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第五章 トゥノーレ

五 トゥノーレ


 空には輝く火をまき散らしたような星が輝いている。

 カサギたちは、目的地であるレナドゥの一つ手前にある町、エッジウェアにようやくたどり着いて、途方に暮れた。

 というのも、すでにとっぷりと夜も暮れて、どこの宿も閉まってしまっていたからである。

「困ったな。どうしよう」

 つぶやいて、カサギは溜息をつく。

「困ることなんかないぜ。もともと、宿をとる気なんかない。俺の知り合いの家に用があるんだ。そいつの話も聞きたいし、今夜はそいつの家に泊まらせてもらおうぜ」

 イグザードは軽快に言った。

「あら、いいの? あたしたち結構大所帯よ?」

 レイエネが苦笑気味に問うと、イグザードは、少し困ったような顔をした。

「それなんだがな、実は、頼みがある」

「なに?」

「俺の知り合いに話を聞いた後で、あんたたちの兵士には、帝都へ戻ってもらいたい。聞いた話を伝えるのと、軍を派遣できるかどうか、聞いてきて欲しいんだ」

「なぜそんな必要があるの?」

「話を聞いてみればわかる」

 イグザードは、そう素っ気なく言うと、歩き出した。

 エッジウェアは夜でも解放されている珍しい街だ。もともと、宿場町として栄えた場所であるため、城壁などはない。夜間も見張りの警備兵はいるが、基本的に、よほど怪しくない限りは、出入り自由だ。

 現在でも、北との交易の拠点として栄えている。

 北では貴重な木材や香辛料、塩などがとれるため、商人の行き来はかなり多い。南部では植物性のものはごく貴重だから、閉鎖的な北の民族も、商取引だけは活発に行う。

 どんなになっても、お金と物は欲しいものらしい。

「ああ。それから、俺がタヴァト族だってことは秘密にな」

 不意に足をとめて、イグザードは言った。

「なんでだ?」

 カサギは理由が分からずに訊ねた。

「そりゃ、俺たちはここの人たちにとっては盗賊団もいいところだからさ。物資の移動を妨げるために、商人を襲うこともしている」

「ど、どうしてだ!」

「帝都がこれ以上豊かになって、文明が進歩するのをとどめるため、と言っていた。俺にはどうして進歩を止めなきゃならないのか、理解できないけれどな。ただ、ひとは余計なものをどうしてもつくりだしてしまう、自然の摂理からはずれている、だから、管理が必要なんだとか長老が言ってたよ。

 だから、ここの連中には恨まれてる。

 と、いうわけで、俺のことは内密にな」

「あ、ああ、分かった。みんなも、分かったよな?」

 カサギの問いに、全員が頷いた。それを見て、イグザードはあきらかに安堵したように嘆息して、ふたたび歩みを再開した。

 夜も更けているというのに、街中にはかがり火が焚かれ、酒場や、娼館や、賭場などいかがわしい店がにぎわっている。

 大通りはさすがに静かなものだが、通りを少しでも外れれば、すぐにそういう路地に行きあたる。遊んでいるのはもっぱら商人たちで、なかには職人もすこしまじっている。ああして、日々の憂さを晴らしているんだな、とカサギは、年頃の女の子としてはちょっと複雑な気分でイグザードの後ろについて歩いた。

 道は質素で、石畳が敷かれ、きっちりと区切られた帝都とはかなり異なり、地面を踏み固めただけで、馬車の轍の跡や足跡だらけの道は適当で、どこからが道路で、どこからが誰の敷地なのかさっぱりわからない。

 しかも、かなり複雑に入り組んでいるようだ。

 イグザードがいなければ、迷っていた可能性も高い。

 やがて、細い路地に入り、少し進むと、イグザードは一軒の、ふるぼけて至るところが壊れている家の前で立ち止まった。入口はボロボロの木戸。イグザードはそこを三回叩いてしばらく待って、応答がないともう一度三回叩いた。

 すると、木戸が開き、なかからしなやかな体躯の女性が現れた。寝ていたらしく、不機嫌そうに眼をこすって、眉間にしわを寄せている。

「よぅ、トゥノーレ。少しの間厄介になりに来たぜ」

「こんな夜更けに来ていきなりね。まったく、あなたらしいわ……仕方ないか、入って。歓迎は出来かねるけれどね」

 ややつっけんどんに、ハスキーな声音で、女性、トゥノーレは言った。

 夜着だというのに、鮮やかなやや褐色がかった赤の服をまとっている。髪は明るい金色で、瞳は黒味の強い青色だ。

 艶やかで、色っぽくて、カサギが一生かかっても手に出来ない美貌を、さらりと引き立てている。

 羨ましい。

 そんなことを思いつつ、家のなかへと足を踏み入れる。

 なかはひどく寒々しく、たったひとつの、石積みの至るところが欠けている暖炉で燃える炎だけが、ぬくもりを感じさせてくれた。

「なんだか、寂しい部屋だな」

 カサギはぽつりとつぶやいて、目を細めて部屋を見た。ひとが住んでいるというのに、生活のあたたかみがない。床に投げ出された衣類と、ナイフや長剣が何本かだけが、唯一トゥノーレの日常を刻んでいた。

 床は土間で、わらが薄く積もっている。

 それ以外には、石材で作られたテーブルと、木製の椅子がひとつに寝台がふたつ、持ち物を入れておくための長櫃がひとつだけで、がらんとしている。部屋の広さはそこそこあるのに、家具がたったそれだけなので、カサギはトゥノーレがどういう人間なのか、まったく理解できなかった。

「昔からこうなんだ。どうやったって、普通の人間だったら、こうはいかない。だから、こいつがここにいるんだ」

 そんなカサギの様子に気づいたのか、イグザードが言った。

「………つまり、工作員か、諜報員ってことね」

 レイエネが苦々しい様子で言った。

 カサギは、何となく納得してしまった。

「とにかく、あたしに何の用なのか教えてちょうだい」

「だから、厄介になりにきた。ついでにもう一つ、現在のレナドゥ、どうなってる?」

 イグザードが訊ねると、トゥノーレは一つしかない椅子に腰かけて、笑った。

「完全に割れたわよ。どうするつもりなのかしら? ねぇ、イグザード。返答次第ではあたし、あなたたちをここで殺さなけりゃならないわ」

「そりゃ物騒だ。大丈夫さ………俺は、まだ死にたくないし、長老たちのことも嫌いなわけじゃない。こいつらはただ、知りたいだけのやつらだ。

 もう、教えてやってもいい頃合いだろう。

 それに、俺にも知らないことが多すぎる。教えてやってほしいんだ、色々とな」

「そう、そうね。もう、知ってもいいかしら。どのみち、もう最終段階にはいるのだもの。知ったところで、何もできやしないわよね」

 フフフ、と笑って、トゥノーレはわらの積まれた床の上を指差した。

「立ち話もなんだから座って。ここの主はあたしだから、この椅子には座らせてあげられないけれど、作り置きのスープくらいはご馳走するから、そこで好きなようにして。

 それから、話をしてあげる。

 この、夜のうちにね」

 トゥノーレはそう言うと、立ち上がってテーブルから大きな鍋をとると、暖炉の自在鉤に吊り下げた。少しして、いい匂いが部屋に満ちる。

 黙ってふたりの様子を見つめていたカサギやファナラト、レイエネと兵士たちは、なんともいえない空気に、口を閉じて耐えていた。

(なんか、昔の恋人同士の会話みたいだな)

 夜の酒場でよく見た光景を思い出しつつ、カサギはこっそりとため息をついた。

 なんだか、もやもやする。気に入らない。なんでなんだろう。カサギは不機嫌を隠すのがへたくそだった。むっつりしたまま、イグザードを睨みつける。

 と、イグザードが振り向いて、すまないというふうに微笑んだ。それで、なぜかますますカサギはいらついたが、そこは押さえて、黙ってふるまわれたスープをすすり、食後にはきちんと礼も言った。味は、うまくもなければ、まずくもなかった。

 トゥノーレは、全員がひと心地ついたのをみてとると、ようやく口を開く。

「あたしたちタヴァト族は、ここにもともと住んでいた者ではなく、大陸、つまり半島よりずっと北出身の民族なの。

 そこでは、ただひたすら戦乱が続いていてね、大勢の罪もないひとびとが毎日のように死んでいったの。

 超常の力をあやつるすべを心得ていたあたしたちの祖先は、その力でもって戦乱の地から逃げ伸びて、この半島を安住の地と定めて住みついた。

 信じられないかもしれないから、見せてあげるわね」

 トゥノーレはそう言うと、地面に向かって手をかざした。すると、地面の上に積もっていたほこりが、竜巻状に巻きあげられ、風がそこにいた全員の頬をたたいた。

 カサギは、ただただ呆気にとられるばかりだった。こんなことのできる人間がいるとは、全然思ってもみなかったのだ。

「………けれど、ここにも争いの火種はあった。そこで、大陸と断絶させることで、団結力を手に入れられないかと考えたのよ。

 分かる?

 それは画期的で、大陸から攻め入られることもなく、超常の現象によってひとはおびえて、まとまるようになっていった。

 争いが、ほとんどなくなったの。盗賊とか、時折起こる反乱をのぞいて。一時的に。

 でも、やっぱり戦争は起こった。国が生まれたのがその証よ。そこで、ここをひどく恵まれない土地に改造したの。それこそ、奪い合うことで滅びの道を辿ればいいと思って。

 もうその頃には、祖先も年老いて、人に絶望していた。

 けれど、寿命には勝てなくて、あるものを作ったの。

 祖先は、あたしたちにそれを残した。後世を生きる中で、もしも、ひとが愚かな行いを改めなかったのなら、その時は、超常現象を作りだす装置を全開放にして、半島の人をすべて滅ぼせと。

 いままさに、その時なの。国は腐り、ひとが減り始めた。もう、お終いなの。

 そしてあたしは、その考えに賛成している。

 だから、あなたたちの教授を殺したのよ」

 トゥノーレが一旦言葉を切り、カサギとファナラトを、濃い青の瞳で見つめる。カサギは、挑発されているような気がして、トゥノーレを睨みつけた。

 だが、言葉は発しない。それを見て、トゥノーレは微苦笑し、語りを再開した。

「邪魔しようとするのだから………生かしておくわけにはいかなかったの。あと、少しなのだから………。

 たとえこの手を汚してでも、あたしは計画を死守するわ。

 生きてきたなかで学んで、考えて傷ついて、そして選んでつかんだ答え。決して、誰にだって、邪魔なんかさせない。それがあたしの決意よ。

 あなたたちは、どうなの?」

 なめらかに、優雅に、よどみなく、つらつらと語られた衝撃の真実に、誰もが言葉を失っていた。

 俄かに信じられる内容の話ではない。

 しかも、あの時すれ違った女が、トゥノーレだったとは。

 あの赤と白の模様は、布の白と、教授の血の、赤だったのだ。目の前に、仇がいる。そう思うと、どす黒い憎しみが心を支配する。全身全霊が、トゥノーレを殺したい、と叫ぶ。

 が、カサギは、わらのこびりついた手を震わせて、ぎりっ、と歯を食いしばる。

「そんなことは間違っている! ひとは、そんなものじゃない!」

 叫んで、怒りを閃かせた金色の瞳でトゥノーレを睨む。

 が、トゥノーレは涼しげに受け流し、赤い唇を笑みにつりあげて言う。

「ひとはそんなものよ。お穣ちゃん………貴族出身の、甘えた世界で生きてきた目でなにを見たかは知らないけれど、それが、ひとよ。歴史が言っているの」

「私はもともと孤児だ! 地獄なら嫌というほど見た!」

 カサギは喚いた。立ち上がって、拳をにぎり、全身で叫ぶ。

 その言葉に、その場の全員がびっくりしたようにカサギを見た。トゥノーレも、驚いたように息をのむ。一見すると、カサギは良家の息女だった。矜持も高く、品もある。しかし、それは見た目だけのことだった。カサギが努力してつくりあげた、仮面だった。

「私の両親は互いに殺しあって死んだ。孤児院で一緒だったものたちも、理不尽な理由でその九割が死んだ。だがそれは、お前たちがここを閉鎖したからだ。世界は、ここのひとたちは、お前たちの玩具じゃないんだ。

 なぜ、あんないい人たちが、あんな目にあわなければならない!

 生きて行くのに必要なものが手に入らなくて、奪い合うしかない。底辺で、血を吐いてそれでも、そのことを悲しんで、あがきながら生きているんだ!

 お前たちは魔神だ! ひとを食らう、絶望で人を食らう魔神だっ!」

 振り絞るように怒鳴り、カサギは木戸にぶつかるように走りだし、外へと飛び出した。

 真実の残酷さに、焼けつくような怒りが迸る。くだらない。くだらない理由で、死んでいった人たちを思いながら、カサギは走った。

 

 しばらく走ると、街の外に出ていた。

 足もとは不毛の荒野だ。草一本見当たらないけれど、そこでは小さな生き物が必死に暮らしている。生きるためだけに、持てるすべてを捧げている。

 いまは見えなくとも、いのちは息づいている。

 カサギは、大きく息をついて、へたりこんだ。

 冷たい風が頬をなでる。頭がすこし冷えると、今度は冷たい決意が心を支配した。

 トゥノーレは言っていた。

 ひとびとを全滅させる装置がある、と。そんなもの、この私が、ぶっこわしてやる。なにを犠牲にしてでも、そいつは壊さなくてはならない。

 絶対に。

 そう考えていると、後ろから足音が聞こえた。カサギは、はっ、として涙を袖で乱暴にぬぐうと、振り向いた。

「イグザード?」

「こんなところにいたのか。まぁ、気持ちは分かるぜ。俺だって、滅茶苦茶腹が立ってるんだ。少し前までは、俺もなにも知らなかったんだ。二ヵ月ほど前に、父に教えられて、悔いはないかと訊かれた。驚いたぜ。

人間の滅亡だ。悪夢だよ。俺は、放っておいたらまずい、と思った」

「帝都に来たのは、そのためだったのか」

「ああ」

 イグザードは頷いて、へたりこんだカサギの隣に腰を下ろした。

「あんなに激昂するとは思わなかった。それに、孤児だったそうだな。しかも、両親が殺しあっただなんて………とても、そんな過去を抱えている風には見えなかった」

「みなそう言う。本当は、そんなこと言うつもりはなかったんだ。

 だけど、黙っていられなかった。私は、見てきたんだ。この目で。どれだけみんなが苦しんでいるのかを。

 だというのに、そのひとたちは私を助けてくれたんだ。気の毒だと言って、自分たちだって気の毒なのにな………。

 だから、許せなかった。私たちは、まるで飼われたアリだ。狭いところに閉じ込められて、巣を作って、必死で生きて、死んで、また生まれて、生きてきた。管理されてることも見張られていることにも気付かないで、勝手な理由で全滅させられようとしているんだ」

 力をこめて、怒りと憎しみをこめて、カサギは言葉をつらねた。すると、横のイグザードがちいさく嘆息した。

「うまいこというなあ。飼われたアリ、か。確かに、そうだな……。そして、俺は飼い主の側の人間だ」

「イグザード?」

「知らなかった。それはただの言い訳だ。俺はそれを聞かされてからずっと、眠れなくなった。毎日毎日、朝が来るのが怖かった。

 死のうと思ったこともある。朝起きるたびに、無数の屍の上に生かされている自分の身を呪ったよ。

 一生、加害者になって生きるのかと思うと、恐怖だった。

 こんなのは間違ってると、ある日確信した。他にも、そういう考えの奴らを見つけたときには道が開けたようだった」

「………それは」

「俺はそいつらを代表して帝都に乗り込んだんだ。誰でもいい、信じてくれるやつを見つけて、協力してもらうために。そうしないと、取り返しがつかなくなるからだ」

 イグザードはふっと微笑んで、まっすぐにカサギを見つめた。穏やかで、喜びにあふれたあたたかい紫の花びらのような瞳で。

「嬉しかったよ。あんたは信じてくれた。ここまで一緒に来てくれた。けど、足りない。軍が来るぐらいでなけりゃ、長老たちは止められない。

 だから、あいつに会わせた。

 トゥノーレは、長老の孫だ。最も過激な、滅亡の支持者でもある。あいつの言葉だったら、真実味があると思った。

 まあ、ここまで激昂するとは、予想外だったけどな」

「あ………いや、私の生きてきた道が、そうさせたんだろうなと思うけど、正直私も驚いている。こんなに怒ったこと、あまりないから」

 カサギは恥ずかしさを覚えて、それを隠そうと笑ってみた。

「ありがとう」

 不意に言われた言葉のあと、気がついたら抱きしめられていた。カサギは固まってしまった。予想外だ。けれど、不思議と嬉しかった。

 まだ知りあって、ほとんど日は経っていないが、なぜか一緒にいると落ち付いた。

 この気分がなんなのかは分からないが、今は、一緒にがんばろう。

「うん、一緒に、がんばろうな」

 言って、ショックですこししびれた腕をあげて、イグザードの背中に手をあてる。あたたかかった。家族、というものがもしいたのなら、こんなふうに温かかっただろうか?

 そんなことを考えながら、ふたりはしばらくそのままでいた。

 少しして、イグザードがふと、口を開いた。

「あの話のとき、あんたは気づかなかっただろうけど、あのファナラトとかいうやつの様子がすこし変だったぞ? あいつもなにか、このことに思うところがあるのか?」

 カサギは、身体を離して、イグザードと向き合うと、首を横に振った。

「いや、私は知らない。あいつとのつきあいは長いけど、絶対に本心はさらさないやつだ。見えてしまいそうになると、すぐに茶化す。

 だから、私はあまりあいつを知らない。けど、ここに来る前、あいつ言っていたんだ。人間なんか滅ぶなら滅べばいい、所詮は、血と肉の詰まった皮膚だって。あんなに穏やかなやつからあんなに過激な言葉がでてくるなんて、驚いたから、おぼえている。

 多分、トゥニットの家でなにかあったんだろうな、と思って」

 そこで一旦口を閉じて、息をつく。

「あいつ、後妻に殺されそうになったことがあって、その後妻は投獄されたけど、今の後妻ともうまくいってないらしい。

 トゥニット家は、大貴族なんだ。皇帝一族の血に連なる。血が絶えれば、皇帝を排出することもある血筋で、当主争いは凄まじいらしい。あいつは、長男だけど、そんなものいらないと言って、放棄して弟にゆずったらしい。でも、信用されてないらしい。私は、今の後妻が悪い人とは思えないんだ、優しくて、厳しくて、いい人なんだ……私のことも、褒めてくれて、婚約者にされそうになったよ。

 孤児の、私をな……だから、なにかあるとしたら、殺されそうになったことだと思う」

「そうか」

 イグザードは、少し唸って、言った。

「気をつけてやった方がいいかもしれないな………ところで、婚約者って」

「え?」

 カサギはイグザードがなにをいいたいのか読めずに、首をかしげた。

 その時、町のほうで、大声があがった。

 風に乗って、かすかに響く怒号は、言っていた。

「タヴァト族を見つけたぞ!」

 カサギは、イグザードを見た。彼はここにいる。ここには、ふたりしかいない。つまり、見つかったタヴァト族とは、トゥノーレ!

「行こう!」

「ああ!」

 頷きあい、ふたりは町の方へ駆け出した。 



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