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従者のお使い『とってこい』7

 

「あのお店は小物屋さん、あっちは美味しい喫茶店だけど、私のオススメはさっきの喫茶店」


 楽しそうに笑いながら説明するペンネを片目に僕はキョロキョロする。

 人で賑わうこの街には、話で聞いていた知的生命体がたくさんいた。


 昨日は忙しく、目を向けることができなかったが、こう見ると、うさぎと人間のハーフのような生き物から、魚人間、見る人が見たら妖怪にも見える生物が宙を浮いていた。


 何もない日であるのに、カーニバルのごとき賑わいで、僕は目が回りそうだ。


 お店の話も面白いが、そういった生物観察も楽しい。


「どこか行きたい場所はあったか?」


 延々と喋っているペンネを放置し、ティータスが僕に声をかける。


「お土産屋に行きたいです」


 ご主人様のお土産が買いたい。


 本当はほこらとやらに案内して欲しいのだが、自分から告げて後々の自分の首を絞める羽目にはなりたくない。




 お土産屋は、広くて人が密集した戦争地帯だった。


 品物を吟味する余裕もなく、こういったことに慣れているペンネが名物のものを買ってきてくれた。


 お菓子や小物に紛れて大きい鏡が一つ。

 緑色で、重々しく、手で暗くするとわずかに発光したのが確認できた。



「名物、神の魔道具。ほこらにある鏡を模したレプリカだよ。これと全く同じ見た目の鏡がほこらに祀られているんだ。見学にも行くことができるよ。あとで一緒に行こうね」


「これはただの鏡で、魔道具でもなんでもないけどな」



 まさかの品が手に入ってしまった。


 これと本物交換して終了でいいんじゃないか。


 いや、魔道具と鏡の違いはきっとすぐに見分けられるのだろう。交換はするが、油断はしない方がいい。



 ほこらに向かうことになった。


 宿の南東、意外と近くにほこらはあった。

 一人でも行けるように道を覚える。

 観光名所ではあるようだが、繁華街から遠く、夜中は人通りが一切ないことが予想される。


 怪しまれないように誰にも見られず行くことができるだろうか。


 考えながらも歩みを進める。


 昼間のほこらは案外人が少なかった。


 中には鏡が堂々と放置してあった。


 セキュリティ、何それ美味しいの、というレベルで、何もない。

 門番もいない、道は一直線で触らないように警告する文章も柵もない。


 これではとってくれと言っているようなものだ。


 この目の前にあるものは本当に実物なのだろうかと疑問に思いながら見学が終わった。


 後にペンネがすごい魔法罠があったでしょう、と言っていたので僕に見えない何かがあったようだ。



 本当に僕はとれるだろうか、軽く不安になった。



「今更なこと聞いてもいいですか」


 ふと思いついたので口に出す。

 ペンネとティータスが揃ってこちらを振り向く。


「なあに、なんでも聞いて〜」


 フレンドリーな人だ。後にフレンドリーファイアされないことを祈る。いや、二人と仲間である気はないけれども。



「お二人はシルフィゼリアや首都ルクスタンスに行ったことがあるのですか? それとも案内ができるということは住んでいたことがあったのですか?」



 初めて来たのなら案内なぞ出来ないだろう。ずっと不思議に思ってはいたが、聴く機会を逃していたのだ。


「あら〜、本当に今更だね。何回も行ったことがあるよ。拠点を作らないのが私たちだから、住んだことはないけれど、冒険者はそういう人が多いんじゃないかな」


「物流があって、装備も依頼も多いから、どちらも何度も訪れておかしくない場所だな」


「そういうガトーくんは初めてなんでしょう?」


 聞き返されて、こくりと頷く。


「そうよね、来たことがある人はほこらなんか来ないからね。面白いものも何もなかったでしょう?」




 そうですね、と軽く流す。


「あと、なんで僕の泊まる宿がわかったんですか?」



「この街広いけど昨日空いていた宿はあそこだけだったんだ。俺らは冒険者組合の寮に泊まれるが、ガトーには無理だろう」


 そうだったのか、昨日の僕は運が良かったようだ、そう考えつつ、夕食を抜くことを決意した。


 ペンネの行動が怪しいのだ。



「さぁ、お昼ご飯はあそこのお店にしましょう、デザートを奢るわ!」


 ペンネの目線があちらこちらの飲食店に釘付けである。僕はもう彼女を見ているだけでお腹いっぱいになるのだが、僕も食べなくてはダメだろうか。



 ペンネの勧めで入った店は、ぱっと見居酒屋で、本当に居酒屋だったが、料理は美味だった。


 朝も思ったが、他人の作ったものを食べたのは久しぶりだ。ご主人様は滅多に自らで作らないから。


 そもそもご主人様がいなかったし。



「何食べる? ガトーくん」


 メニューを読み込むペンネを見ながら、周りに座る酒飲みのおじさんお兄さん、たまにお姉さんを見渡す。

 テーブルに面白いくらい並べられている皿とその上の山盛りの揚げ物やカロリー多めな料理の数々に見ているだけで胸焼けがする。


「……一番量の少ないもので、キッズプレートありませんか」


「……本当にガキみたいなもの頼むなよ……ペンネと俺のを小皿に分けてやるよ」


 僕のその日の昼ご飯は炒め物とオムレツが少し、デザートにチョコタルトが一切れ。


 ペンネがまさかのホール食いをしていたのは見なかったことにしたい。


 ティータスも目を逸らしていたから、おそらくあの胃袋は異常なのだ


 僕らは酒を注文しなかったが、店内が酒臭く、服に匂いがついた気がする。



 宿に戻ってから思った。


 まさか消臭剤が役に立つとは。


 ご主人様の屋敷掃除のため作った消臭剤は効果抜群だった。


 風呂に入って、変装がてら、別のマントと予備の服を着て荷物を部屋に置く。流石に隠密行動中に身軽に動くことができないのは困る。




 念には念を置いて、真夜中に明かりも灯さず窓から飛び降りる。一階で助かった。


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