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いたずらをしていいのはいたずらをされてもいい覚悟を持つ人だけです

活動報告にアップしていたハロウィンネタです。


「ヴィル、お菓子くれなきゃいたずらしますよ! にゃーん!」


 可愛い恋人が猫耳に尻尾を身に付けて我が家を訪問した時、ヴィルフリートは思わず瞳を細めた。

 何をしてるんだ、とかあざと可愛い、とかそんな感想を浮かばせる桃色の耳(偽物)を頭部に飾った少女は、ヴィルフリートの座るソファにぴょこんと飛び乗ってくっついてくる。


 合鍵を与えたのはいいしこうしていつの間にか家に居るのはいいが、この格好を外でしてきたんじゃないかと不安になる。


 お菓子をくれなければいたずらをする、と言っていたが、そういえばそんな催しがあったな、と思い出したものの、それは子供がやる事で一応大人のエステルがするとは思っていなかった。


 まあ、お菓子をねだられたところで、別になんの支障もないのだが。


「猫の仮装をしてきたと思えば……。そういう催しがあるそうですね。何がいいですか」

「え?」

「戸棚にブールドネージュ、マドレーヌがありますし、冷凍室にレアチーズケーキとオレンジショコラムース、あとカタラーナがありますが」


 エステルがしょっちゅう家にやって来るしおやつを食べていくのは分かりきっているので、ヴィルフリートは手作りスイーツを常備している。

 魔導師という事で冷凍保存も何のそのであるし、割と作るのに費用がかかるものも余裕綽々で作って置いてあった。

 日持ちするものや冷凍保存出来るものを優先的に作っているが、基本はエステルが食べたいと言ったものを作っているので、彼女のお気に召すものは今挙げた中にあるだろう。


 しかしながら、エステルとしてはいたずらがしたかったのか、お菓子の羅列に目に見えてあたふたしていた。

 ちょっと考えれば分かる事だっただろうに、いたずらの方に頭がいっぱいになっていたのだろう。


「ず、ずるくないですかそれ!」

「そんな事言われても、あなたが食べたいとリクエストしたものですよ」

「う、うううう」

「お好きなものをお食べなさい」

「……はい」


 いたずら目的の襲撃犯はあっさりと返り討ちにあって、すごすごと引き下がった。ちょっぴり不服そうながらもおやつはもらう気満々なあたり、ある意味目的は果たせているだろうから勘弁してほしい。


 あとでお茶をいれなければな、なんてエステルがやけ食いに走って喉につまらせる前に用意しようと考えて、ふと自分はなにもしていないな、という事に気付く。


「ところで」

「はい?」

「俺にもお菓子いただけますか?」

「え、」

「そういう日なのでしょう?」


 今日は、お菓子かいたずらの選択を迫っても良い日らしい。それは、エステルもやっているから大人でも良いようだ。


 なら、ヴィルフリートにもする権利はあるだろう。


 ヴィルフリートの言葉に、見るからにエステルの表情がこわばった。

 どうやら、やり返される事は考えていなかったようだ。


「そ、そう、です」

「では俺も聞いてもいいですよね?」

「……ご、ごめんなさい、また後で」

「そうはいきませんよ。今から買いにいこうとするのは目に見えてますので」


 後で、と言うとエステルはおかしを買ってきてしまうだろう。

 それでは、意味がない。エステルがヴィルフリートにいたずらをしたかったように、ヴィルフリートもエステルにいたずらしたいのだ。ささやかな、いたずらを。


 にっこりと笑って阻止したヴィルフリートに、ひくりとエステルの頬が震える。

 自分の末路を悟ったらしい。ヴィルフリートも、逃がす気はない。


「では、改めまして。エステル、お菓子を捧げるのとといたずらどちらがいいですか?」

「選択権ないです!」

「ではいたずらですね」

「にゃああああああ」


 仮装の猫のような悲鳴をあげてソファから離れようとしたエステルを、ヴィルフリートはしっかりと捕まえる。

 いたずらしてもいいのはいたずらされてもいい覚悟を持つ人間だけなのだ。今エステルは子猫であるが、オイタをしようとすればお仕置きが待っているのを教え込むのも悪くない


 普段なら自ら乗ってくるエステルを強引に膝の上に乗せて抱き締めたヴィルフリートがにこりと微笑むと、借りてきた猫よりも大人しくなる、というか怯えたエステル。


 別にとって食べる訳でもないしひどい事はするつもりもないのだが、エステルにはヴィルフリートの笑みが怖かったらしい。みぃぃ、とぷるぷる震えている。


「さて、どういたずらしてあげましょうか」

「い、いじわるはいやです……」

「俺がいついじわるしましたか。普段はかなり紳士的なつもりですが」

「そういう人に限ってどエスだって!」

「誰が言いましたか」

「エリクがぁ……」

「あの人には今度改めてお話を聞いておきます。……さ、たっぷりいたずらしましょうか」


 耳元に唇を寄せただけでびくっと大袈裟に震える子猫なんだか子うさぎなんだかに、ヴィルフリートはゆっくりと掌を体に触れさせた。




「……しぬ、しんじゃう」

「くすぐったくらいで大袈裟な」

「わ、私がどれだけくすぐりに弱いか知ってるくせにー!」

「ええ、今ので大変理解しました」

「ヴィルのいじわるっ」

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