二人で弁当を食べた
温かい目で見ていただけると幸いです。
ふと幼き日の記憶を思い出す。
桜の花が咲く季節。
広場にある桜の木の下で笑っていた少女の姿を。
少女の名前は星崎優奈。代々続く星崎家の長女、つまりはお嬢様だ。
優奈の家の庭はとても広い、当時は広場か何かと勘違いしていた。
よく遊ぶようになって初めて家に行ったときにとても驚いたことを憶えている。
そういえば優奈を始めて見たのも庭だったな。
優奈と俺は出会った頃から仲良くしている幼馴染で、八年が経った今でも絶賛片思い中である。
え?どうして告白しないのかって?
いやいやそれは俺も告白したいと思っているが、優奈は絶望的なまでに恋愛に対して鈍感なのだ。
俺は今まで遊園地や水族館に誘ったり、ベタだが薔薇の花束(花言葉は愛)をプレゼントしたりといろいろなアプローチをしてきた。
ちなみに薔薇の花束をプレゼントした時は友達にキモいと言われたんだが。何故だろう?
まあ、つまり、何が言いたいのかというと幼馴染ということで、全て遊びの誘いや単なる贈り物だと勘違いされてしまうのだ。
ギャルゲーじゃあるまいし、優奈も俺のことが好きだということは考えにくい。
ギャルゲーなら何作もプレイしてきたのだがリアルはなかなかうまくいかないなぁ。
それにどうせ告白するなら絶対にOKをもらいたい。
八年間も思い続けてきたのだ、これで断られたら俺はこの先どう生きていけばいいのだろう。
ところで今は数学の授業中なのだが難しくて俺の脳では理解できない。
そして昨日夜中までゲームをしていたこともあって眠い。
こんな風に考え事をする余裕はあるんだけどね。
まあ、そろそろ限界が近いようだけど……
「・・・・・・と!・・・・・・・櫂人ってば!」
俺を呼ぶ声がする。誰だろう。透き通るようでそれでいて可愛らしい声。
「優奈?ん……なんだどうかしたのか?」
「なんだじゃないわよ!授業中だっていうのにずっと寝ちゃって!」
「まあ、いいわもう昼食の時間よ。屋上で食べましょ」
どうやら寝てしまっていたらしい。
まだ眠いのでもう少し寝ていたいのだが、優奈と弁当を食べるために仕方なく席を立ち、二人でいくつか会話を交わしながら屋上へ向かう。
たしか今日の弁当には唐揚げ入っていたな。
母が朝から張り切って作っていたのを思い出す。
母の作る唐揚げはとても美味しく、俺の好きな食べ物ランキング上位にも入っている。
ちなみに優奈の好物でもある。
屋上に着くと数人の先客はいたのものの、屋上のベンチはいくつか空いていた。
「あそこに座りましょ」
優奈が空いているベンチを指さす。
そこからの眺めはあまりよくないのだがまあいいだろう。
俺たち二人はそこに座りそれぞれ持ってきた弁当を開ける。
「あ、櫂人のお弁当唐揚げ入ってるじゃない!一つちょうだいよ」
俺の弁当を覗き込みながら優奈が言った。
「やだよ、俺が唐揚げ好きなの知ってるだろ」
「え~じゃあ私の卵焼きと交換ならいいでしょ?」
「うーん、それならいいかな。」
そういいながら優奈の弁当に唐揚げを移す。
「ありがと!じゃあお返しに卵焼きあげるね。はい、あーん」
思わず顔が赤くなる。
こういうことを平気でやってのけるから怖い。
こいつ本気で俺の好意に気付いていないな。
まあ、嬉しいことに変わりはない。
「あ・・・・・・あーん・・・・・・」
言われるがままに口を開け、卵焼きを食べる。
瞬間、俺の口の中に衝撃が走った。
なっなんだこの卵焼きは!とてつもなく・・・・・・不味い。
俺は料理はあまり得意ではないのだが、これと比べれば俺が作った卵焼きの方が何倍も美味しい。
そういえば、優奈は料理が壊滅的にダメだったな。
普段の弁当は星崎家の使用人が作っているためすっかり忘れていた。
現在、使用人たちは星崎家当主(優奈の父)の計らいで慰安旅行に行っているのだ。
帰ってくるのは今日の夕方ぐらいらしい。
つまりは、今日の弁当は優奈本人が作ったということだろう。
まあ、味見もせずに作ってきたんだろうな。
それにしても何をどうしたらこんなに不味くなるんだろう?
疑問に思った俺は聞いてみることにした。
「なあ優奈、お前この卵焼きに何を入れた?」
「え?レシピ通りに作ったつもりよ。ただそれだと何か物足りない気がしたから、隠し味にチョコを入れたわ。」
え、なにいってんだこいつ?
「チョコは私の大好物なのよ!美味しくならないはずがないわ」
はい、爆弾発言いただきました。
いくらなんでも卵焼きにチョコが合わないことぐらいわかるだろう。
まあ、そういうところも含めて好きなのだが。
ちなみに、先に屋上に来ていた人たちは優奈の発言を聞いて少しざわついていた。
噂になりそうな予感・・・・・・
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