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従者のお使い『とってこい』3

 

「えぇ……どうしましょう」


 これは演技でもなんでもなく本気で戸惑っている。

 彼女は、彼女たちは、僕に何かして得することがあるのだろうか。これはただの親切心からなのか。


「嫌か、まぁお互い知り合って一日も経っていないからな」


「いえ、そこはあまり気にしていませんが、何故そこまで気をつかっていただけるのか、不思議で」



 普段の癖で敬語もどきを発動しているが、それが原因で、()()()()()でなく見えるらしい。彼の目には何か警戒のような不信感のようなものが浮かんでいる。


 警戒するなら、関わらなければ良いものを。



「子供が、心配になるのは。例え見知らぬ子でも、当たり前なのよ」


 僕らの会話を聞いていた。見も知らぬ同乗者のおばあさんが口を挟んだ。


「そういうものですか」


 納得したふりをしながら話を流す。この場で言及してもなんの得にもならない。



「ところで、お二人さんは傭兵さんかい? しっかりした体つきねぇ」


 無遠慮にペシペシ男性の肩を叩くおばあさんは何故だか嬉しそうだ。イケメンだからか。



「いや、冒険者だ。拠点を決めずに旅をしている」


「私たちもシルフィゼリアに観光に行くんです。首都のルクスタンスには冒険者組合の依頼で書類を届けに行くので、ついでに」


 にこりと笑う女性とぶっきらぼうな男性は対照的だ。


「あらそうなの」


 おばあさんは、未だ楽しげに笑っている。

 何が楽しいのか僕には全く予想もつかない。



「そういえば、お嬢さん、不思議ねぇ。そんなに着込んで寒いのかい」


 おばあさんの目線がこちらに向く。確かにと他二人もこちらを見つめる。


 なんて言い訳しようかな。


 季節、というものがこの地域にあるのか知らないが、寒くはない。


 着込んでるからむしろ暑い……ということもない。


 なぜなら、僕は極度の冷え性だから。


 そっと片手をおばあさんに差し出す。

 おばあさんは不思議そうな顔をしてその手を取る。そして触った途端に目を丸くした。


「あら、病気かい? すごく冷たいよ、アンタ」


 声が大きい、周りの他の同乗者も心配そうにこちらを見てくる。

 親切なのは嬉しいが、度が過ぎると迷惑だ。


「観光なんかしてて大丈夫なのか」


 男性が心配そうに聞いてくる。いつの間にか警戒心が消えている。どこに消える要素があったのか。


「これは、ただの冷え性です。肌もそうですが、冷えやすい体質なので、外に出る時は暑い日でも多少防寒具がいるのです」


 ただの体質なので、体調には影響はありません、と付け足す。

 嘘、少し影響がある。夜は少しでも寒いと眠れないし、寒い日に湯船に浸かると足がヒリヒリする。



「そうかい。体は大事にね」


 おばあさんはホッとしたようににこりと笑う。


 よく笑う人だ。



「冷え性か、大変だねぇ。……そうだ、治るようにほこらにお参りに行ったらどう?」



「ほこらに、お参り?」



 ほこら、お使いのターゲットがある場所だろうか。

 それとも他にもほこらがあるのだろうか。


「着いたら案内してあげよっか。ほら、どうかな? 一緒に行かない?」


 興味を示した僕に女性のはニヤリと笑う。


 どうやら、どうしても僕が気になるようだ。

 そこまでして僕に関わる意味がわからない。


「構いませんが、僕はマイペースに動きますから、ご迷惑をかけるかと……」



「いいのいいの、決まりね!」


 可愛らしくウインクする女性に僕は苦笑する。

 仕方がない。ご主人様、冒険者組合に行かずとも案内人が付きました。


 心の中で報告する。僕の頭の中のご主人様は、そっかぁと、こちらも気の抜けそうな返事を返してくれた。


「私はペンネ。短剣使いよ。ランクはC」


「…ティータス。弓使い。同じくランクはC。ペンネとパーティーを組んでいる。あんたは?」


 ランクって何だろう。聞くのも野暮だから黙っておこう。


 それで、僕はなんて名乗ろうか。僕の本名は一応あのチョコの名前なのだが、…そういえば、ご主人様は変なところできっていたな。


 この人たちは名字を名乗っていないから、それでいこうか。



「……ガトー。えぇと……」


 身分を考えていなかった。


 普段やっていることとしては従者もどきだが、それをここで言うには、年も含めて信憑性がない。


 言うことがない。


「……普段はあまり外に出ないから、他に名乗ることが思いつかない。……一応言っておくけれど、病人ではないです」



 増しては死体でもないから。ご主人様は動く死体のようなものだと思っているままだれど。



「箱入り娘……いや、男の子?」



 不思議そうに首を傾げる女性に僕は俯きながら返事をする。



「さぁ? どっちだと思います? ……それと、別に身分が高いわけではないので……箱入りは認めますが」



 ご主人様に丁重に仕舞われていたから、箱入りだという自覚はある。



 そんなわけで僕は冒険者二人組と旅路を共にすることになってしまったのだが、宿が同じとか、一緒に風呂とか、そういう展開は求めていない。


 このままただのお節介な冒険者さんでいてほしい。


 願わくば、僕のお使いを邪魔するお邪魔虫にならないことを。


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