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従者のお使い『もってこい』1

 

 その日一日は三人で商店街をうろついて、やることがなくなったから、次の日一番に出発することになった。



 宿屋で買ったものを並べて整頓しつつリュックに詰める。

 まだまだ余裕で入るようだ。このリュックは底無しなのかもしれない。


 その日も晩ご飯は抜いた。

 昼間に結局買い食いしまくったペンネを見ていたから当然の結果だった。




 朝早く、一緒に行こうと誘ってきた二人について行き、首都行きの馬車に乗った。


 ご主人様の言う通り途中で乗り継ぎが必要らしい。


 乗り継ぎと言うよりも、距離があるから中継地点を挟んでいるともいうのだが。



 首都まで片道四日の旅。


 一週間以内に鏡を持ち出したので、あとはもう制限時間はない。

 のんびりゆったり合流場所を目指そうと思う。



「三日目に中継地点到着だって、休憩挟まずに、馬変えてすぐ行くらしいから。ずっと馬車の中だね」


 距離はあるが、何故四日間で中継をするのかと考えていたところで、ペンネから馬変えという話を聞く。



 馬を休ませず歩かせると途中でダメになってしまうそうだ。


 つまり馬にとってはギリギリまで働かせるブラック企業なのか。



 馬、かわいそう…。



 馬車の中で、相変わらず二人に絡まれながら暇つぶしをする。

 この前の馬車の旅でも感じたが、異世界ものでよくある馬車旅中の鍋料理なんてものはこの乗合馬車ではやらないらしい。

 個人個人で携帯食料を持ってきて、食べるだけ。

 馬やその他の準備により道中で止まることもあるが、あまり長居はしない。

 何故その場での調理がないのかというと、匂いに釣られた魔物や動物が寄ってくる可能性があるからだ。

 力に自信のある冒険者たちの旅路などでは別段問題もないのだが、一般市民の乗合馬車など、非戦闘にも程がある。

 僕は昨日買ったお菓子や携帯食料として販売されていたものを用意した。


 とりあえず携帯食で最も味がマシだと教えられた漬物たち。

 しょっぱいけど、この味なら白米があれば問題無い。コメがないから漬物をパンに挟んで食べた。微妙な味だった。


 別の日には、お菓子だけで過ごしてみたり、乾燥した硬い肉をかじったりして過ごした。肉は不味かった。


「これ、なんの肉なんでしょうか」


 硬くて歯が折れそうなので仕方なしにしゃぶっていると、ペンネが横で何か齧りながら微妙な顔をする。


「あー、うん。……ウルフ系、かな。美味しくないでしょ。それ」


「正直言って、硬くて味も良くわからないです」


 強いて言うなら、ひたすら塩の味がする。


「ペンネさんは何を食べ……」


 ているの、という言葉が続かなかった。

 ゆっくりと口元を見る。

 何か、動いている。


 ウニョウニョ、というか。ぱっと見、爬虫類のような。



「え? ウネムシの踊り食い」


 さも平然とした顔でウネムシと呼ばれた謎の小さなトカゲのようなものを食べる彼女。僕は何を言うでもなく、そうですか、と言ってすぐに顔を逸らす。


 これは、なんといったらいいのか。


 僕からみるとまだご主人様の方がマシな趣味に見えた。


 カニバリズムに興味はないが、食虫の趣味もない。


 せめて焼いたり煮たりして動かなくしてから食べて欲しい。


 踊り食いはない。



 食べ物にカルチャーショックを受けた以外は特に何もなく。


 あとでご主人様に話すためのメモをまとめるくらいしかやることのないような時間が続き。


 魔物に襲われることも動物に邪魔されることもない平穏な時間だった。


 魔除のお香を焚いているおかげのようだ。

 前の馬車では値段が安い代わりにコレを焚いていなかった。



「ところで、お客が少ないのは何故でしょうか」


「ん? 少ない?」


 馬車内には僕ら三人を足しても十人にならないくらいの客がいる。


 シルフィゼリア行きの馬車には二十人はいた気がする。


 馬車の大きさや数にも原因はあるのだが、それにしたって少ない。


 首都に行く馬車なんだ、人は多くても不思議では無いはずだ。


「最近、出入りが禁止されていて、この馬車も門前払いの可能性があるからな」



「……え?」


 馬番のおじさんが顔色を変えずにいう。

 首を傾げる僕、ティータスは眉を潜める。


「なんだ、知らなかったのか? ……まぁ、門を開けるって御触れが出たって聞いたから、平気だとは思うけどなぁ」



「何かあったんですか?」



「さぁ? 緘口令が出てるから、何があったかは知らないが、門を開けるってんなら問題は解決してるんじゃ無いか?」



 ご主人様が忙しそうだったのはそのせいだったのだろうか。


 そういえば、でんわは今も全く鳴らない。まだ忙しいのか、大雑把な性格のせいなのかは知らないが、不安ではある。



「そんな暗い顔しなくていいよ、多分大丈夫だって」



 一切根拠の無い慰めの言葉をかけてくるペンネに、そうですね、と相槌を打つ。


 多分、心のこもり具合が最低値だったであろうその言葉に、彼女は苦笑した。


「……首都は海に接しているから、魚介類が有名だ。水の精霊のための教会もあるが、観光用だからあまり神聖な感じはないな」


「あそこもちゃんとした教会なんだけどな」


 話題を変えるためなのか、首都の観光地の話になる。


「お土産……いや、でも今まで滞在していたなら、いらないかな……?」


「そうだね、シルフィゼリアでいっぱい買ったからね」



「ガトーは金持ちなのか? 一切の躊躇もなく使っていたからな、首都についてからの宿代は足りるか?」



 使い過ぎの心配をされた。


 確かに要らないものも買ったかもしれないが、ご主人様の収集品(コレクション)にすればいいと思って遠慮はしなかった。


 結局のところ、僕はご主人様の『収集品(コレクション)』であり、僕の所有主は彼であるので、僕の持ち物全てにおいても必然的に彼のものだ。


 そう考えると、僕が勝手に買ったものを渡したとしてそれに意味はあるのかという不思議な疑問が浮かび上がってしまう。


 お土産、喜んでもらえるだろうか。





 ……要らないと言われたら容赦なく焼却処分すれば問題無いか。



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