓使い、カカト。獄炎の支配者と名高い魔法使いミギ。白光戦士ヒタイ。」


 だめだ、名前が変に聞こえる。踵、右、額。さらに異名が厨二くさいというかありきたりというか。すごそうに全く聞こえない。


 ステージ上に並ぶ人を次々と説明していく司会に僕はもう戸惑いが隠せない。


 周りの人も、おぉとか、あの有名なとかいっているが、世間知らずゆえかまったく知らない。誰それ。


 なんだこの異様な空間。まるで僕だけ何がすごいのかわからない田舎者みたいじゃないか。



 いや、そうだった。田舎者だったよ、僕。



 自問自答が開始されかけ、戸惑いも最高潮に達したその時、司会は言った。



 その名前を。



「棺屋、ノルド・カフェ『あ゛?』…ノルドです」



 まったくもって前を見ていなかった僕は、その途中で司会の言葉を遮った声に聞き覚えがあった。


 知っていたし、会いたいと思っていたからこそ、その機嫌の悪そうな声でもすぐにわかった。



 前を即座に振り向けば、不機嫌そうな顔で、面倒くさくてやる気がないと態度で示している男。




 金髪碧眼の、僕の主がそこにいた。




 ………僕初めて彼の名前知った。


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