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従者のお使い『とってこい』6

 

 宿をとって、早朝になった。


 小鳥の声で起きるなどという、ロマンチックは捨てられた。


 僕は、乱暴に叩かれた部屋の扉のノック音で目が覚めた。


 寝巻きは着ていたが、髪を人に見られるなと言われて警戒していたのでバンダナは巻いたままだった。さっとマントをとってフードを被り、マフラーをする。


 髪も服も隠した後、扉を開ける。


 ここの扉が魔力に察知して開閉するものでなくてよかった。


 開けた先には二人の人間が立っていた。


 宿の人ではない。



 冒険者のお兄さんお姉さん、ペンネとティータスだ。



「……えぇと、おはよう、ございます」


 とりあえず、挨拶をする。



 二人は返事がない。なんだか、空気が寒い。怒られている気分だが、怒鳴られても暴力を振るわれてもいない。


「…うん、おはよ、ガトーくん」


 あ、ペンネが返事をくれた。

 とりあえず、室内に案内する。


「すみません、今の今まで寝ていました」


「……それにしては着込んでいるようだが」


 ティータスがやっと声を出した。


「中は寝巻きです」


 ほら、と軽くマントをめくる。


 長袖長ズボン、靴下まで着込み防寒の効いた寝巻きに彼女たちはやっと、本調子に戻ったらしい。


 少し空気が柔らかくなった。


「朝早くにごめんなさいね。どうしても聞きたいことがあって」


 優しく笑うペンネ。僕にはそれが困惑と苦しみで苦笑に変化している気がした。


「なんでしょうか」


 単刀直入に聞く、との前置き。


「あの、小瓶。中身はなんだ」


 あの、というのは昨日のあれか。


 はて、そこまで積極的に聞きに来るわけがわからない質問内容だが…。


 ただの溶解液ですと言って通じるだろうか。

 試しに言ってみようか。


「溶解液のようなものです。ご存知で?」



 二人は首を振る。知らないようだ。

 まぁ、知っていたらここまで聞きにはこないか。


「……そうですねぇ……冒険者の方ならわかるでしょうか。キングツボカズラという植物、見たことがありますか」


「あるわ。ツボ型の袋を持つ植物ね、手を入れたりしない限り、無害よね」


「えぇ、そうです。何故、手を入れると危険かわかりますか」


 ペンネは首をかしげたが、ティータスは口を開いた。



「アレは袋に入ったものを食らう。手が食われる」



「では、どのように食べられるか、具体例はわかりますか」



「……何がいいたい」



 彼は痺れを切らしたかのごとく、怒りを目に宿す。


 僕は怒られるようなことをした覚えはない。



「知りませんか。アレらはツボ状の袋の中に入った、消化液で、溶かして養分にして中の物を食べます」


 二人は静かに話を聞いてくれる。


「あの小瓶の中身はソレです。ただ、溶かすだけです。基本的には。キングツボカズラはただのツボカズラよりも食べることができるものが多いので、子犬くらいなら捕食します。子犬すら一瞬で溶かす液体ですから、魔物も溶けるんですね」



 あそこまで速いとは、僕も正直思わなかった。ネズミで実験をしたことはあるが、魔物で試したことはなかったのだ。



 キングツボカズラとは、ウツボカズラという食虫植物をもう少し強化したものだと、僕は思う。動きや、機能はウツボカズラと変わらないが、消化液の消化速度が異様に早い。金属は溶かさないと実験をして確認済みなので、小瓶は解けないが、間違えて触れば手が溶ける。




「それで、あの小瓶がどうかしましたか?」


 平然としている僕に、ティータスは激怒した。


「お前そんなに危険なものを何故あの年寄りに渡した! あの人が間違って自分にかけた場合どうなっていたか、わかっているか!?」



「かけた場所や面積によっては、死んでますね。……僕は相手にかけるよう使用法は告げたはずですが…それが何か」



 今の僕はおそらく、キョトンとした表情をしていることだろう。

 怒っていた彼も、毒気を抜かれたのか、ため息をついた。僕と目を合わせるため軽くしゃがみ、僕の目を見る。


「いいか、ありゃ危険だ。そうホイホイ何も知らない他人に渡すな」


 どうやら説教をしにわざわざ朝から来てくれたようだ。僕は大人しくわかりました、と返事をした。


 よしよしとあのおばあさんと同じように、ペンネが頭を撫でてくる。やはり、触り方が優しい。

 バンダナがズレなくて良いけど、ご主人様の豪快な撫で方の方が好みだ。



「朝から悪いな。着替えて降りてこい、食堂で待ってる」


「食堂で?」


 何故であろうかと考えていると、ペンネがにこりと笑って告げた。



「案内してあげるって、言ったでしょ?」




 着替えて準備を済まし、盗まれたらたまらないのでリュックもバックも持ち、扉を開ける。

 僕の部屋は一階だった。


 同じく一階にはほかに部屋がいくつかと食堂とカウンターがある。二階にも部屋があるそうだ。僕は食堂のテーブル席に座る二人の前に着席する。


「まずは朝ごはん食べようか、お姉さん、私定食で〜、ティータスとガトーくんは?」


 流れるように注文したペンネを尻目に、ティータスはシチューを頼んでいる。シチューとかあるんだ、カレーもあるのだろうか。


 定食とかいいつつ、ここら辺には米の文化がない。パンが出てくる。味噌汁ではなくスープとおかず付きで。


 毎日三食食べる生活は、ご主人様と過ごした五ヶ月前以降あまりしていないので胃袋がもたないかもしれない。基本一食だったからな、とパンを一枚頼んで終える。


「え、パンだけ?」


 店員に聞き返され、ペンネが驚いたようにこちらを見てくる。


「胃袋が小さいので、あまり量が食べられないのです。お金がないとかケチっているとか、そういう訳ではないですよ」


 言い訳がましく言う僕に、ティータスが聞いてくる。


「普段何食べて過ごしているんだ」



「最近は一日、一食、パンや煮込み料理を食べてました」


「だから小さいんじゃないか」


「足、蹴りましょうか?」



 人が少し気にしていることを平然といいやがって…。


 そういえばご主人様がいるときでもあまり三食食べなかったな、と不意に思い出した。


 思ったよりも不健康な生活をしていた。


 朝食を終えて、二人はシルフィゼリアを案内してくれるらしい。



 もうすでに三日目だ。後四日で『とってこい』ができるだろうか。



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