研究所の先
洞窟であろう場所に放り出された。
どうしたら良いものかと頭の中が真っ白になる。
僕は誰に押されてこの場に放り出されたのか。
予想としては手紙のやつである。
しばらくしたら落ち着いたがふつふつとこんなことをしてくれた根源たる(推定)僕の親に怒りが湧き上がる。
可愛い子になんたる仕打ち。推定親、かわいいとか言っといて何をしてくれてるんだ。
見知らぬ場所に一人で放り出すとは。
そもそもこんな服着せようとしてくる時点でどうかしているのだろう、もっと早く気がつけば、扉から出るなんて選択肢なかったのに。
いや、出なければ出ないで、餓死か。サンドイッチも、一個扉開けないと手に入らなかったからなぁ。
とにかく何かないかと辺りの探索を開始する。
暗さに目がなれてくれば、岩場のゴツゴツとした硬さのある地面が、ヒールの邪魔をして歩きづらいことがわかった。
誰だよこんな都会を歩くに最適で自然を歩くには不適な格好をさせてくるのは。
……親(仮)か。
後ろを振り返ればやはり扉は消えていて、予想はできていたもののため息が出た。
戻ることができないとなると、進むしかない。
扉は消えた先に何かないかと手を伸ばす。冷たくて硬い。ゴツゴツとした質感。岩肌がむき出しだ。岩や土で手が汚れた。どうやらこれは壁らしい。
行き止まりだったのか。
壁に手をつき手探りで道を探す。出口、あるよね、ないと困るのだけど。
いくら目が慣れたとはいえ、下手をすれば転びそうだ。
歩いている間に、現状の確認をする。
僕は推定、人体実験された身元不明の子供か。そもそも人間ではなく、人型として作られた何か。親のような存在が、身体を与えて、意識を与えて、最終的に放置してきた。
多分、生まれてまだ1日も経っていないような存在なのに、身体はすでに成長済み。
見方によればまだ子供にも見える体格だが。
この身体になるまでの記憶はない。気がついた時にはこの身体で。いつ覚えたのかもわからない知識はある。
例えば赤い花と聞いて、椿か、薔薇か、はたまたカーネーションかと考えることができる。椿も薔薇も見た覚えはないのに、見た目を知っている。
さてさて、僕は何者なのだろうか。
不安はない。別に自分が何者だろうとここに存在しているという事実があれば他のことはあんまり気にならない。
SAN値直葬は免れたようだ。
SAN値が何かを知っているのも、知識の存在の証明になっている。
僕自身としては自分のことを不思議な存在だと思う。
ただそれだけだ。
この洞窟が入り組んでいなかったのか、たまたま運が良かったのか。
体感時間2時間ほどしたところでひゅおっと風の音がした。
風、外に繋がる何かがあるのか。
光は見えないけどおそらくこの先に外がある。
すたすた歩く。
寒さに襲われるが、恐怖心はあまりなかった。
金も住む場所もないというのに僕は危機感がないのかもしれない。
うるさい風の音に混じって不意にざあざあと何か音がした。なんの音だろうと首を傾げる。
暗くて何も見えない、いや、うっすらと外が見えた。
鬱蒼と茂った夜の草原。
なんだ、夜のサバンナか。
もしここがサバンナだとして、ライオンに襲われる可能性は如何程だろうか。
空を見あげれば、ネオンライトだらけの都会では見えないような星が上空に散らばっていて、明るかった。
なんだかもっと寒くなったなと感じてやっとそこで僕が雨の中に突っ立っていることに気がついた。
お天気雨なのだろうか、星が、空がこんなに綺麗なのに雨が降っている。
濡れることもなぜか気にならずただもう少し高いところでこの光景が見たかったと心の奥底で切望した。
僕はこんなにロマンチストだったか。
そもそもサバンナのような場所って、どしゃ降りがあるのか、お天気雨とかあるのかと首を傾げる。僕にだってわからないことはあるみたいだ。
無心で空を見上げながら、ぼおっと歩いて林の近くにたどり着いた。その間の記憶が朧げだ。余程無心でいたようだ。何かを考える心の余裕がなかったのかもしれない。
林が目に入らなかったらしばらく歩き続けていたからだろう。体力がないからフラフラなのに、足が止まらなかったのだ。
不思議で仕方がないが、考えても無駄なことは諦めようと思う。
後ろを振り返れば草原が広がっていて、洞窟は見えなかった。足元は雨でぐちゃっとしている。
雨が地面や草木に落ちて鳴っている音しか聞こえない。
頭がふわふわしてなんだか熱に浮かされているかのようだ。
もしかしてこれは夢なのではないか。
起きたらきっと何もかも思い出して、現代的なお部屋で。
朝食は白米と味噌汁がいいです。
目が覚めても夢が続いてるなんてそんなバナナ〜とふざけている間にも頭痛がする。
そこまで考えたところで、僕は思った。
しまった。これはフラグだった。
そこでふらりと身体から力が抜けたのと、パソコンの電源が落ちたかの如くパチリと意識が途切れたのはほぼ同時だった。